味覚

家に戻ると、膳の上の物はすっかり冷めていて、

おミツは急いで温めようとしたが、若武者はこのままで良いと言い、そのまま箸をつけて食いだした。


しかし、やはりただの村娘の作る物は若武者の舌には合わなかったようだ。


一口食べると一瞬眉をしかめたのを、おミツは見逃さなかった。


しかし、その後は何事もなかったような顔をして食事をかっこみ、

「馳走になった。」

と言って全て平らげた後に席を立った。


食事もほとんど味わうことはせず飲み込んでいるようだった。


口に合わない食事も残さず、文句も言わぬ相楽は身分の高い者にしては優しいのかも知れない。




おミツはその日、家の目に付くところを出来るだけ掃除し、

夕餉、床の準備まで整えると、相楽に他にご要は無いか尋ねた。


無理に同衾を頼まれたりしないかと少しビクビクと怯えていたが相楽はおミツに興味などないらしい。


「若い娘が夜に出歩くものではない。速く帰るが良い。」

と子供に言い聞かせるように言われてしまった。


おミツは走って自分の家にまで帰ると婆様に今日あった事を話した。


相楽が少し変わった優しい武者だという事を話すと、婆様も見えていない目を細めて嬉しそうに頷いてくれる。


ただ食事では満足していなそうだと言うと、相楽に合いそうな色々な味付けの種類と、

病で怠そうな彼の為に精のつく食べ物も教えてくれた。

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