騙された魔女②




個人と個人の戦いとなれば、魔女であるイージュは男であっても人間には負けない。 不意を突かれたら分からないが、正面で対峙していればどうとでもなる。 

それを青年も分かっているのか両手を上げ慌てて首を振った。


「あぁ、驚かないで。 俺は別に君を殺しにきたわけじゃない」

「・・・」


―――その言葉、誰が信じるとでも?


人間は信用ができなかった。 信用できるような人間に今まで出会ったことがないのだ。


「初めまして。 俺の名前はライス。 君は魔女だよね?」


―――ん・・・?

―――初めまして?


何となく初対面ではないような感覚だった。 だが人間と正面から接するのは初めてのため初対面なのは確かだ。 どうやらイージュのフードを見て魔女だと判断したらしい。 

結局フードを被ろうが被らまいが魔女だということは簡単にバレてしまう。


―――一体何の用だ?

―――殺しに来たわけじゃないといっても、ろくな理由のはずがない。


イージュはライスを睨み付ける。


「私みたいな魔女なら、自分の思い通りにでもできると思ったのか?」

「だからそうじゃないって。 寧ろその逆。 俺は君を助けに来た」

「・・・助けに来た?」


ライスは力強く頷いた。 そこで完全ではないが、イージュは少しだけ警戒を解いた。


「一体どういうことだ?」

「魔女の身体は今、人間が作った薬によって呪われた身体になっているんだよね? それにもう時間がないんだろう?」


―――それを知っているということは、この村の人間か。


「・・・何が言いたい?」

「実は僕、研究者なんだ。 魔女を人間に変える薬を開発した」

「ッ・・・!」

「魔女が飲まされた薬は魔女にしか効かないって聞いた。 だから人間になれば、もう呪われなくて済む」

 

一瞬希望が見えたと思った。 だが相手は魔女を迫害し続けてきた人間の一人だ。 高ぶる気持ちをグッと抑え睨み付ける。


「・・・流石に怪しい。 何が目的だ?」

「その人間になる薬を与える代わりに、条件があるんだ。 僕に協力してほしい」

「協力?」

「あぁ」

「・・・何の協力が必要なんだ?」

「実は僕にはとても大切な妹がいるんだ。 だけど今は病気でずっと寝込んだままでいる」

「・・・その妹さんを助けたいと?」

「その通り。 妹を救いたいんだ」


そこで疑問が思い浮かんだ。


「お前は研究者なんだろう? お前が作る薬でどうにかならないのか?」

「ならないから君の力を求めにここまで来たんだよ。 どうしても魔力が必要なんだ」

「・・・」


―――魔力が必要・・・。

―――そんなことを人間から言われたのは初めてだ。


人間は魔力をよく分からない異形の力として恐れている。 何かあれば魔女のせいにされる。 飢饉や伝染病、自然災害までもが魔女の仕業だと思われていた。

 

「人間になってからだと僕の願いは叶えられないから。 魔力を妹のためにくれたら君に人間になる薬を渡すと約束しよう」


その言葉にイージュはゆっくりとライスに視線を合わせた。


―――・・・まぁたとえ彼に裏切られたとしても、今日死ぬことには変わりないのか。


信じようか迷ったがイージュにはどうせ今日しか生きる時間がない。 だから結局完全に信じたわけではないが、彼の言うことを聞いてみることにした。


「・・・分かった。 協力する」 


お互いに利益があるのならもしかしたらということもある。 可能性が少しでもあるのならばそれに縋りたいというのがイージュの心境だ。


―――今の私にはそれしか選択肢がない。

―――彼に裏切られたとしても、これ以上マイナスになることはないんだ。

―――魔女である自分は嫌いだけど、生きたいという思いは変わらないから。


「本当!? ありがとう! 助かるよ」


了承するとライスは嬉しそうに笑った。


「まず私は何をしたらいいんだ?」

「そうだね。 早速だけど、隣町まで来てくれるかな?」

「隣町?」



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