後悔
おミツは膳を片付けると、家の掃除と次の食事の下拵えと、
少しは栄養を取れるようにと、薬湯を煮出す。
これが思いの外時間がかかり、すぐに日が暮れだすのだ。
相楽は一日中書きものをしていたようで、書き損じの文のようなものが大量に散らばっていた。
「相楽様。夕餉の用意が出来ました。」
何となく冷たい声が出てしまった。
それでも気付いていないのか、いつものように相楽は文机から顔をゆっくりと上げ、
「あぁ。」
と呟いて筆を置いた。
言いたくもないのに余計な一言が口から滑り落ちる。
「相楽様。あまり無理をされますとお体に障ります。」
いつもあまり話さないおミツから注意を受け、相楽の左眉がピクリと動いた。
一言「構うな。」
とぴしゃりと言って膳に手を付け始める。
その手がいつもより、心なしか急いでいるように見える。
満足な文が書き上がっていないのだろう。
八重という女子へだろうか。
ついつい言ってはならないとわかってはいるものの、ポロリと口から零れ落ちた。
「八重殿ですか・・・。」
ピタリと相楽の手が止まった。
しまった。
昼に盗み聞きをされたと思うに違いない。
相楽は一瞬おミツをちらりと見たが、
「お主が気にする事では無い。」
と言って再び膳に箸を伸ばし始めた。
気にされないのが悔しくて、
「何故その方は相楽様に会いに来て下さらないのですか?」
と最後の方は叫ぶように言ってしまった。
それが相楽の逆鱗に触れてしまったらしい。
背後にあった刀を手にし、
「無礼な小娘め!そこに直れ!叩き斬ってくれる!」
と怒りの声を上げた。
普段物静かな相楽がここまで取り乱すのは珍しい。
激怒しているところを見ると、もしかしてその女子はもう・・・。
おミツはそこまで思い至ると、何と浅はかな事をと後悔の念に苛まれた。
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