No.38:一人焼き肉屋さん


 期末テストの前、前回同様に私と宝生君は市立図書館で勉強した。

 また彼の苦手科目を私がまとめ、数学と英語は少し彼に教えてもらった。

 宝生君の教え方は、本当に上手だ。

 説明が順序だっていて、理路整然としている。

 それは月島の頭が良いからだ、と彼は言ってくれるけど。


 勉強のあとは、休憩室でおやつを食べるのが恒例になった。

 やっぱり宝生君は、アップルパイが好きみたいだ。

 あっという間に全部食べつくす勢いだった。

 作り手としては、嬉しい限りだ。


 7月に入って、期末テストがやってきた。

 私はいつも通りの手応えだった。

 宝生君はどうだったかな。

 私は気になった。


 テストの翌週、解答用紙も全て帰ってきて学年順位も出た。

 私自身、満足の結果だった。

 自宅で夕食を終えて寛いでいるとスマホが振動した。


 宝生君:夕食を食べに行きたいところがある。そんなに高いところじゃないので、ワリカンで一緒にどうだ?


 メッセージと共に送られたリンクをタップすると、今話題の一人焼き肉屋さんだった。


 華恋:行きたい! ここ前から行きたかったんだ。でも一人じゃ入りにくくて……ちょうどよかった。


 私はそう返事を打った。

 結局週末の日曜日に一緒に行くことになった。

 

 気がつけば、なんだかんだで宝生君と出かけるのを楽しみにしている自分がいる。

 気持ちを自制できるのかな……。

 一方で、そう心配している自分もいた。



「お父さん、日曜日の夜なんだけど、お友達と外で食べてきていいかな?」


「ん? ああ、もちろん。楽しんでおいで。遅くならないようにな」


 電話を切り終えてぐったりしているお父さんは、そう言ってくれた。

 最近この時間にかかってくる電話の回数が増えていて、とても心配だ。

 明らかにローン会社からの督促の電話だからだ。


「お父さん、本当に大丈夫なの?」


「ああ、華恋が心配することはないよ。大丈夫だ。ただ……」


「ただ?」


「電話をかけてくる連中が、どうも普通の連中じゃない気がしてな。それがちょっと気になってるんだよ。いずれにしても、大丈夫。お父さんがなんとかするさ」


 私は心配になったが、こればっかりは今の私にできることは何もない。

 早く大人になって、お父さんの力になりたいと思った。


        ◆◆◆


「結構賑やかだね」


「ああ、そうだな」


 私と宝生君は、約束通り一人焼肉のお店「焼肉いいね!」に来ていた。

 時間は夕方の6時前で夕食時には少し早かったけど、店内はそこそこ混んでいた。


 私と宝生君は、2人用の席に案内された。

 テーブルの真ん中にグリルが1つある。

 2人用の席は2つあって、あとは全部カウンターの1人用の席だ。

 

「2人用の席もあるんだね」


「数は少ないけどな。これなら客席稼働率も高い」


「客席稼働率?」


「ああ。満席になった時、どれだけの席に客が来ているかという指標だ」


「? 満席だから100%なんじゃないの?」


「違うな。ファミレスでも4人がけの席に、3人とか2人とか座る場合があるだろ? そういう場合、基本的にそこにはもうお客さんを案内できない。つまり満席でも100%にはならない」


「あ、そっか」


「ところがこのスタイルなら、稼働率は100%近くになる。なにしろ1は数字の最小単位だからな。デッドスペースができるとすれば、この2人用の席に一人で座った場合だけだ」


「そういうことなんだね」


 2人でタッチパネルのメニューを見る。

 スープとライス、キムチがついて千円前後。

 とてもリーズナブルだ。

 私達は二人分のセットを、タッチパネルからオーダーした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る