03 にぎやかなお茶会②

「ミグの足でもお花つみに行けるよ!」


 唯一の身内から離れるとなるととたんに心細い顔をするミグに、ゼクストは微笑みかける。


「だいぶ歩けるようになったもんなあ。でも今疲れて帰り動けなくなったら困るだろ」


 唇を突き出してまだ納得しない顔のミグに、ゼクストは何色の花がいい? と首をかしげた。


「……ピンク。テッサの髪みたいにかわいいの」


 それを聞くや否や、テッサはぷっくりした頬を上気させてミグに抱きついた。目をぱちくりさせ驚いたミグもぎゅっと友を引き寄せる。やがてどちらからともなく笑いはじめる少女たちを見ながら、ゼクストは敷物のそばに転がしたブーツに足を突っ込んだ。


「もう五年か……」


 娘には聞こえない距離であることを確かめてからひとりつぶやいた。

 祖国プロキオン帝国からミグを連れて、ここベガ国に亡命してから振り返ればもうそれほどの歳月が過ぎている。地位も職も財産も捨て、おまけに人の親になったことのない自分に当時まだ四歳だったミグを育てられるのか不安だらけの毎日だった。

 しかし、用水路に迷い込んだ小さなお姫様がミグを変えてくれた。テッサと友だちになってからミグは徐々に人間らしい表情――喜怒哀楽を見せるようになった。それまでのミグは、とさらに記憶をさかのぼろうとしたゼクストの脳裏に、薄暗い部屋、いくつも並んだ色とりどりの箱、壁にぶら下がる鋼鉄の鎖の映像たちが次々に瞬き、思わず足を止めて頭を振る。


「あの場所には絶対戻らない。絶対……」


 せつな過去に飛んでいた意識を戻し、ゼクストはここらでいいかと茂みの影に入る。ズボンを下ろそうとしたところで紙を持っていないことに気づいた。


「しまったな。まあそのへんの葉っぱでもいいか」


 大きめの葉に目をつけて手を伸ばした時だった。ゼクストは視界の端に違和感を覚えて動きを止める。突き出た枝が一本だけしおれている。それはみるみるうちに黒い染みが広がると同時にひからびて、最後は音もなく地面に落ちた。

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