第35話 浮き上がる文字


「ねぇ……本当は、あのカギについて何かわかったんじゃないの?」


 奏はことはのボディーガードってことで、一緒にカギのありかを探れると思っていたのに、今日は死神図書館で待てど暮らせど、ことはが全然やって来ない。


「学校は家庭の事情ってことで休みだったし、トトもいないじゃないか……一体どういうことなの?」


 死書の中で、15歳のことはが奏にはすでにカギを持っていることを気づかれてはならないと言われていた。

 それが一体どういうことか、現段階では優介もトトもわからなかったが、とりあえず、優介は奏に勘付かれないようにしようとしている。


「さぁね……俺にも何が何だか……それより、はやくそっちの新しい死書をこっちの箱に入れてくれ。このままじゃ、仕分け業務が滞ってトト様の機嫌が余計悪くなる」


 さっさとこの事件を解決して、溜まりに溜まっている仕事を終わらせたいトトは、優介に自分が不在の間仕事を丸投げしたのだ。

 それに、これだけの量があれば、暇つぶし程度にはなるだろうと、奏にも手伝わせる魂胆だった。


「なんでぼくが、トトの仕事なんて手伝わなきゃならないのさ! ぼくが欲しいのはあのカギだけだよ!」


 奏はプリプリと怒りながら、自分の首から下げている死書官のカギを握った。


「うるさいな! 本来ならお前は幽閉されるところを免れてるんだぞ!? 大人しく指示に従え……それに、なんでお前、死書官でもないのにそのカギを持ってるんだ?」

「これはもらい物だよ。ぼくはトトと違って、カギなしで死書の中に入れないからね……!」


 堕天使に死書官のカギを渡すなんて、どこの不届きものだと優介は思ったが、それを聞く前にものすごい大きな音が……


 ————ドサドサドサドサ


 新しく届いた死書が、受付の箱に大量に落ちていく。


「こ……こんなにたくさん!? なんだ、どこかで大事故でも起きたか!?」


 優介があっけにとられているうちに、奏は図書館を抜け出して帰ってしまった。


「あの野郎!! この量を、俺一人でどうしろっていうんだ!!」


 この図書館では、管理人であるトトのいうことは絶対だ。

 トトが空にしろと言った受付の箱は、いくら上級死書官とはいえ、一人ではとてもさばける量ではなかった。


「早く帰って来てくれ、ことは…………俺一人じゃ、無理だ…………」


 死書官は、人材が不足しすぎている。

 だが、これも、すべては違法死書を生み出している犯人のせいだ。

 早くどうにかしなければ、そのうち、死書官の数はさらに減ってしまうだろう。


 死書の数は増え続ける一方だというのに。



 ◇ ◇ ◇



 白紙の便せんは、ことはが触れても何も起こらなかった。


「これって……どうやって読むの?」


 誕生日に受け取った便せんも、最初は全く読むことができず、気づいたらいつの間にか文字が浮かび上がっていたため、ことははこの便せんの読み方が全く分からない。

 トトは呆れながら、ミッピィのペンダントを指差した。


「そのカギで、紙をなぞってみて」

「え? こう?」


 カギでなぞると、紫の光と一緒に、文字が浮き出て来た。


「うわ……すごい!!」

「何感心してるのよ。あなた前にこれと同じものを読んで、図書館まできたんじゃないの?」

「だって、あの時は何もしてないのに、急に紙が光ってたから——」

「あぁ、なるほど……まだ読める年齢じゃなかったのね」

「年齢?」


 トトの話によると、この文字は12歳以上にならないと認識できないらしい。

 手紙を受け取ったときは夕方。

 ことはが病院で生まれたのは夜7時丁度だったらしく、手紙を受け取った時はまだ11歳で、文字を認識できなかったようだ。


「ただの白紙の場合、文字を隠されているからこうやってカギでなぞるしか読むことはできないわ……元死書官で————その上、退職時にカギを返しているから智美には読めなかったのね」


 智美はこくりとうなづいた。


「ええ、主人が図書館へ行くためのカギをこっそり拝借することもできましたが……あとから問題になってはいけないと思いまして……ところで、その手紙にはなんと書いてあるんです?」

「え……えーと……」


 ことはは浮き上がって来た文字を読む。


“もう一人の私を見つけて、死書を取り返して”


 たった一言。

 それだけが書かれていた。



(もう一人の、ママ————?)




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