ARドクター

陽くんの部屋

レベル1

『緊急、緊急、ディーバウイルスを確認しました。専門医は現場に向かってください。繰り返します……』


2021年から6年前、とある患者から見つかったウイルス。


「いました!!ディーバウイルスです!!視認できるのは三体」

「さっさと除去するぞ」

「さ〜ていきますかねぇ」

「いっちょオペしますか〜」

「足引っ張んじゃねぇぞ」


ウイルスが現実に現れ、現実化されるようになった。レベルが進行すると命を落とす危険なウイルスである。そのウイルスの人的被害を防ぐために、専用の医療危機が開発された。OARーオペレーションオーグメンテッドリアリティというAR機器だ。ウイルスをAR空間に隔離し、物理的に除去するというもので、利用者にはそれ相応の精神的強さが必要になる。

そんなAR機器を託されたのは、とある総合病院の優れた5人のドクターだった。


『手術開始!』


side 業天翔かるまそらと

「え〜っと……これどこに持っていけばいいんでしたっけ」

「もう忘れたの?講義室よ、全く研修期間が終わって立派な医師になったと思ったのに、抜けてるところはちっとも変わらないのね」

「あはは……すみません」


はぁ、今日も怒られたな……しっかりしようとは思ってるんだけど。

本日30回目のため息を付きながら、荷物を抱えて言われた講義室に向かっていた。2ヶ月前、やっと5年間の研修期間が終わり、研修医としての時間が幕を下ろした。って言ってもついこの間まで研修医だったから、まだ抜けないな……。

コツコツと静かな廊下を歩きながらそんな考え事をしていたら、死角となっていた曲がり角から出てきた人に気づかずに思いっきりぶつかってしまった。


「わッ」

「……ッ」


案の定、運ぶはずだった資料は床に散らばり、無惨なことになってしまった。いやそれよりもまず謝らなければ。「す、すいませ、」と口にしたが、ぶつかった人物を見て、反射的に口を噤んでしまった。……1番ぶつかりたくなかったと言っても過言ではない人物だったからだ。


「……内科医」

「す、すす、すいません采彩さん!!」


ギロリと、上から睨みつけてくるその圧と声で、身を縮ませる。怖……よりにもよって何故この人に。うぅ……。立花采彩たちばなといろさんは研修医の時からお世話になってる。茶髪と青い瞳が特徴で、とても顔立ちが綺麗だ。けど、とりあえず怖い。圧が。無表情で淡々としてるし、名前で呼んでくれない。だが実力は確かで、院内では天才外科医と呼ばれているほどだ。それに比べて俺なんて……


「はぁ……」

「ため息をついて悩むくらいならまずい周りを見ろ。患者がいる場所で同じことをする気か?」

「う、本当にすみません」


返す言葉もなく、ただただ頭を下げるだけだった。散らばった書類を集め、また順番通りに入れ直す。32回目のため息をついた。


「早く集めるぞ、大事な資料だ」

「あ……ありがとうございます」


だけどなんだかんだ言って采彩さんは手伝ってくれる。怖い人だけど悪い人ではないので信頼している。

拾ってる最中で、1枚の紙が気になった。これも資料の1部だが、内容が「……ARによるディーバウイルスの切除……」

ディーバウイルスとは、現在進行形で世間を騒がせている新種のウイルスだ。最悪の場合死に至ってしまう。オペには、この資料に書いてあるように特殊なAR機器を用いて、その専門医が切除するらしいが、一体誰が行っているのか分からない。どうやら公にはされていないらしい。そうやって資料を見ていたが、急に手元から消えた。上を見ると、采彩さんがまた有無を言わさず圧でこちらを見ている。


「見ている暇があるなら運べ」

「は、はい!!」


これ以上采彩さんの機嫌を損ねたら何をされるか分からない。急いでまとめてもらった資料を持って、目標である講義室に走らずに、だが急いで向かっていった。


side三人称

「…………ディーバウイルスか」


内科医もとい業天翔がいなくなった廊下で、外科医の立花采彩は呟き、ポケットに忍ばせていた何かを取り出した。手のひらに収まってるのは、耳にかけるタイプのヘッドセットのようなものだった。それには小さくOARと表記されている。ふと、スマートフォンが震えた。飛彩はスマホを取り出し連絡に応じる。すぐに表情が変わり「分かったすぐ行く」とだけ伝え、通話を終えると、天翔とは別方向に走り出した。


人々の悲鳴の中、飛彩は目的地に到着した。そこには化け物と言っても大差ないような存在が蠢いていた。飛彩は先程の機器を取り出し、耳にかけると、その生物を見据えた。


『それはOAR……ドクターですね』


その怪物はどこからともなく言葉を発すると、戦闘態勢に入る。ディーバウイルスの特徴として意思疎通を図れるというものがある。だが決して和解することはできない。

采彩は機器の耳にかけてる部分に触れた。機器が青く光り、起動される。その瞬間、電子的なフィールドがウイルスと采彩を囲う。それはまるで正方形の空間のようだった。


「これよりオペを開始する。……"手術開始"」


その言葉と同時にどこからともなく現れた薙刀を握り、飛彩はウイルスに向かって走り出した。

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