詩「引力は遠くに」

有原野分

引力は遠くに

思えば 悲しみを噛み砕くために

タバコを吸っていた 若い頃

膨らんだ夜に 月を見上げて

おぼろげな悲しさの

正体を暴こうと躍起になることに夢中だった


一つ年を重ねれば

一人友が離れていく

年を取るということは

ぼんやりとした月明かりの

明け方の向かい酒のような

淡く透き通った木の葉の上を

裸足で歩くような感覚に似ている


   「悪かったよ」

   お前のその言葉を

   信じられなかった


歩くほどに離れていく

涙が止まらないほどに

この星は丸いというのに

出会うことはもう二度とない

月明かりを背に

惑星と惑星を繋ぐ引力のように

私たちの間にも必ずあったはず

これが永遠だと錯覚してしまうような心地の

 いい浮遊感


その距離384400km


私の回転が止まったとき

お前は離れていく

すべては停止して

周りのものすべて

 それは

     生

       と

         死

           さえ

             。

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詩「引力は遠くに」 有原野分 @yujiarihara

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