あの日の雨の日を

水縹❀理緒

晴れに、あの日の雨の日を

。.:*・゜


雨が振り続けたその日。

僕は、おぼつかない足で路地裏を歩いていた。

何をしていたのか、何処へ向かっているのか

自分の事でさえ

何一つ分からないまま、ただ、歩いていた。


『どこへ行くの?』


可愛らしい声が、何処からか聞こえる。

何処、何処だろうか。

分からない。

きっと、あてもなくただ歩くんじゃないか?

立ち止まったその場所が、行きたかった場所なんだよ。


『ねぇ、こっち向いてみて?』


君が何処にいるか分からないよ。

教えてくれたら向いてあげる。


『探してみて?』


こんな足だ、転んでしまうよ。

ところで君は誰だい?

こんなヘンテコな僕に声をかけるなんてモノ好きだね


『そう。モノ好きなの』


あぁ、モノ好きだ。

僕もモノ好きだ。


『アナタ、誰かに名前を呼ばれた事ってある?』


無いね。

スポットライトに当たる事も無かった。

がむしゃらに泥の中を駆けてたよ。

上手くいかないね、人生ってのは。


『そうなのね。だからいるのかな?』


あぁ、きっとそうなんじゃないか?

俺の終わりの道なんだ


『手を引いてくれた人はいた?』


いなかったな。

いや、いたかな。

不思議な事に女の子が、俺の手を引いたことがあった。

それも今日みたいなこんな雨の日に


『女性に手を引かれてどうだった?』


恥ずかしかったな。


『そっか。何か思い出は何かある?』


…あぁ。

その子が大泣きして俺の顔をひっぱたいた。


『どうして?浮気でもしたの?』


違う。

俺が、他の人をすすめたから

辛かったよな。

あの時、本当にバカだったよ


『大事だった?』


大事だよ

大切だよ

俺の命より


『…どうしてそんな事しちゃったの?』


初めてで、どうしたらいいか分からなかった。

自分に自信がなかったのさ

隣にいた彼女が輝いていたから


『おかしな人。それでもそばに居たんだね』


そばに居たいんだ

こんな俺でもいいのなら

釣り合わないのはわかってる

釣り合うようになるから


『真っ直ぐ歩いてる。何か思い出したの?』


覚えてる

覚えてるよ


『何を?』


分かってるんだ


『何を?』


それを俺に問うのかい?


『やめておこうかな』


そうしてくれ。

俺がまたふらつかないように


『ねぇ』


何?


『私のこと、見える?』


見えるよ


『本当に?』


手を差し出してるだろ?

とってくれないのか?


『それを私に言うの?』


言うよ


『また叩かれたい?』


何度でも叩いてくれ


『いや、やめておく』


…なら、また口説くとしようかな


『最低』


…じゃ、俺は行くよ


『うん、さよなら』


おう、またな


。.:*・゜

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あの日の雨の日を 水縹❀理緒 @riorayuuuuuru071

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