精霊騎士アルベルト

もすまっく

プロローグ

プロローグ

 薄暗い森の中、鈍い銀色の鎧を身に着けた死体がそこら中に転がっている。剣や鎧には紋章の様なものが彫られていることから、どこかの国の騎士たちなのだろう。そこへ、


 ―――――!!


 金属が激しくぶつかり合う音が辺りに響く。男が二人、剣を振るい、捌き、弾いてはまた振るう。間違いなく一流。見た者にそう思わせるだけの戦いを二人は繰り広げていた。

 二人の内の若い青年が口を開く。


「まさか、あなたがこんなこと、をっ……!」


 青年が言っている間にも男の鋭く重い剣が振るわれ続ける。


「この程度か?」


 男は淡々と言い、剣が弾かれると同時に一度距離をとった。


「我と戦う前にそこそこの深手を負ったようだが、それにしても弱い」


 そう言った男の視線が青年の脇腹を見る。徐々に血が染み出している傷口は、ここまでの戦いで負った中で最も深い傷だった。脇腹以外にも腕や足も切り傷や刺された跡があり血が滲んでいる。

 青年は短く浅い呼吸を繰り返しながら、男の一挙一動を見逃すまいと視線を外さずに睨みつけている。


 ――――――ッ


 しかし、血を流し過ぎたのかほんの僅か一瞬だけ青年の体がふらついた。その一瞬を見逃すわけもなく、男は弾けるように青年に向かって飛び込み両手で握った剣を斜め下から掬い上げるように振り上げた。


「ぐっ!」


 青年は体と男が振るう剣の間に自らの剣を差し込むことで完全に体を切断されることは免れることができたが、それでも完全には捌き切れず浅いながらも深手を負った方とは逆の脇腹を切られ傷口から血が噴き出す。


「反応の良さは流石だが、血を流し過ぎていたようだな」


 男は相変わらず淡々と言いながら、そのまま青年を蹴り倒す。

 

「ぅあっ!……っ!」


 血を流し体力も限界近い青年にとって、ただの蹴りであってもその衝撃はさらに出血させ体力を削られる一撃だ。それでも青年は男から視線を外さない。そんな彼に男は続ける。


「一部では我々の中で最も強いのはお前だと、そういう声を何度か聞いたことがあった。だからこそ我が直接お前の相手をしに来たというのに」


 男は血を振り払った剣を鞘に納め、倒れている青年に背を向け語り掛ける。


「興が覚めた。そのまま死ぬのであればそれまで、もし生き延びたのであれば次は楽しませろ」


 男は青年にそう言い残しその場を去っていった。男が去ったあと青年は僅かに緊張の糸を緩める。痛みと出血や疲労による体力の低下、いつ意識を手放しても不思議ではない状態。それでも青年は辛うじて耐え続ける。


 ―――――!


 ふと、青年は何もないはずの虚空を見つめ微笑みかける。そして右手を何かに添えるかのように上げる。


「す……まない……っ!」


 何かに謝罪の言葉を口にしたと同時に激しく咳き込み、口から僅かに血が飛んだ。


「君だけ、は……見つか、るわけには……っ……私、は……大丈夫、だから……!」


 ―――――!


 青年は変わらず優しく微笑みながら、


「少し、疲れ、たから……休ませ、て……もらう、よ……」


 虚空に向かってそう言い残し、ゆっくりと目を閉じた。




 ―――――――――――――――――――――――――




 『火』『水』『風』『雷』『土』『闇』『光』の七つの属性。

 この世界において、それら七つの属性は『精霊の七色』と呼ばれている。

 

 大陸を縦断する大きな山々の麓に広がる大森林から東の方に位置する大国。

 クストスムンドと呼ばれているこの国は『精霊の七色』を象徴とし、人類が世界の、精霊の、人のため、かつて起きた大災害を二度と引き起こさぬよう防ぐ目的で設立された軍隊を保有している。それこそが、


 ―――――『アニムスガーデン』


 第一から第七までに分かれているこの軍隊は、それぞれの属性の力を扱うことに長けた者を隊長としている。副隊長以下も扱える者は多くいるが、隊長に選ばれる者の能力の強さは文字通り別格である。

 そんな彼らを擁するこのクストスムンドが必要に応じて各地に軍隊を派遣し、そこで生じている問題を解決することで世界の平穏を保ってきた。


 だがある日、世界を揺るがす大事件が起きる。

 第一から第七のうち半数近くが崩壊。残りの者たちも深手を負い、以前のようにまともに戦えるようになるには長い時間を要する状態となってしまった。

 そんな大事件を引き起こし世界を混乱に陥れた人物こそ、第五精霊軍隊長アレクサンダー・フォートレス。

 土の属性の頂点に与えられる『フォートレス』という称号を与えられた彼は、そのあまりの強さ故に『無敵要塞』と言われ、周囲からも絶大な信頼を寄せられていた男であった。

 そんな彼がなぜこのようなことをしたのかは一切が不明。この大事件の影響で、世界中の人々はまたもあの大災害が起こるのではないかという不安に駆られ、怯える日々を過ごすことになる。



 ―――――それから3か月後。

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