20141127
これからどうするのかなんてことは、既に考え過ぎなくらいに考えつくしたと思うけれど、それでもなお、××は悩み続ける。
場所は、駅のホーム。
西武池袋線・ひばりが丘駅。
上り方面の電車が来る1.2番線。
そのちょうど中ごろで××は一人、立ち尽くしていた。
もう、やることなんてないし、後は帰るだけだ。ひばりが丘に来たのだって、ラーメンを食べに来ただけであって、それ以外の用事なんてありはしない。
一応定期券は持っているのだから池袋や新宿で途中下車をしても良いが、そこにもさしたる意味はないだろう。
いっそのこと少し足を伸ばして秋葉原に出向いても良いが、それだってただ往復の電車賃を浪費するだけの無駄な時間になるのは分かりきっている。
加えてあの土地と××の相性は妙に悪く、なぜか××が行くときは大抵雨が降っているのだ。
一度、台風が接近しているという中、秋葉原の街を歩き回ったときは「一体自分は何をしているのだろう」と自問自答したものだ。
それはともかくとして。
今日の天気はそこそこ。雨になるなんて予報は無かったと思うが、綺麗に晴れているわけでもない。
これが自分の心の中を表しているかと言われると答えはノーで、もし自らの心を天気が反映するのであれば、きっとここ数年は太陽なんて出ていないに違いない。
後は帰るだけ。
答えの出来っている状態でなお、××は駅のホームに釘付けになっている。
行くでもない、戻るでもない。
その選択をしないでいられる時間が一番気楽なのかもしれない。進む選択も、戻る選択も、積極的に選ぶにはあまりにも辛いものなのだろう。
では、それ以外の選択肢はないのか。
ある。
目の前に転がっている。
走っている電車というのは実にパワフルなもので、人間一人をあの世に送るくらいならば訳がないはずだ。
少し問題があるとすれば、即死じゃなかった場合、地獄を見ることだ。でもそれくらい。選択肢としては、前の2つより大分魅力的だと思う。
進むか。
戻るか。
それとも……それ以外か。
そんな選択すらも出来ないまま、××はふと、ネットを確認する。そこに何か面白いものが転がっているわけでもないのに。
“体験版を公開いたしました!”
前言撤回。
ごくまれに、ものすごく有意義な情報が転がっていることがある。
ずっと発売を心待ちにしていた作品の、体験版の公開。
これほど重要な情報があるだろうか。
3つあった選択肢は、1つになった。
帰ろう。
いや、帰らねばならない。
体験版が公開したというのに、こんなところでぐずぐずしていてはおかしい。いち早くプレイするのが正しいんだ。そうに決まっている。
選択肢が絞られれば後はスムーズだ。なにせ××が今いるホームは、家へ帰るための電車が入り込むところなのだから。
電車が来て、それに乗り込む。
飛び込むのではなく、乗り込む。
当たり前の出来事は、あと少しで当たり前じゃなくなるところだったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。