No.13:凄いやつだと思う


「宝生君、このあいだ家の仕事を手伝ってるっていってたけど、勉強する時間はあるの?」


「ああ、吉岡にしっかり管理されている」


「吉岡って人は、教育係の人だっけ?」


「そうだ。もう小さいときからずっとだ。仕事の方も一緒に教えられてる」


「そうなんだね」


「月島は、どうなんだ? 成績はいいのか?」


「うーん、悪くはないかな」


 言おうかどうか迷ったが……彼も自分の秘密を打ち明けてくれた。


「私の場合、死活問題なのよ。成績が落ちると、学校へ来れなくなるから」


「? どういう……あ、ひょっとして月島、特待生か?」


 私はコクリと頷いた。

 入学時に特待生でも、その後成績が落ちると当然特待から外される。

 私は今のところ、学年で5位以内を常に確保している。


「だから勉強も大変なの」


「凄いな。それに、バイトもしてるって言ってたよな」


「うん。家が経済的に苦しいからね。お父さん、お母さんの医療費でかなりお金を借りたらしいんだ。だから家計は毎月、火の車だよ」


「そうだったんだな。大変だな」


「そうでもないよ。少なくともアップルパイを作ってくるぐらいの余裕はあるから」

 私は笑ってそう言った。


「俺にできることがあったら、言えよ」


「えっ……」


 意外な言葉だった。

 もちろん同情からだろう。

 でも普段あまり人に興味がなさそうな宝生君がそう言ってくれた。

 私は胸の奥が、暖かくなった。


「ありがと。こうやってマクドでご馳走してくれるだけでも助かるよ」


「こんなんだったら、いつでも」


「ああでも、宝生君のお財布からお金が出ていくときは、ワリカンにしてね。その……無料クーポンがあるから、私も遠慮なくタカれるわけだから」


「別にタカってるわけでもないだろ」

 彼は苦笑する。


 ツンデレで俺様の宝生君が、こんな私を心配してくれている。

 誰も知らない彼の一面を、私には見せてくれている。

 たったそれだけのことでも、私は嬉しかった。

 もちろん……恋愛には発展しないことがわかっているとしても、だ。


        ◆◆◆


「値段は安いが、シナモンが効きすぎてたな」 


 俺はマクドからの帰り、ひとり車の中でそう感想を漏らした。


 2回めのマクドは、まだまだ新鮮だった。

 あの時間だと制服姿の高校生も目立つ。

 学校から少し離れているので、同じ学校の連中は見かけなかったが。


 それに……月島が今度アップルパイを作ってくれるらしい。

 家で簡単につくれるものなのか?

 作ったことがないから、全く見当がつかない。

 

 それにしても、アイツ、特待生だったんだな。

 凄いやつだと思う。

 お母さんの医療費で、父親はかなりの借金が残っているようだ。

 何か俺にしてやれることはないだろうか。

 俺はそんな事を考えていた。


「今日も楽しそうでしたよ、秀一様」


 運転中の西山が、茶化してくる。


「そうか? まあマクドなんて行ったことなかったからな。いろいろと新鮮だ。ところで西山、特待生って毎年何人ぐらい入ってくるのかってわかるか?」


「おそらく3人とか5人とかじゃないですかね。あのお嬢さん、特待生なんですか?」


「そうらしい」


「そいつは凄い。英徳の特待とか、もの凄くハイレベルですよ。才女なんですね」


「家が経済的に豊かじゃないらしい。大したもんだな」


 俺は西山と、そんな話をしていた。

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