初恋

数日後、幾分か体調が良くなった相楽はいつも通りの鍛錬、

もの書きが出来るようになっていた。


鍛錬はおミツが止めてもどうしても継続しなければいけないらしい。


おミツは帰らなかった理由を婆様に伝えると、婆様が簡単な薬湯の作り方を教えてくれた。


気休め程度の物らしいが、おミツは一言一句逃すまいと、熱心に婆様の話を聞いた。


単なる身の回りの世話だけのはずなのに相楽のために何かしてやりたくて仕方ないのだ。


しかし、婆様は怖い顔をして、

「相楽殿の病は治るものではねぇ。もうあまり近付ちゃなんねぇよ。

お前ぇさに移ってしまうかもしれねぇ。」

と言った。


お蜜がふるふると泣きそうな顔で首を横に振ると、婆様は物悲しそうに、

「あぁ、お前ぇさは、あんお方に惚れちまったんだねぇ。

若ぇお前ぇさに辛いことをしちまった。」


それきり、婆様は何も言わなくなり、おミツは相変わらず相楽の世話に通った。


あぁ、これが恋と言うものなのか。


ちっとも知らなかった。




道理で相楽の家に行く時は少し嬉しいような恥ずかしいような気持ちになるわけだ。

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