第27話 笑顔(ヒロインがやっちゃいけない系のやつ)
次の日。
太陽が天頂をわずかに通りすぎた頃。
勇輝が借りている客室には、勇輝とクラリーチェの姿があった。
「お加減はいかがですか」
昼食の食器を片付けているクラリーチェの言葉に、
「うん、もうすっかり元気だよ。
色々面倒をかけてごめんね」
「別に大したことではありません、お礼ですから」
「お礼って?」
「………………」
クラリーチェはなぜかうつむいて黙ってしまう。
「ふーん、……ん?」
突然勇輝は顔を上にむけると、しばし天を見つめた。
「あ、そうだったの?」
相手はなにも言っていないのに、謎のうけ答えみたいなことを言う。
勇輝がポカンと口をあけて天井を見あげる姿がかなりマヌケで、クラリーチェは
「……何です?」
「君、ランベルトのことが好きなんだってね」
「なっ!?」
いきなり胸中の秘密を
「俺があの人を助けたことなんて、気にしなくてもいいのに」
またクラリーチェはうろたえた。
この発言の裏には、これまでの手厚い看護が義兄の命を救ってくれたお礼なのだ、という
「な、な、何をわけの分からないことをいきなり!」
とぼけようとするクラリーチェ、だが顔が真っ赤だ。
「だってみんなが言ってんだもの」
「み、み、みんなって、いったい誰です!」
勇輝は人指し指を一本たてて、天を指さす。
「天使たちだよ」
その一言で、クラリーチェの顔色は一気に冷めた。
フッ、とつい笑ってしまう。
失礼だとわかっていても。
「あー、
心の耳をすまして聞いてみろよ、ちゃんと聞こえるから」
心の耳などと言われてもクラリーチェには分からない。
疑わしげな表情のまま顔を
すると勇輝は意地悪な顔になって、先ほどの話をむし返してきた。
「上で連中が笑ってんぞ。
クラリーチェは意地っ張りで積極性が足りないって。
待ってるだけじゃ他の女にとられるよ~って」
ギリッ!
痛いところを突かれたのだろう、クラリーチェは口にくわえたハーブスティックを強く
「そんでもってぇ……、ブッ、ブヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
とつぜん爆笑する勇輝。
ベッドの上で身をよじってのたうち回り、にやけた目でクラリーチェをジロジロ見る。
「ひっ、ひひひ、は、腹が痛てぇ!
ギヒェヒャヒャヒャブヒャ……!!」
それがひどく
「何がおかしいの、あなたの言う上の連中とやらは、なにを言ったっていうの!」
勇輝は笑い、苦しみながら答えた。
「お、俺にやったようにね、力ずくで寝室に連れ込んでベッドの上に投げ倒せばいいって!」
そのあとベッドの上でどうしたらいいのか?
そんなことは語るまでもない。
夜の寝技勝負である。
ガリッ! と音を立てて、口のハーブスティックが砕けちった。
「あ、あ、あ、あなたはいったいなんの権利があってそんな
胸倉をつかんで勇輝の首を締めあげるクラリーチェ。
いつぞやのように全身から白いオーラをあふれさせている。
《全身強化》の魔法だ。
「ちょ、ちょっと待って、言ったのは俺じゃないって!」
「天の
「だって言ったんだってばよ!」
「お・だ・ま・り・な・さ・い!!」
首まで真っ赤になって勇輝を締めあげるクラリーチェ。
勇輝は
その生命の危機を救ったのは、この館の女主人であった。
「まあ、なんという事をしているのですか、おやめなさいクラリーチェ」
いつの間に来ていたのか、ヴァレリアが開かれた扉の前に立っていた。
後ろにはランベルトも
「手をおはなしなさい、乱暴はいけませんよ」
「で、ですが」
思わず口ごたえをするクラリーチェだったが、ヴァレリアの眼がスッと細くなるのを見てしぶしぶその手を放した。
激しくむせる勇輝の背を、ヴァレリアがさする。
「この子もまだ
「は、はい、ゲホ」
下品なことを言ってクラリーチェを怒らせたのが原因なのは明白だったので、勇輝は素直にうなずいた。
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