異世界「ざまぁ」代行業者

中田もな

0-「ざまぁ」は脆く、そして儚い

1

「カイル!」

 パーティ仲間のラアラが、金色の長い髪を揺らしながら、前方を走る彼の名前を呼んだ。軽装の魔法使いのような格好に、きれいな宝石がはめ込まれた杖を持っている。

「了解!」

 カイルは彼女の呼び掛けに答え、颯爽と地面を蹴った。暗い青色の短髪に、輝く水色の瞳を持った彼は、美しい顔を上げて走る。彼の足元の草花が、その動きに伴って左右に首をかしげた。

 彼らの目の前には、巨大なモンスターが立ち塞がっている。黒々とした体躯に、空を覆うほどの翼。その姿は、まるで古より復活したドラゴンのようだ。凶暴な敵は、地を這うようなうなり声を上げ、こちらに向かって突進してきた。

「みんな、下がって!」

 カイルは仲間に合図を出し、自身に宿ったスキルを発動した。外れスキルと言われた「ランダム」が空中に高々と放たれ、技巧的な幾何学模様を生み出す。

 攻撃スキルである「ランダム」は、発動するまで何が出るのか分からない、いわゆる博打のようなスキルだ。高火力の攻撃が出せることもあるが、その確率はとても低く、大抵は虫の足掻き程度の技しか出せない。それゆえに、彼は元のパーティから追放されてしまった。「失せな! 足手まといの役立たずが!」。別れ際、パーティリーダーのカエナに言われた言葉は、今でも頭に残っている。

 しかし、彼は知らなかったのだ。彼の内側に宿された、もう一つのスキルを。基本的に、スキルは一人一つなのだ。まさか、「確定」というとんでもないスキルが眠っているとは、あのときの彼は夢にも思わなかった――。

 

 ――脳内に、「ランダム」の結果が浮かび上がる。当然のごとく、高火力な攻撃だ。

「ラーカウ!!」

 カイルの声とともに、巨大な恒星がドラゴンに向かって落下した。討伐困難であるはずのドラゴンでも、さすがに二重のスキルが生み出す破壊的な攻撃に耐えられない。ついには激しい断末魔を上げて、力なく地面に倒れ込んだ。

 

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