06 招かれざる客③
「そんなっ。王はどうするおつもりですか!」
「ま。俺たちにできることはせいぜい時間稼ぎだ」
ジタン王を問い詰めようとするラッセンの前に立ちはだかり、のんきに斧を担ぎながらもゼクストは視線ではっきりと線を引く。新兵ではあるが武に覚えのあるラッセンは、その鋭い眼差しだけで動けなくなった。
背後で氷の壁がミシミシと嫌な音を立てる。ゼクストは斧の先で地面を二回叩いた。壁の向こうで電流の走る音がすると同時にドラゴンが怒る。体をしびれさせる魔法を使ったはずだが、鳴りやまない衝突音を聞く限り効果は薄い。
そこへミグがもじもじと体を揺らしながら、ひかえめにゼクストの名前を呼んだ。
「ピンクのお花じゃなくて、ピンクのドラゴンを持ってきたの?」
「え。あれピンクだったか? 色が同じだから間違えちゃったなあ」
子どもはよく見ているものだと感心しながらゼクストは明るく笑った。ミグは満足な教育を受けられていない。同い年で王族としてきちんと教養を身につけているテッサと比べるとその差は歴然だった。
しかしだからこそ、ベガ国に来てからのミグの成長は目覚ましい。毎日、毎日、新しいことを吸収している。テッサのまねをしたがってついに買わされた初級魔導書をもうすっかり覚えてしまったように、ミグはミグの歩調できっと遅れも取り戻すに違いない。
ゼクストは目を細めながら我が子をなでようと手を伸ばした。しかし指先にピリリと衝撃が走る。これは魔法陣が破られた時の感覚だ。直後、大きな羽ばたく音が響き振り返ると氷の壁の上からドラゴンの頭がぬっと突き出ていた。
その口元に紫の煙のようなものが集まっている。
「こいつの魔法は毒だ! 身をかがめて息を止めろ!」
ジタン王の叫びを聞くや否や、ゼクストはミグの肩を突き飛ばしラッセンをにらみつけた。
「走れ! お前たちは早く逃げろ!」
「いやですお父様! テッサは行きたくありません!」
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