詩「石と嵐」
有原野分
石と嵐
嵐のような仕事終わりに
私はふと誰もいない体育館に立ち寄った
パンプスを脱いだ足の裏の
懐かしいひんやりとした感覚
広いのに狭く感じる天井
自分の歩く音しか聞こえない
誰もいないはずなのに
誰かがいるような
居心地の悪い感覚と
心地いいノスタルジア
寝静まった体育館
そこは窮屈な思い出の
いつからだろうか
誰かが路傍の石を蹴るように
私とあなたの出会いになにも感じなくなって
いたのは
無限から果てしなく遠い
ゼロに果てしなく近い確率
不必要な致死性の罠を
ぎりぎりのところでいつも躱してきた道の
目の前に転がる路傍の石を見つけたそのとき
あなたは石を蹴らなかったのだ!
私の石を
あなたの石を
嵐は転がして
磨いて
そして新しい小石が
ブランコから空に舞い上がり
私たちに微笑みかける
今度は三人で来よう
石の落ちていない体育館
顔が反射する床のように
磨かれていない人生に
私たちはいつだって嵐のように
詩「石と嵐」 有原野分 @yujiarihara
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