惚れた女の前くらい格好付けさせろよ

@seid

短編なのでこれが最終話

人生に嫌なことはたくさんある。大の親友と好きな人が付き合っててもそれは数ある嫌なことの内の一つだ。そうやって自分を慰めて割り切ることができたが、それを聞いた日には枕を濡らしたものだ。

今では、二人にはうまくいってほしいそう思っている

そうして陰ながら見守る姿勢を貫いているが未だ失恋ソングは聞き飽きない

それもそうだつい最近に成人を迎えたような俺に嫌なことを忘れる技術など持ち合わせているわけがない






親友の吉岡から電話が来た


『もしもし?久しぶりだな!どうした?』


二人が付き合ってるのを知ってから三ヶ月、吉岡が杏と付き合ってることなど気にせずに会話をできるようになった


『来週の日曜、晴美と俺の家で鍋をするんだけどさ、お前もこいよ』


『おいおいお前ら彼氏と彼女の関係だろなんで俺がその中を割って入らないといけないんだよ』


『それがさ、初めてのお家デートなんだよ。なにかと緊張するからさ。こんなことお前にしか頼めん!頼む!』


『…わかったよそのかわり俺は少し早く帰るからな?夜は頑張れよ』


『まじて!?ほんっとありがとう!じゃあお前は肉その日に持ってこいよ!俺は、野菜買っとくわ!』


『わかった』


***

吉岡の家の前に着くと男女の盛り上がった話声が聞こえた。恐らく吉岡と浜辺だろう


『遅くなって悪いな』


俺が入ると二人は既に待っていた

テーブルの真ん中にカセットコンロと鍋が既にセットされていた


『あ、今泉くんおそいよー』



『まぁまぁまたバイト先の店長に仕事頼まれたんだろ?お前も頑張るなぁ』


吉岡は30分も遅刻した俺を庇うようを浜辺を沈めた。

吉岡は多分俺がわざと二人の時間を作るために遅れたこともわかってるのだろう。


『ふーんそうなの、あ!私ちょっとトレイに行きたいんだけど借りていいかな?潤くん?』


『あぁ、そこの扉開けるとトイレだから』

それを聞くと晴美は、トイレに入っていった


『じゃあとりあえず先に鍋の水を火につけるか』


そういいカセットコンロを回した


すると、いきなりカセットコンロが爆発した


『うわ!なんだよこれ!』


『これ、ずっと前から使ってたから何かの劣化が原因かな』


そう言う吉岡の後ろで爆発の影響か新聞紙が燃えていた


『おい後ろ!!!!』


とつじょ、揺れ始めた。


『地震だ、でかいぞ!』


すると、机の上の缶ビールが倒れ、ビールが新聞紙に引火した火が一気に広がりビールからカーペット、カーペットからソファ、ソファーから


まだ地震はおさまらず、火事と地震により二人はパニック状態になった



『とにかく逃げよう!』


『まだ晴美がトイレにいる!』


『そこには俺が行くお前近頃サッカーの大会あるだろ?大丈夫、浜辺は絶対助けるからそれに怪我したって火傷程度だ』


そう言って吉岡を外に逃げるよう促した


『ここがトイレだったよな』


よく吉岡の家には遊びに行くため、トイレの位置は把握していた


『浜辺!今色々あって火事になった外に逃げるぞ!鍵を開けろ!』


『それが鍵が歪んで開かないの!』


なんてこった先の地震の影響だろう


『…扉から離れてろよ』


今泉が扉に蹴りを数発入れ込む

すると鍵が壊れ、扉が開いた

護身用に空手を習っといてよかった。そう思うより浜辺を逃がせる安心感の方が大きい


部屋を見渡すと、地震により棚は倒れ、そこにある本も燃え既に部屋中に火は広がっていた


これは消火は無理だと諦め、浜辺に声をかける


『玄関に向かって逃げよう!』


急いで玄関に向かうと、さらに大きな地震が起こった


その影響で浜辺の横の冷蔵庫が倒れる


今泉は反射的に浜辺の元へ飛び込み背中を押した。その勢いで今泉が冷蔵庫の下敷きとなる


『今泉くん!?大丈夫!?』


冷蔵庫を持ち上げようとするが女一人の力では冷蔵庫は持ち上がらなかった


『俺はいいから逃げろ!!』


『今泉…!?なんで!?』


『惚れた女の前くらい格好付けさせろよ』


自分でもびっくりするほど痛い発言だが死ぬ間際くらいいいだろう


『はやく逃げろよ吉岡は外にいるすぐに火がこっちにも回る!速く逃げろ!!!!』


『…ありがとう』


そう言って浜辺は玄関に出ていった


これでいい、俺の命で晴美が救えるなら





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