初仕事

この仕事を婆様に勧められた時は嫌だと思っていたが、生活が少しでも豊かになるのであれば話は別だ。


それによく婆様に、

「人の役に立つ。それは手前に余裕がないとできやせん。とっても贅沢で有難い事なんだよ。」

と言われていたため。


山仕事や家事以外の仕事に初めて従事するのは、緊張はすれども少しばかり楽しそうに思えてきた。


それに村にはもういない自分と似たような年の若い男だ。


話してみるのも良い機会かもしれない。 


若武者がいると言う家に行き、おミツは彼の姿を見つけると、

地面に手をつき、深々と頭を下げた。


「今日より。相楽様のお側にお仕えさせていただきます。

ミツと申します。

お武家様にお仕えするには足りぬ者ですが、この度の大役を仰せつかり、ありがたき幸せにございまする。

どうぞよろしゅうお願い申し上げます。」


言葉は慣れぬが、ゆっくりと間違えぬよう一生懸命言うと、こっそりと若武者の様子を伺う。


若武者は虚ろな目で茫然とこちらを見ていた。


その様子が何故か話に聞いた事のある平家の落ち武者の亡霊のようで、

お蜜は少し身震いをしたが、許可が出るまで頭を上げて良いのかもわからぬ。


そのうちいたたまれなさと恥ずかしさも相まって、腕と頭もふるふると揺れだした。


若武者が思い出したように目を見開いて、

「あぁ。よいよい。そうかしこまるな。

それに我は女子が土の上に這いつくばるのを見るのは好きではない。

とっとと上がるが良い。」


そう言うと若武者は、おミツが中へ入って来た事で満足したのか、そのまま

「好きに使え。」

と言い残し、座敷の中に唯一ある襖の奥へと引っ込んでしまった。


先程墨の匂いがしていたので書き物をしていたのだろう。


もしかしたら、おミツが来ること等何も聞いていなかったのかもしれぬ。

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