ワールドイレギュラーズ

夜々

-守るべきもの- ⒈

『放ってはおけない、テハド頼むよ』

『チッ、しょうがねぇなぁ。二人はここで待ってろ』

目の前には家と小さな畑、庭が見えるが、ひどく荒らされているような感じがある。家の玄関には血がついている。


テハドは臆することなる家の中に入る。目の前にひどく血だらけになった男性と思われる人が倒れており、その二メートル先ぐらいには女性も倒れていた。こちらもかなりひどい状態だ。だがさらに奥に黒くてかなり大きな獣が突っ立っている。クマのようだ。動く様子はなく、テハドは問答無用で背後から斬りかかる。背中に携えている大剣で急所を縦横に一発ずつ、最後にクマの心臓あたりを剣で貫いてみせた。テハドが玄関から入って来てからこちらに気づく様子もなくクマは倒れた。体長が三メートルに達するのほど大きなクマだった。クマが倒れたことにより部屋の奥が見えた。


『大丈夫か!こっちに来い!』

幼い女の子が二人、男の子が一人いる。二人は涙目に、男の子は恐怖のあまりうずくまっている。テハドはとりあえず外に出すべきだと考えて三人を言葉でこちらに誘導する。

『う、うぅ・・お父さんとお母さんが・・』

テハドのほうに来ようとしたのとき、かなり強力な斬撃を与えたはずのクマの腕が動く。まるで起き上がるような動作だった。すかさずテハドがクマの両腕に更なる斬撃を入れた。新たに攻撃を加えたことによりクマからの反応はなくなった。腕はほぼ胴体から斬り離されている。


『早くしろ!』

テハドの二回目の合図で子供達三人がもう一度動き出した。うずくまっていた男の子は女の子に引っ張られながらテハドの方へやってくる。外で待機している二人に子供たちを託し、テハドはクマを警戒するとともに、血だらけになって倒れている子供達の父と母に息があるか確認する。

外で待機していたのはテハドの仲間であり国の王子であるエルと、レラという女性。

『大丈夫かい?怪我やどこか痛いとこはある?』

『だ、大丈夫』

『うん・・・クトは?』

女の子二人は涙ながらに答えてくれた。

『エル王子、この子の左腕から少し血が出ています。』

『レラこの子たちを頼むよ、私は家の中の様子を見てくるよ』


家の中はかなりひどい状態だった。至るとこにクマがつけた爪痕や人の血痕、壁には大きな穴、壊された家具や皿などが散乱している・・・ここはゴミ捨て場と言われたら一瞬勘違いしてしまいそうだ。家の外もかなり荒れてたが家内はさらに酷い者だった。

『この二人は父と母だろうな。・・ダメだもう死んでる』

『これは・・・クマ?もの凄く大きい・・それにこの目の色は・・・』


状態を確認するためクマに近づき接触しようとしているエル王子。

『おい、まだ触るんじゃねぇ、急所を突いてちゃんと殺したはずだがさっき動きやがった』

『まだ神経の一部が生きているからだろう。このクマもおそらく・・』

『このクマもあんときの同じやつなのか?』

『うん、間違いなくそうだろう。目が真っ黒だしね』

『あのガキ三人はどうするんだ?』

テハドはなんとなく察しがついているが一様問う。あの子供達を見る限りまだ幼い。たったいま親を亡くし家もこの有様だ。

『僕たちで保護するしかなさそうだ。一緒に城へ連れて行く』

『まぁ、そうするしかねえか』


『テハド、あの子たちに父と母のことを伝えてあげて。目の前で殺されているだろうから理解していることだとは思うんだけど・・』

『俺は子供にそんな器用なことは言えないぜ?なんて言えばいいんだよ』

『そんなことはわかっているさ。レラに言って、後は任せておけばいいよ。僕はその間にこのクマを調査してみる、その後にこの家はクマごと燃やすとしよう』

『いいのか、勝手に燃やしたりして』

ここはエル王子やテハドの家ではない。だが主人と思われる人が目の前で亡くなっている。子供たちで生活していくには厳しいだろうし、何より家の復元は無理そうだ。・・・それと大きなクマの死骸。

『このまま放置ってわけにも行かないだろう。このクマを動かすことも無理そうだ。それに真っ黒な目をした動物は僕たちにとって未知な存在だから、何か予期せぬ事態が起きて二次被害を出したくないんだ』

