No.17:ラウンジ?


 そして週末の日曜日。

 私は朝から緊張していた。

 昨夜はほとんど眠れなかった。


 だってしょうがないでしょ?

 よく考えたら、いや考えなくても男の子と2人で映画を見に行くことなんて、これが生まれて初めてなんだから。

 しかも相手は、あの宝生君だ。


 もちろんデートじゃないって、わかってる。

 それでも私にみせてくれた彼のいろんな表情を思い出すと、心臓が高鳴った。

 ちょっと私……大丈夫だろうか。


 着て行く服だって、見当たらなかった。

 唯一無難であろうと思われる服を、選ぶしかなかった。

 チェックの膝上ワンピースに白のカーディガンを合わせる。

 私にしては頑張って、足を出している方だ。

 でも胸の方は……全然足りない。

 全く柚葉が羨ましい。

 なにか胸を大きくする特別なケアとかあるんだろうか。

 今度聞いてみようかな……。


 それよりメイク道具だって、持ってない。

 唯一ピンクの色付きリップを塗る程度。

 こんな貧相な女、もしデート相手だったら宝生君にふさわしくない。

  

 でもこれはデートじゃないから大丈夫だよね……。

 そうやってもう一度、無理やり自分に言い聞かす。


 映画は3時からだけど、早めに来てほしいと言われた。

 映画館のロビーに着く。

 入ってすぐに、宝生君がわかった。

 遠目からでも、イケメンはすぐに分かるようになっているようだ。


 白系のシャツに黒っぽいジャケット。

 下はスリムのダメージジーンズ。

 こんなにラフなスタイルなのに、スラッとした長身の宝生君には抜群に似合っていた。


「おう」

 

 宝生君は、片手を上げる。


「お待たせしました」

 

 私は自分が緊張しているのが分かった。


「……私服の月島を見るの、初めてだな」


 宝生君の視線が、私の全身をスキャンし始めた。


「あ、あんまり見ないで……」


 私は持っていた小さなバッグを前にかざして、防御を試みる。

 もしかしたら、歴代の彼女と比べられるかも……。

 そうなると勝ち目はない。

 いやだから、デートとかじゃないし!


「いや、なんだ、その……」


 宝生君の顔が少し赤い。

 

「かっ……」


「?」


「か、カフェで何か飲むか?」


「……う、うん、そうだね。ちょっと喉かわいたかも」


 2人でチケットブースに進むと、宝生君が招待券のようなものを2枚渡した。

 するとブース内のお姉さんが、映画のチケットを発券してくれた。


「悪いな。本当は映画が選べればよかったんだけど。」


「全然いいよ。法律モノって、見たことなかったし。」


 宝生君が持っていたチケットというのは、ある映画の招待券だった。

 ローファーム・イン・アメリカ

 ニューヨークの法律事務所を舞台にした、裁判モノの映画だ。

 逆に恋愛映画とかじゃなくて、よかったと思う。


 通路を抜けて中に入っていく。


「ちょっとなにか飲もう」


 そう言う宝生君の後についていく。

 入り口には「シアター・ラウンジ」と書いてある。


「ラウンジ?」


「このチケット、ラウンジも利用できるらしい。なにか飲もうぜ」


 ラウンジ付きの映画?

 え、なにそれ?


 その中に入ると、カウンター席とテーブル席がある。

 カウンターの内側にバーテンダー風のお兄さんがいた。

 

「何飲む?」


「え? えーと……じゃあアイスティーで」


「ミルク? レモン?」


「じゃあミルクで」


 宝生君はそのお兄さんに、アイスミルクティーとアイスコーヒーを注文した。

 出された飲み物を持って、2人でテーブル席へ移動する。


「なんか凄いね」


「まあそうだな。席がグランドクラスって言うらしい」


「一般の席と違うの?」


「違うんじゃないか? シートも座り心地がいいと思う」


 なんだか別次元の世界。

 まともにきたら、一体いくらするんだろう。

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