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「あっ」
そのとき、ティオが小さくつぶやいた。元々不安定な位置に乗っていたコインは、案の定彼の手の平から落ち、そのまま床に触れる。その間、ほんの一瞬。誰の気にも留まることのない、本当に些細な時間。彼は落下するコインを見ながら、囁くような声で「アホヌイ」と唱えた。今では使える者のいない、光属性の防御魔法だ。
――直後、クーリアとティオの間で、激しい爆発が起こった。コインに似せた爆発物による、予想外の大事故。防御魔法を詠唱したティオ以外は、周辺の人物は全員即死だ。もちろん、最も近くにいたクーリアも。
「きゃっ!!」
爆発が起きたのに棒立ちでは変なので、彼は後方まで派手に吹き飛んでみせた。一斉に集まる視線をよそに、狙ったようにカレ公爵の近くに倒れ込む。
「何だ!?」
ホール全体が一瞬の内にどよめいた。叫び出す者、逃げ出す者。煌びやかな舞踏会は、たちまち騒然な事件現場へと変化する。
「おい、大丈夫か!?」
目の前まで吹き飛ばされたティオを見て、カレ公爵はすぐに寄ってきた。涙目でゴホゴホせき込む彼の背中を、優しくさする。
「はい、何とか……」
ティオはちらりと公爵の顔を見た。貴族の風格が漂う、端整な容姿。その顔からは、優しさが溢れ出ている。その優しさが、死の引き金を引いてしまったのだ。
「クーリアはっ!?」
ティオの返事を聞き終わる前に、彼ははっとした顔で自身の正妻を探し始めた。粉々になった赤いドレスを見つけると、たちまち血の気が失せていく。
「クーリア!!」
走り出すカレ公爵。その後ろ姿を、ティオは怪しい瞳で見送った。今近づいたら危険だ。あのコインは、二段階式なのだから。
「クーリア――」
――彼が強く床を蹴った振動で、黄金のコインは二度目の爆発を迎えた。先ほどの二倍以上の閃光が、ホールを瞬時に埋め尽くす。
「うわあああっ!!」
人々は必死に出口へと足を動かし、屋敷からの脱出を図る。ティオは公爵が爆発に巻き込まれたのを確認しつつ、その人の流れに乗った。爆破はこれで十分だっただろうかなどと、物騒なことを考えながら。
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