第106話 金色の妖眼

 ほうっておくわけにもいかないだろう。

 勇輝は連中のところへ行ってみることにした。

 だが正面から行っては敵の作戦をまともに受けてしまう。

 まわりこんで後ろから接近する。


 場所は駐車場だ。

 馬車がいくつも止められているため死角は多く、隠れるのはたやすい。

 勇輝は男たちから約二十メートルまで接近した。


 まだ気づかれている様子はない。

 遠くから見張っている者でもいるのかと探ってみたがそういう様子もない。


(なんなんだこいつら?)


 覆面ふくめんをつけた男たち四人は、ひとつにかたまって勇輝の馬車をにらみ続けている。

 二手ふたてにわかれるとか四方しほうをかこむとか、そういう発想もないらしい。

 一網打尽いちもうだじんではないか、こんなもの。


 勇輝は足から地面に魔力を通し、仕掛けを終えた。

 相手はまだ気づかない。

 というか後ろも左右も目に入らないようだ。


 周囲の人間たちなどは覆面四人組と勇輝を交互こうごに見て、ヒソヒソないしょ話をしているほどだというのに。


 ……まあ色々考えるのも面倒なので、やってしまうことにした。


「出でよパックンフロアー!」


 四人組の地面が前後左右すべての方向から盛り上がってきて、まるで食虫植物のように捕獲した。


 バクッ!


 捕獲成功。

 実に簡単だ。

 あまりに簡単すぎて気が抜けてしまうが、それでもあえて油断はしない。


 パックンフロアーの周囲を鉄格子てつごうしに作り替える。

 次にパックンフロアーの中身をくさりに変えて、男たちを個別にしばった。


 即席の牢屋ろうや拘束具こうそくぐのできあがりだ。


「なんなんだよ、お前ら」


 男たちを見下ろしながら話しかける。

 意外にも男たちはこんな状態なのに騒ぎもしなければ驚きもしない。

 落ち着いているというより、ボンヤリと寝ぼけているような顔をしていた。


「僕は」「俺は」「オレは」「ニコラはね」


 四人の男たちはボンヤリした顔でそれぞれ答える。

 一人は二コラという名らしい、まあどうでもいいが。


暴漢ぼうかんだ(よ)』


 四人の声がきれいにハモった。


「……ほ、ほう」


 どうリアクションしたものか困ってしまう。


「普通、暴漢は自分のことを暴漢とはいわねえと思うんだがな」

『…………』


 男たちは返事をしない。

 うつろな瞳で勇輝の顔をジーっと見つめている。

 どうも様子がおかしすぎる、正気とは思えない。


「シャブ中……?

 いや催眠術とか……?」


 勇輝は鉄格子の中に小型のゴーレムを作り、男たちの覆面を取らせた。

 とくに抵抗されることもなく次々と素顔が明らかになる。

 何となく見おぼえがあるような美男子ばかりだった。

 たぶんあのクソ王子の後ろにいた連中。


「おい、お前らあの王子になにをされたんだ」

『…………』


 返事がない。ただのシャブ中のようだ。


「……警察呼ぶか」


 勇輝は警備員さんに頼んで警察に通報することにした。

 しばらくたって駆けつけた警察官たちは、四人組の身分ありげな服装をみて関わりたくなさそうな顔をする。


 上級国民が相手だと、あとで上司からなに言われるか分かったもんじゃないから。


 だが他ならぬ本人たちが『暴漢だ……』と自供じきょうするので、仕方なくという顔で連行していった。


 ちなみに全員、小さなナイフを上着の内側に隠し持っていた。

 殺人未遂さつじんみすいということになるのだろうか。





 これらの一部いちぶ始終しじゅうを、水晶玉でのぞいている男がいた。


「おやおやおや……」


 あきれ顔で四人組を見つめるフード姿の男、グレーゲル。


「こののろいはどうも匙加減さじかげんがむずかしい。

 ただの木偶でくぼうになってしまったか」


 口からよだれをたらしてボケーっとしている四人組を嘲笑ちょうしょうするグレーゲル。

 四人に対してもうしわけないという気持ちは一切ないようだ。


「それにしてもうわさ以上の魔力だ」


 水晶玉は勇輝の顔をうつし出していた。


「魔女め。

 かたきはかならず討たせてもらうぞ」


 フードの奥で金色の目があやしく光っていた。

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