聖女×ロボット×ファンタジー！ 死にたくなければモノ作れ、ものづくり魔法が世界をすくう！

第四章 ボクの夢は聖女さま！

第115話 天使と竜

　さて地上で人間同士のいざこざが色々とおこっている中、世界の外にいる者たちもけっして遊んでいたわけではない。

　ここ世界の東の果てでは長年にわたる戦いにようやく終止符が打たれようとしていた。

『グアアアアオッ！

　ガアアオオオオオオッ！！』

　宇宙空間に巨大な邪竜の思念が荒れ狂う。

　心の弱いものならこの思念波だけでも精神をやられてしまうだろう。

　赤黒い超巨大な肉塊。

　そこから無数にはえた首長の竜頭。

　ただ破壊のためだけに生まれた強大な悪魔（ディアブル）。

　ここではないどこかの世界を滅ぼし、はるか宇宙のかなたから漂流（ひょうりゅう）してきた最悪の侵略者である。

『ギェアアアアアッ！！』

　邪竜の咆哮（ほうこう）。

　これはある種の魔法攻撃だった。

　殺意。

　怒り。

　憎悪。

　そういったいかにも悪魔（ディアブル）らしい思念を魔力にのせて放射してくるのだ。

「く、くうう、頭がガンガンしてきやがる……！」

『ユウキ様、大丈夫ですか』

　陣形の最後列にいるクリムゾンセラフ。

　その内部にいた勇輝は、邪竜の思念波にやられて苦しんでいた。

「うっとうしいぜ、コイツ！」

　自分のこめかみをおさえながらわめく勇輝。

　敵は力押ししかできないパワーバカみたいな外見をしているくせに、意外に攻め手が多彩である。

『下がりたまえユウキ、そもそも宇宙での戦闘は君に向いていない』

　冷たく言いはなつのは第七天使ユリウス。

　十二天使のうち『全体指揮』を担当する機兵だ。

「ぐぬぬ、聖女の盾になれっつったのはアンタだろ！」

　勇輝は痛みを振り払うように首をふり、ユリウスの提案を断る。

『やれやれ困った妹だ、そうは思わないかね諸君？』

　他の十二天使たちから笑い声が聞こえてきた。

　さすがというかなんというか、歴戦の彼らはたいしたダメージを受けていないようだ。

　そんな中、全身を障壁（バリア）で守られた機兵が最前列に飛び出した。

　第一天使ジェンナイオだ。

『大丈夫だッ！

　お前も俺が守るッ！

　俺の盾は世界を守る正義の盾だ！！！』

　ジェンナイオは障壁（バリア）ごと竜の頭に体当たりした。

　バチッ！　バチバチバチ！

　目の前の一体をおさえつけるが、上下左右から他の竜が急接近して次々と襲いかかる。

『いかん。

　マルツォ、ヘルクレース、援護を！』

　ユリウスの指示を受け第三、第十の天使がそれぞれ武器をたずさえて白兵戦をいどんでいく。

『フェブ、君とファウスはいつでも準備をしておいてくれ。

　アプリとジュノはフェブの護衛。

　マイウスは陣の中央で回復に専念！

　アントニーとエクスはオクタの指示に従え！』

　次々と指示が出され、それぞれの天使たちがいそがしく戦場を飛んでいく。

　勇輝はエウフェーミアのそばでポツンと宙を漂（ただよ）っていた。

　十二天使の主であるエウフェーミアは一見なにもしていないようであるが、実際にはとてつもない量の魔力が十二天使に送られ続けている。

「みんな気をつけて……がんばって……。

　私、みんなのために祈っているから……！」

　胸の前で手を組み、どことなくうすら寒いセリフを言っているのが気に障（さわ）る。

　気に障るがしかし、送りつづけている魔力の量は実際とてつもない。

　たった一人で『聖都全員で天使の群れを呼んだ時』と同じくらいの魔力量を放出し続けている。

　一般人百万人分だ。

　この伝説の聖女、ヒロイン脳がクソ寒いけれどやはり尋常ではない。

『ウオオオオオッ！

　俺たちの絆はッ！

　貴様なんかにッ！

　敗れはしなああああああいッ！！！』

　敵の真正面で大騒ぎしているパーティの盾、ジェンナイオ。

　彼が敵の注意をひきつけ、左右の戦士たちが邪竜の身体を切り刻んでいく。

『今だ、オクタウィアヌス！』

　別動隊をひきいていた第八天使にむかって、ユリウスが合図を送った。

『了解しました。

　撃て、兄弟たちよ！！』

　邪竜の本体めがけて、三体の機兵が側面から一斉に魔法をはなった。

　正面での白兵戦に気をとられていた竜たちはこれをまともに食らう。

『グオオオ……！！』

　竜たちがのけぞり、苦しんでいた。

　あきらかに苦痛を味わい、のたうっている。

　勇輝は興奮してさけぶ。

「き、きいてる、いけるぞユリウス！」

『当然だ』

　ユリウスは偉そうにふんぞりかえって語る。

『我々は何年もの時をついやして奴と戦い続けてきた。

　かつては絶望的だった巨体もいまは半分以下に縮（ちぢ）んでいる。

　ついに勝利の果実を収穫する時が来たのだ』

　ユリウスは左右の手をひろげて二つの部隊に命じた。

『先鋒隊、別動隊、間（ま）をおかずに攻め続けよ！

　もうすぐ『光』が来るぞ！』

『おうっ！』

『了解！』

　命令通り二つの部隊はさらにはげしく攻め立てる。

　竜の牙と天使の刃がぶつかり合って鎬（しのぎ）をけずり。

　灼熱のブレスと聖なる魔法が激突して爆発する。

　負傷した味方は第五天使マイウスによって癒（いや）された。

　押している。

　あきらかに味方の優勢だ。

「……ところで『光』ってなんだ？」

　はるか後方で見学している勇輝はキョロキョロと戦場を見わたした。

　もう一部隊。

　天頂方向へむかって大きく迂回（うかい）している四体がいた。

　第二天使フェブライオ。

　第四天使アプリーレ。

　第六天使ジュノーネ。

　第十一天使ファウスティナ。

　この四機だ。