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「代行業者様、ようこそお越しくださいました」

 受付嬢のエルフは、実にきれいな角度で恭しくお辞儀をする。おそらく、接客マニュアルの中に入っているのだろう。

「用件を聞こう」

 お決まりのセリフを口にすると、彼女は淡々と依頼内容を説明し始めた。

「とある人間冒険者を殺害していただきたいのです。彼の名前はノア。桁外れの魔力の持ち主で、無節操にモンスターを殺すので、我々も困っているのです」

 言葉の割には冷たい受付嬢。あまり人間のことが好きではないと一瞬で分かる。

「モンスターを討伐したら、ギルドは報酬を支払わなければならない。だがそいつは報酬以上のモンスターを倒す。面倒だから殺してくれ。……そういうことだな?」

 ウルカが確認すると、彼女は「はい」と頷いた。

「近年、冒険者の数は増加しています。ですから、一人で何体ものモンスターを倒すノアの存在は、多くの冒険者にとって迷惑となっているのです」

 そう言いながら、彼女はオレンジ色の髪の毛を少しいじっている。殺しを頼む態度としては、随分緊張感がない。

 ……だが、それも仕方のないことだ。彼女たちのような亜人にとって、世界を牛耳る人間は実に疎ましい存在なのだから。プライドの高いエルフならば、余計にそう思うだろう。

「もちろん、我々も対策は講じました。しかし、どれもノアの考えを曲げるまでに至りませんでした」

「そうか。ならばさっさと殺してしまった方が早いな」

 非道なウルカの言葉に、受付嬢エルフはクスッと笑った。人間に対する憎悪が垣間見える。ひょっとしたら、今回の依頼も彼女が考えたのかもしれない。

「三日後、我々が主催するモンスター討伐大会があります。彼も姿を現すことでしょう。ぜひ、利用なさってください」

「偶然だな。今回の依頼のために、わざわざでっち上げたのか?」

 ウルカが冗談を飛ばすと、人間に冷たい彼女は「さぁ、どうでしょう」と言って肩をすくめた。

「報酬は金貨十枚。くれぐれも、失敗のないように、慎重にお願いします」

「言われなくても、分かっている」

 テーブルの上に置かれた資料。そこに描かれた人間は、どこにでもいそうな平凡な容姿をしていた。

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