Light Emitting Diode ~青~

キザなRye

第1話

モクモクと、煙が部屋に充満する。

温度も上がっていく。

視界が段々と真っ白になっていく。





真夏の夕暮れ、訃報がクラス全員の耳に届いた。

信哉しんやは今日休みだったな、そういう理由だったのか、どこかで無断欠席を納得している人が多い。

悲しんでいる人がやけに少ない。

それもそのはずだろう、信哉はクラスの人たちから毛嫌いされていた。

信哉のどこかに非があったとは思えない。

ただ真面目だっただけだ。

それがお年頃の子供たちには悪く映ったのかもしれない。


夜が明ける頃には信哉の死はネットニュースになっていた。

見出しには“練炭自殺”や“不可解なメモ”といった言葉が入っている。

ニュース記事を要約すると以下の通りだ。


中学二年生の大下信哉が自室で死亡、死因は一酸化炭素中毒と見られる。

机には“スプーン曲げ”、“青色発光ダイオード”と書かれたメモが遺されていた。

警察は自他殺両方の線で捜査中で死亡とメモの因果関係は不明。

いじめにあっていたのではないかという説浮上。


朝のHRで担任の口から改めて信哉の死亡について話があった。

クラスの雰囲気だけは悲しみを装っているが、死んだ信哉のために時間を割くなんて嫌だというのが本音だろうか。

担任が“警察がクラスの一人一人に事情聴取をする”と言うとクラスの雰囲気が一気に変わった。

過去にしていた信哉に対する行動等を責められるのだと思った生徒たちの行動が影響していた。


担任を含めた先生の多くは信哉が置かれている待遇の悪さについて一切を知らなかった。

成績優秀でプライベートは知らなくとも充実した人生を送っている、そのように映っていた。

信哉には“孤高”みたいなところがあったので人と話すことは少なかったが、そういう性格なんだと解釈していた。


信哉はもっと人と話をしたかった。

他の人から話しかけられなくても自分から話に行くことは全然できた。

ただ、相手側から拒絶されるように避けられていたので一匹狼と化していたのだ。


警察の事情聴取は信哉と仲が良かった人から始まった。

とは言ってもちゃんと話を毎日のようにしている人などいなくて信哉と幼馴染みの女の子がトップバッターだった。

幼馴染みと言えどもクラスの雰囲気に飲み込まれて信哉とは滅多に話さないし、年齢も年齢なので異性で仲良くしているのが少しはばかられていた。


聴取は女の子、男の子の順で男女が交互に行われていった。

交互は特に意図したものではなく、順々に進めていったらそうなっていたというだけだった。

最初の方は信哉との縁が完全には切れていなかったりクラスの雰囲気に飲み込まれて話しかけられていない人が、後ろの方はクラスを実質的に仕切っているような信哉を毛嫌いしている人が聴取されていた。


どれだけ信哉を毛嫌いして酷いことをしていても大人、しかも見ず知らずの人に正直なことを言えるはずもなくしょぼんとした数分間だった。

ただ、誰一人として信哉が置かれていた本当の状況については話をしなかった。

つまり上辺だけを取り繕って可とも不可とも言えない返答しかしなかったのだ。


そんな言葉しかないので警察には収穫が少なかった。

それでも一つ言えるのはクラスの雰囲気が信哉にとっては逆風だったということだ。

お世辞でも過ごしやすいとは言えなかった。


ある意味でクラスは団結していた。

事情聴取で余計なことを喋らないように、被害がないように、と作戦会議のようなものがクラスでは行われていた。

信哉を毛嫌いしている人たちが無言の圧力をかけていたと言っても概ね間違っていない。

何かを捏造ねつぞうしていたわけではない。

話す事実を最小限にしていた、ただそれだけだった。


担任は事情聴取にこそ立ち会っていないが、クラスの雰囲気等でようやく信哉が置かれていた状況に気付かされた。

その事実に気付いていれば信哉が死ぬことはなかったのか、と自分を責め始めてしまった。


先生がどんな思いを抱いているかなど微塵も知らない子供たちはむしろ楽しそうだった。

授業が潰れて事情聴取が行われているので自分の番が終われば自習課題こそ出ているが、暇を上手に持て余している。


事情聴取は午前中一杯かかった。

事情聴取で警察はクラスメイト・教諭・信哉と関係があった人全員に話を聞いた。

大人からは真面目で良い子だとか化学が好きな子だとか悪いことは一切出てこなかった。

大人から見たら“よくできた賢い子”というイメージなのだろう。


信哉があまり良くない待遇にあったと知った担任を含めた教師たちは午後にその件についての話を聞くことにした。

学校側としては早急に把握しなくてはならないのである。

生徒にとっては授業が再び潰れたことへの喜びと根掘り葉掘り先生たちに聞かれるのではないかという緊張感でどっち付かずの状態だった。

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