第20話 無自覚の閃光

 守護機兵の足元にたどり着いた勇輝は、まず昇降装置の場所をさがした。

 縄梯子なわばしごらしき物体はどうやら存在しない。

 だったら何かしらの昇降装置が存在しているはずで、だとするとそれは足元にあるのが道理というものだが……。


「ユウキさん、馬鹿な真似はやめてください!」


 どうやら勇輝の意図いとに気づいたらしく、ランベルトがさけぶ。


「しかたないだろ、他にどんな方法があるって言うんだ!」


 怒鳴り返しながらも、勇輝は守護機兵の足元をさぐる。


「そうではなくて、それはダメです、その機兵は動きません!」

「やってみなけりゃ分かんねえだろ!」


 消極的なランベルトの言葉を、勇輝は一蹴いっしゅうした。


(くそっ、どこだ、どうやって乗り込むんだ……)


 こんな事でもたついているヒマはないのに、急がなくてはいけないのに。

 勇輝は祈るような気持ちでさけんだ。


「有るはずなんだ、『昇降装置が有る』はずなんだッ!」


 叫びながら右手で機兵の足をなぐった。

 金属製の足がガン! と大きな音を立てる。

 その瞬間、勇輝の手元がはげしく光った。


「うおっ!?」


 突然のことに目がくらむ。

 太陽光の反射か!? 

 それにしては突然すぎないか!?


 当然おどろき、一、二歩あとずさる。

 光はすぐにおさまった。

 するとそこには勇輝が探しもとめていた物が。


 殴ったその場所にぽつんと、手のひらサイズの小さな扉がある。

 その小さな扉を開くと、中に一個だけスイッチがあった。


(あれーおかしいなー、こんな目立つ場所にあったのに、なんで気づかなかったんだ?)


 首をひねりながらも、押してみる。

 すると。



 ガリガリガリ……!

 ゴゴン……!



 騒々そうぞうしい金属音と共に、胸部ハッチが開いた。

 同時にピクリとも動かなかったこの鋼鉄の塊が、まるで臣下の礼をとるかのように片ヒザをついて、『ここに乗れ』とばかりに左手を差し出してくるではないか。


「よっしゃキター!」

「ば、馬鹿な、そんな馬鹿な!?」


 やけに大げさな驚き方をしているランベルトを無視して、勇輝は機兵の左手に飛び乗る。

 すると守護機兵はその胸元に勇輝を運んだ。


「大丈夫、時間稼ぎくらいはやってみせるさ、まかせてくれ!」


 そう言って勇輝は機兵の胸部に勢いよく飛び込んでいく。

 ……しかし。


「どーなってんだ、こりゃ……?」


 勢いよく飛び込んだそこは、公衆トイレの個室よりは多少大きいかなというくらいの、ガランとした空っぽの部屋だった。


 何も無い。

 操縦どころかそのヒントになりそうな物すら、何も存在していないのだ。


「どういうことだ、一体どうすりゃいいんだ?」


 ここは操縦席のはずだ。

 だったら操縦に関わる様々な物が用意されているはずなのに、何も無いとは一体どういうことなのか?

 ランベルトの乗るたかには穴の開いたベッドみたいな物が入っていた。

 だから当然おなじような物がこの中にもあるだろうと想像していたのだが、まさかこんな形で期待が裏切られるとは思ってもみなかった。


 どうする、どうする。


 たえ難いあせりが勇輝の胸を焼きがす。

 苦しみ悩む心に追い討ちをかけるように、悪魔の雄叫びが広場に響き渡った。


 ――ウガアアアアア!


「くそっ、もう来やがった!」


 非常にまずい、最悪にまずい。

 こちらはまだ何の用意もできていないというのに、ズシン、ズシンという大きな足音が近づいてくる。

 もう広場の中にまで入ってきている。

 今すぐ何とかしないと。


「くそ、動け、動けよお前!」


 なかばやけになって、勇輝は室内の壁をバンバンと叩きはじめた。


「お前は人類を守るために作られた兵器なんだろ、正義の味方なんだろ。

 だったら動けよ、動いて俺と一緒に戦ってくれよ! 頼むよ!」


 無駄だと思いつつも、勇輝は叫び続けた。

 しかしそれで何が変わるはずもない。

 結局ダメなのか。

 何かが大きく間違っているのだろうか。

 そんな暗い気持ちが胸の奥に広がってきた、そんな時だった。



 ――が……か……。


 ――いて……の、……い……。


 誰もいないはずの室内で、何者かの声がした。

 まるでノイズ交じりのラジオのような、ひどく聞き取りにくいか細い声。


「……誰だ、俺に話しかけているのか?」


 ――聖……よ、紅…………よ。


 ――あなた……、私たち……。


 少年のような、女性のような、繊細せんさい綺麗きれいな声。


「なんだ、聞こえないよ、もっとでっかい声で言ってくれ!」


 ――やっと……いた。


 ――耳……ない、心の……で……。


 その不思議な声に誘われるかのように勇輝は自然と目を閉じ、顔を天に向けていた。

 声は、いや声ではない不思議な念波は、うっかりすると聞きらしてしまいそうなほどか細く、だが確実に天から降り注いでいた。


 ――やっと聞こえたのですね、私たちの声が。


 ――この時を待っていた。


 波長が合ってきた、とでもいえようか。

 声なき声がはっきりと聞こえるようになってきた。

 そして天から降り注ぐその声は、勇輝のもっとも望む事を語り始めた。


 ――さあ急ぎましょう。貴女の使命を果たすのです。

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