王子様(代理)にお願い!
ヤブイヌ
第1話 現実逃避の甘い罠
まぶしい。
きっと誰かが窓を開けたんだ。
そんなことしなくて良いのに……起きなきゃいけないじゃないか。
俺はもう少し眠っていたいんだ。できればこのまま、ずっと永遠に――。
だがそんな俺にお構いなく、遠くで誰かが呼んでいる。
お……うじ……? オウジ?
「王子!」
急に耳元でリアルな男の声がする。
「わ!」
驚いて飛び起きた俺は、さらに「わわっ」と二段仕込みでビックリする。
目の前には二十歳ぐらいの男がいた。明らかに日本人ではなく、かといって何ジンという聞かれても困るような……誰だ、このお兄さんは? いや……それよりも!
「どこだよ? ここ」
「どこって……ご自分の国ですよ。ちょっと遠出しておられたみたいですが」
まわりを見渡すと一面の草原だった。黄金色の小麦畑がとてもキレー……って。
ちょっと、待ってくれよー! なんだこの展開は?
まさか、オヤジの言っていた異世界転生ってやつか?
確かなんとかって王国の王子に成りすませって――。
(いやいや、待てよ。俺はあの変なカプセルに入れられて、そこから。それから?)
……記憶が、ない。
おいおいおい。俺はどうやってここまで来たんだ? ここはどう見ても日本じゃない。じゃあ外国か? 交通手段は飛行機? それとも船?
オヤジは一体、何の交通手段を使ったんだ? その前に俺、パスポートなんて作った覚えないぞ?
国外逃亡、という文字が俺の頭をよぎる。
確かに、あの街から逃げ出したいとは思っていたが――。
そして親父は確かに「異世界転生気分を味わえる夢のツアーへご招待!」と妙なテンションでのたまっていたのが思い出される。
(まさか本当の異世界転生? じゃあ俺は死んだのか?親父の手にかかって?)
「やべぇよ、オヤジ……これじゃあ親父か俺、どっとかが犯罪者じゃねえか」
「犯罪者とは大げさな……たかが武術の稽古を抜け出してお昼寝されてただけではないですか」
目の前の男が笑う。なんというか目が優しい感じのお兄さんだ。
そして今気がついたけど、驚くほど美形。腰まで真っ直ぐに伸ばされた髪に、整った鼻梁がよく似合っている。
(姉ちゃんが見たら即、一目惚れ決定だな。推しの韓流もぶっ飛ぶぜ、きっと)
そんなことをちらりと考えながらも相変わらず頭ン中?だらけの俺を、そのお兄さんは心配そうに覗き込んでいた。
「無理に起こしてしまって申し訳ないです。しかしそろそろお城に戻らないと」
「お城……」
そうだった。俺は、オヤジの卑劣な罠にはまり、かなり強引に王子代理を任されたんだっけ……。
始まりは中学になって初めての夏休み。
楽しいはずの俺の休暇は最悪な気分のまま、残り三日となっていた。
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