第75話 探索、ひみつのお部屋
「最優先は皇女を捕らえることだ、最悪の場合それ以外は殺してもかまわん」
騎士の小隊長は部下たちにそう告げる。
とくに腕の立つものを五人
さほど広さのない館内だ。
一階部分はすぐに調べ終えた。
……誰もいない。
次に一行は階段をのぼって二階部分にむかう。
万が一、一階のどこかに隠れてやり過ごされたとしても、外へ出れば待ちかまえている部下たちが捕まえてくれる。
だから突入班は安心して
二階も入念にしらべたが、やはり誰もいない。
……となるとやはり、地下のかくし部屋か。
いよいよ本命の探索となり、騎士たちの顔に緊張がはしる。
(いけ)
小隊長が
部下の一人がうなずき、クロゼットのドアの横にはりつく。
無造作にいきなり開けたりはしない。
開けた
そおっと、ドアノブに手をかける。
小隊長とアイコンタクトをかわし、上司が身構えながらうなずくのを見てドアを開けた。
……何も起こらなかった。
「よし、邪魔くさい服をどけろ!
気をつけろ、赤眼の小娘が罠をしかけているかもしれん!」
五人の部下たちが豪華なドレスの数々を引っぱり出し、遠慮なく床に投げ捨てていく。
この一着一着が、彼らの月収と変わらぬくらいの値段になるだろう。もしかしたら世界一豪華な目くらましかも知れない。
その豪華な目くらましをすべて取り除くと、ガランとしたただの空間となる。
「探せ、地下への入り口が隠されているはずだ」
小隊長をふくめると六人。
全員がいっせいに入るのは無理なので、二人に探させる。
やることが無くなった騎士たちは、床にちらばる数々のドレスに気をとられた。
「しっかし、すごいもんですね。
こんなのを着る
それともドレスで
一人の男が気の抜けたような態度でそんなことを言いだした。
「おい、任務中だぞ」
「いいじゃないっすか、ちょっとくらい」
男は言うことを聞かず、ドレスの手触りを楽しんでいる。
「おれ、妹が居るんです。
こんなドレスを、あいつにも着させてやりたかったな」
その言葉を聞いて、周りの者は文句を言えなくなった。
自分たちは大罪人として死をむかえる運命にある。
こうして仲間うちで軽口を言い合えるのも、きっと今のうちだけだ。
「……逃げたいなら、いいぞ」
ギリギリ聞こえるかどうかという声で、小隊長がつぶやいた。
「よしてくださいよ、ちょっと遊んだだけっす」
男はドレスを手放して顔をひきしめた。
「ありました!」
クロゼットの中から声が飛んできた。
「ここが引き戸になっているようです!」
「おい待て、うかつに開けるな!」
小隊長の指示を待たず、隠し扉を発見した男はガラッと開けてしまった。
その
ドガアアアアンン!!
強烈な爆発音が《
ドアを開けた男はショックで気絶している。
「チッ、馬鹿が!」
小隊長が駆け寄り、倒れた男の状態を確認する。
ド
あの赤眼の小娘は好きなように道具を作り出せる。
手加減されたのは明白だ。
「ナメやがって……!」
頭に血がのぼりそうになるのを、
今ので自分たちの接近をさとられてしまった。
「突入するぞ、罠に気をつけろ!」
気絶した男を一人の隊員にまかせて、館から退去させる。
残り四人で地下への階段を下った。
「いない、ですね……」
秘密の地下室は一階よりもさらにせまい個室であった。
小さなテーブルの上に二つ、真新しいティーカップがある。
小隊長は二つのカップに触れた。
「まだ温もりが残っている。
ここに居たことは間違いない」
四方を観察すると、北側に金属製のドアがあった。
「これは……、まずいな……」
罠の有無を念入りに確認してから開けると、扉のむこうは細長い石造りの通路となっていた。
脱出通路だ。
こんなものがあるとは聞いていない。
「馬鹿のせいで音を聞かれてしまったな、追いつけるか?」
念のため、通路に入る前に室内をぐるっと見回した。
石造りのせまい部屋。
人間が隠れていられるようなスペースはどこにもない。
「よし、急ぐぞ」
小隊長が先頭となって、細長い脱出路を進んでいった……。
「ふうーーっ」
勇輝はホッと胸をなでおろした。
そして小声で皇女殿下とメイドさんに話しかける。
「いざとなると緊張しますね」
マリアテレーズ皇女殿下は両手で顔をおおって首を横にふる。
「もうイヤ、どうしてこんな目にあうの……」
三人は、勇輝が追加で作った第二隠し部屋にひそんでいた。
場所は脱出用通路に入った直後、ドアの裏側に位置する部分である。
隠し部屋のさらに隠し部屋。
しかも通路を使って逃げられた、早く追わないと! と思わせた上でのひっかけ技である。
こんなの絶対見破られねえよフハハハハ!
と、作った瞬間はそう思ったものの、実際に敵が近づいてくるともう怖い怖い。
自分の呼吸音ですらうるさく聞こえてしまうほどの、とてつもない緊張感に苦しめられた。
「念には念をいれといて良かったっすねー。
ちょっと出入口がテンプレすぎるなって思ったんですよ」
高貴な身分の女性が住む家。
隠し部屋の入り口は
これはさすがに場所がお約束すぎる。
そこでもう一つ隠し部屋を作っておこうと、地下に入った瞬間に実行したわけだ。
やっておいて正解だった。
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