第10話筒
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
音としてはジュジュジュジュジュです。
声に振り向いた私は一目でやばいと気づきました。
そこにはまるで大きなちくわのような、或いはヒルのような柔らかくぬるぬると濡れた筒状の何かがありました。
筒の下側の穴からは下半身が。
人のようなものが筒状の何かを被り、下半身を出しているような形。
お尻は丸々と大きく足は細長い。
下半身だけで私の身長ほどあるそれは、人に似て人でない事はすぐに分かりました。
ビクンビクンッ筒状の何かが脈を打ち、汁を飛ばしました。
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
何故音だけで言葉の意味がわかったのでしょうか。
しかしその時の私は(ジュ)が(呪)を意味している、そうとしか思えませんでした。
私が逃げ出すと同時に、それは私を追いました。
筒をブリンブリンと振り回し走るそれ。
じゅぽじゅぽと音を立て筒は汁を吐き出す。
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
それの発する(呪)一つ一つが私を追い足に絡みつき歩を遅らせ、体に染み込んでいくような感覚。
このままでは呪われる、私はそう直感していました。
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪」
いよいよ声がすぐそこまで。
私は身勝手ながら目についたお店に飛び込んでしまいました。
入り口で転んだ私を飛び越し、それは店内に突入。
お店は鉄板焼き屋でした。
熱された鉄板の上にそれは突っ込みました。
ジュージューッジュージューッ
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪!」
ジュージューッジュージューッ
「呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!呪!」
ジュージューッジュージューッ
「呪呪呪呪……呪呪……呪……」
それは鉄板の上で踊り、やがて鉄板の上で事切れ、鉄板の上で干からび、最後は鉄板のシミと化しました。
以上が私の体験した全てになります。
残念なことにその鉄板焼き屋は 潰れました。
私のせいとは思いたくないのですが、思い出すたびに罪悪感で胸がちくりと痛むのです。
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