第1話 太陽将軍都市防衛奮戦図 (前)
始めに少しだけ。
茶漬帝(emperor of oatmeal)という人物について語ろうと思う。なお、emperor of oatmealとは、当時唯国に布教に来た宣教師が皇帝に面会し、布教の赦しを得たことを半ば興奮気味に法王への手紙に書き残した際のものである。
この人物は在位中に現在の貨幣価値に換算して毎年百五十四億ドル、一兆六千億円三十億ドル、三千億円を生涯で稼ぎ、その墳墓に納められているとされる。
その墓とされるものは現在の央華民主主義人民共和国(central democracy country)の首都の郊外において発見されているが、財宝は見つかっていない。
唯時代の物と思われる墓が発掘された事があった。墓は中東の王族が埋葬されるピラミッド型墳墓を大幅に小型化し、一般住居程度のサイズに縮小したものであった。
発掘隊は正面玄関口の巨大な石扉をダイナマイトで破壊したが、内部に納められていたのは質素な木綿製の着衣。衣裳からして唯王朝時代のものと判明したが、あとは犬の死骸があるだけでいったという。木製の簡素な食器類が残るのみで当然ながら財宝の類はなかった。
既に盗掘にあったか、おそらくは別人のものだったのであろう。
または破壊した石扉に山や太陽等の絵柄。漢字等が刻まれていた。
もしかするとその石扉自体が財宝の在りかを示した地図であり、墓の主は財宝の番人だったのかもしれない。
遺跡の発掘調査自体曰く付きの物であり、考古学の権威であった麦国バルフォルニア州大学院の教授をリーダーに行われたが、棺の蓋を開き、遺体が抱えていた石板を見たとたんに、発狂。ツルハシを振り回して石板を破壊し、暴れだしたという。
精神病院に送られた教授は「私は正常だ!犬だ!窓の外に犬がいるんだっ!」と叫び続けていた。なお、教授が入院してきた病院は断崖絶壁の上。つまり、病室の窓から見える景色は海だけである。
「秘宝探しに生涯のほぼ全てを捧げる男達がいる。中には正気を失い、家から家へ、村から村へと物乞いをして歩くほど困窮しているのに、自分は富豪だと思い込んでいる者までいる」
と、書き残したのはメアリー・エライザ・ロジャースであるが、彼もその一人なのだろうが。
現在央華人民政府は財宝目当ての違法な採掘を禁止しているが、それでも一攫千金を夢見る山師達は後を立たない。
貧弱な装備と十分な知識もなく、作業中にトンネル内で肌落ち崩落事故起こして死亡する事も少なくない。
救出作業が行われた後、遺体を引き取らず、遺品の運転席が潰れ、履帯だけ残ったキャタピラーだけを回収しようとする遺族までいる。遺体は引き取っても葬儀費用がかかるだけだが、運転席が潰れていても鉄クズとして売れるので持って帰ろうとしたらしい、とは、仁義を知らぬ遺族を死体遺棄の罪で逮捕した役人の談である。
唯王朝は茶漬帝の治世からその子の代にかけて最盛期を迎え、その後は緩やかに衰退していく。
当代の面影忍ばせる水墨画が盛英博物館に収蔵されている。太陽将軍都市防衛奮戦図と命題されるこの一大絵画は茶漬帝治世時代の唯の一都市を描いた物らしいが正確な年代及びどの都市であるかはまでは不明である。
都市の中央にはやや大きめの邸宅が描かれている。富裕層もしくはこの都市の領主の物と推察される。そのすぐ傍にはピラミッド状の墓が存在する。
都市のど真ん中に墓があるというのは随分奇妙な話ではあるが、これは現代の我々が故人の写真に向けて祈りを捧げ、冥福を祈願するような感覚ですぐ身近な場所に墓所を設置していたのであろう。
屋敷には積み木遊びをする女児と家人らしき男性の姿。その近くの食卓には素麵らしき物を食べている女性の姿も見える。何かしらの具材が入っているようであるが、まさかこの時代の央国でスパゲティはあるまい。おそらくは蕎麦かうどんであろう。
街中に目を向けてみると唯時代の国際交流の進展具合がよくわかる。外観は普通の央華料理店ではあるが店内で央華鍋を振っている人物。調理人は黒人男性であり、給仕の娘は金髪の白人女性である。さらに通りには西行教、天主教、回天教の寺院が揃って立ち並び、説法を書かれたと思われるビラを配ってる。
薬屋らしき店舗。店の壁には太陽を中心に周回する惑星が描かれている。なんと最外周部の第九惑星迄描かれている。
唯時代は天文学が非常に発達していたらしく、「空の彼方、統べてを呑み込む闇の星在りき。光すら逃げさせこと叶わず。」との、天文学書に記載がある。これには高性能なレンズを持つ望遠鏡が必要であるが、残念ながら実物は残されていない。
訪れている客はツインテールにロングドレスという、五百年前にしては随分とハイカラな格好である。
薬屋は普通に車輪型すり鉢で薬を調合をしているだけだが、この人物はもしかすると貝夫大人(shell man)かもしれない。
貝夫大人は茶漬帝から直々に教えを授けられた、優れた仙人であるという。
貝夫大人が書いた書物の実物が現存しているが、ごく普通漢方薬と栄養学の本であった。
最もこの時代で王宮レベルの医療を一般庶民に施す事が出来る人物ならば、間違いなく「仙人」であったろう。
病人に与えるお粥のページに「油っ濃いものが食いたい」だの、粥の挿し絵に食用油をぶちこむ落書きがしてある辺り、普通の「仙人」であったようだ。
十年程前までは央国テレビ制作、貝夫大人が腕を切断された人間を元に繋ぎ直したり、死人を生き返らせたり、挙げ句の果てに自身が殺害された後夜明けと共に甦り、朝日を背に、「貴様らのような妖怪どもに唯の国を好きにはさせんっ!!」と、高らかに宣言するドラマがネット配信を通じて全世界的にヒットしていた。近年では央国共産党の指導の下、その様な荒唐無稽な内容のドラマは制作しないよう是正勧告がなされている。
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