『確かにこんなクマ触りたくねえな』

エル王子があの三人の親を確認する。もう息はない。脈も取れない。もう少し早く僕たちがきていれば・・・、と悔しさを噛みしめていた。だがもうどうしようもない。

『この二人のお墓はこの家の庭に作ろう。その準備もお願いしてもいいかな?』

『ああ、わかったよ』

テハドは立ち去りながら返事をした。テハドも多少なり悔しさに耐えうるような表情をしていた。



城内


『レラ、昨日に比べて三人の様子はどうだい?それと怪我をしていた子の調子は?』

『まだ怯えているようです。怪我の方はもう何日かすれば完治するでしょう、かすり傷程度でしたので』

『そうか、話をできるようになったら昨日のことを詳しく聞きたいのだけど・・』

するとエル王子とレラがいる部屋の扉を開ける音がした。テハドが食料調達から帰ってきたのだ。どうやらこの城の食料調達や料理はテハドの仕事のようだ。

『戻ったぜー。言われた通りあいつらの分も考慮してやったよー。・・なんで俺があいつらの分まで・・・』

『ありがとうテハド。あの子たちは昨日から何も食べてないからお腹が空いているはず。とびきり美味しいのを作ってあげてほしい』

『昨日は食わなかったじゃねえか、せっかく作ったのによお』

昨日の一件があって、子供達を城に連れて帰ったがいまだに怯えている様子だ。無理もない・・・誰だってそうだろう・・親を亡くし平和な日々を送っていたはずの日常が急に壊されたのだから。

『テハド頼むよ』

エル王子はテハドを見つめて・・・まではないが真っ直ぐな目で見ていた。テハドはそれに想うとこがあり、断れない体質になっている。

『はあ・・しょうがねぇな』

テハドはキッチンの方に歩いて行った。それを見計らってかのようにレラが鋭い一言を放つ。

『相変わらず扱いにひと手間かかる人ですね』

『あ、扱い・・って言い方が・・・・・・。テハドはとても仲間想いだよ、それに僕にとってこの国の最後の騎士でもある』

『・・はい、わかっています』




四年前、1488年

ここはラインホープ国と呼ばれる自然資源に恵まれた豊かな国。何百年もの間この恵まれた資源を活かし素晴らしい国作りを偉人たちは行なってきた。だが当時十九歳のエル王子の父が王位の座についてから状況が一変した。父は国の資源を独占。他国との貿易を断ちそれに対抗するかのように隣国どころか様々な国々が資源を求め、この国に攻め入ってきた。海や国境、四方八方からこの国は攻められた。当然守り切れるわけがない。だが資源を目的に他国からの侵略や争いごとが絶えず国はおい詰められ、三年前に王宮の体制が崩壊してしまった。エル王子の父は元々騎士だった。父は戦場で死んだとテハドや他の騎士たちから聞いた。これに伴い、エル王子より王宮の解散が命じられた。国が一つ消滅したも同然の出来事だった。それでもやはり資源を求めて侵略してくる他国が絶えず、この国の村や街が次々に蹂躙されていった。国境付近や資源が豊富な土地は危険だと考える人が出てきて、この国に住む人はこの国を出ていった。今この国の住民は百人にも満たないだろう。国の心臓部であった王宮の城は健在であり、その付近にある小さな村や民家だけが指で数えれるほどに残っている。


しかしエル王子は解散を命じた後、王宮で働いていたレラという女性と王宮の騎士であったテハドに声をかけ、残ってほしいとお願いをし二人は聞き入れてくれた。

エル王子は国の王子でありながらも研究者であり才能にとても恵まれていて、幼い頃から様々な発明をしてきた。レラもまた研究や発明において才能があり王子の助手として国に貢献してきた。テハドは国で最強の騎士と言われており、守神、という名で他国にまで知れ渡っているくらい実力を持っている。また、ある力を身に宿している・・・。


ラインホープ国は戦争に敗れ、もう他国と争いは行っていないのだが、この国で戦争はまだ起きている。

愚痴のような説明になるが、いくら戦争に負けたからといって僕らの土地で勝手に戦争始めたり、資源を取り尽くしては生態系を壊したりとやりたい放題である。ラインホープ国のほぼ中心に位置する城は、周りが石垣のような数十メートルな崖の上にあり、城への経路は二つしかない。だが一つは周りにある石垣を集め完全に封鎖している。また城周辺にはこの国自慢の資源がない。と他国は思っている。なのでこの城近郊には他国がくることはなかった。城は半径四百メートルぐらいの大きさで、ホープ城と呼ばれていたがもうそんな名で呼ぶ人はいない。


城の最上階に行けば山から観る景色と同じような絶景を拝めることができ、この国の民たちのよき観光スポットとして人気で、城は大勢の笑顔と活気にあふれていた。時に思い出してしまう・・あの頃の愛おしい記憶、今となっては恋しい日常・・・。

エル王子、テハド、レラはこの広い城に三人で暮らしている。国が崩壊して以降、エル王子は国の再建を夢みていた。

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