第76話 不安との戦い
敵の襲撃をひとまずかわした勇輝たち。
しかしいつ敵が引き返してくるかも知れず、ふたつめの隠し部屋に閉じこもっているしかなかった。
勇輝は偵察用ドローンで情報収集に専念。
通路に人の気配が来ないかどうかはメイドさんにチェックをお願いすることにした。
「多分ですけど、校内に共犯者がいると思うんですよね」
ドローンから送られてくる画像をチェックしながら勇輝がぼやく。
「何でもかんでも敵のやることが速すぎるんですよ。
学校側がなんにも対応できないうちに征圧してしまうなんて、あらかじめ建物の配置を知っていたとしか……」
学園内の主要施設を征圧しきるまでの迅速さ。
生徒を監禁する場所の選択にいっさい迷うことなく、礼拝堂に決定した
そしてこの《
敵のやり口はあまりにも優秀すぎて不自然なのだ。
学園で生活している誰かが情報を流しているにちがいない。
そのあたりをちゃんと
「そんな、ありえませんわ。
栄光ある我が校の生徒が、犯罪者に
つい興奮して声を
「そりゃね。
気持ちはわかりますよ。
俺だって聖騎士がこんなことしてるなんて信じたくない」
騎士の一人一人が自分をどう思っているかなんて知るよしもないが、少なくとも勇輝は彼らのことを戦友だと思っている。
あの地獄のような魔王戦役をともに戦った仲だと。
しかしその想いと今の状況は、あきらかに正面衝突している。
心の中でうまく処理できず、軽くないストレスを感じる。
まさか
理論的にはあり得ない。
だったら勇輝を送り込むわけがないからだ。
でも理論的というのなら、そもそも民衆を守るべき聖騎士団がこんな
「だから、とにかくたくさんのことを知りたいんですよ。
知らなきゃどうすりゃいいのか分からない」
ドローンは外を歩かされている女生徒たちの集団を発見した。
学生
「この人質たちを何とかしねえと……」
何とかしたいと心から思うが、しかしそんな方法があるのだろうか。
戦闘のプロ集団である聖騎士と、暴力的な事にまったく
100%間違いなく聖騎士側が有利である。
うまいこと引きはがす方法なんて無さそうに思えてしまう。
「……そうよ、騎士といえば、あの子に違いないわ」
マリアテレーズ殿下が共犯者の可能性がある人物に気づいたようだ。
「ダリアよ。
ダリア・バルバーリ。
あの子、第三騎士団長の孫娘なの」
「団長の孫、なるほど。
第三、っていうとあのグスタフとかいう
「……グスターヴォじゃなかったかしら」
「そうですか、じゃあそっちで」
あいかわらず、勇輝は人の名前をおぼえるのが苦手である。
「貴女も昨日会っているわ。
緑色の髪をした、軍服のよく似合う子よ」
「ああ、あの」
国宝ぶっ壊すきっかけになった子である。
「そうですかー、直接話を聞いてみたいですが、今は難しいですよね」
「そうねえ」
顔を出した瞬間に騎士が駆けつけてくるだろう。
だが覚えておいて損はない。
「あの」
ずっと直立不動ちょくりつふどうの姿勢で立っていたメイドさんが、おそるおそる口を開いた。
名前はまだ知らない。
勇輝はちゃんと彼女のぶんもイスを用意したのだが、彼女はおそれおおいと言って
「恐れながら、申し上げたいことが」
「なんです?」
メイドさんは勇輝ではなく、マリアテレーズ殿下の顔を遠慮がちに見る。
主君の許可なしに発言はできないらしい。
「言ってごらんなさい」
許可を得て、ようやくメイドさんは自分の意見を語りだした。
「聖女様は外と連絡がつかないのに、その『どろーん』という物は離れていても操ることができています。
それはなぜでしょうか」
「えっ」
言われてみれば確かにおかしい。
魔力の波動が
「わたくし思いますに、相手の通信妨害というのは『面』ではなく、『線』で行われているのではないでしょうか」
「線?」
「はい」
彼女はポケットから紙ナプキンを取りだし、ペンで大きな四角を書いた。
学園の大ざっぱな見取り図である。
「相手はおそらく、学園の外壁近くに術師や魔道具をいくつも置いて、内と外を
四角形の線上にいくつか丸が記入される。
「術師のほうはわかりかねますが、魔道具に関しては巨大なものではないはずです。
出力の弱い小型のものを十個、あるいは二十個ほど設置しているかと」
「は、はあ」
立て板に水のいきおいでスラスラと意見をのべるメイドさん。
勇輝は意見をはさむ余地もなく、ただ聞くのみだ。
いったい何者なのだろうこの人は。
「必然的に一つ一つの場所を厳重に管理するというのは不可能なはずです。
聖女様の『どろーん』で手薄な場所を見つけ、破壊できれば、外部と接触できるようになるのではありませんでしょうか」
「…………」
勇輝はポカンと口をあけ、メイドさんの顔を見つめた。
「し、失礼いたしました。差し出がましいことを」
「いやすごい、すごいですよあなた!
それで行きましょう!」
思わずはしゃぐ勇輝を、メイドさんはたしなめた。
「お、お静かになさいませ。お声が響いてしまいます」
「おっと」
あわてて口をふさぐ。
そして言われた通りドローンを散開させ、外壁部分を探索させる。
まだなにも解決はしていない。
今は少しずつでも情報を集めて、逆転の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます