8
ローブを羽織った女装姿のティオは、カレ公爵の屋敷から大分離れた路地裏で、とある知人と合流した。
「よっ」
その男は薄汚れた壁に寄り掛かっており、ティオを見るや親しげに片手を上げる。まるで荒野を彷徨う旅人のような格好だが、単に金がないだけだ。
「どうだ? ドカーンと派手にいっただろ?」
嬉々とした表情で、彼は紫色の翼をバサバサとはばたかせた。藤色の短髪と藍色の瞳が、星の瞬く夜空によく似合う。
「うん。ありがとう、ライチ」
ティオが今回使ったコイン式の爆発物は、彼からの貰い物なのだ。最近の吸血鬼とやらは、血を吸うだけではなくて芸も細かい。要するに、それだけ生きにくい世の中になってきたのだ。
ライチはティオの友人で、代行業者ではないが時々こうして手を貸してくれる。本当は、彼にも仲間になって欲しかったのだが、ウルカが思い切り嫌な顔をしたので、残念ながら仲間にできなかった。なぜなら、彼は金遣いが非常に粗いのだ。
「んじゃ、金貨十枚頼むぜ。今からギャンブル行くからよ」
……この通り、とにかく賭けごとが好きで、金さえ手に入ればカジノに足を運んでいる。とは言え決して強いわけではなく、まさにその日暮らしだ。こんな彼を見て、金にうるさいウルカが許可を出すわけがない。
「はいはい」
ローブのポケットから金貨を取り出し、指定された枚数だけ手渡す。金貨が十枚、ライチの手の平に落ちた。
……そのとき、背後に人影が現れた。この雰囲気は、見なくても分かる。リーダーのウルカだ。
「ティオ」
同じくローブを身に纏った彼は、ティオの背後にいたライチを見てあからさまに顔をしかめた。
「またこいつに頼ったのか」
その低い声は不快な気分を露わにしている。
「ウルカー!」
対するライチは非常に友好的で、嫌がるウルカにいつもベタベタとくっつく。元々スキンシップは激しい方で、ウルカが「止めろ」と言ってもしつこく構ってくる。何でも、彼の匂いが好きなのだそう。確実に、血の話だ。
「くっつくな、気持ち悪い」
「ひどいなぁー。今回はおれの手柄だろ?」
「止めろ、離れろ」
すり寄るライチを無理やり引きはがしたウルカは、今度はドレス姿のティオを睨んだ。
「何度も言っているが、こいつに容易く頼るのは止めろ。賭博に金が消えるのは不愉快だ」
「えー、だってー」
「だってもクソもない」
そう言い切ると、彼はため息をつく。ティオのこの様子では、近々またお世話になる気満々なのだろう。
「もういい、戻るぞ。ヴァニラが待っている」
「りょうかーい」
軽いティオの返事を右耳に、ウルカは踵を返した。もしかしたら、依頼人のルカが来ているかもしれない。彼女は一体、どんな表情を浮かべているだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます