第27話 俺の片親が狼獣人?
地上に戻った俺達は納品と報告のために冒険者ギルドに行った。
ランガ達が受付で収納の魔道具をギルド職員に渡して集計を待つだけのはずだった。しかし、ギルマスのザンベルトさんに会議室に呼ばれたのである。
収納の魔道具はダンジョン用に俺が提供したものだ。収納の魔道具があればダンジョンからの素材を大量に確保できるとダンジョン村を作った当時に考えたからだ。
冒険者ギルドが希望する冒険者に収納の魔道具を貸し出す。冒険者はダンジョンで採取した素材を魔道具に入れた状態で返却すると、ギルド職員が集計してギルドカードに買取金を振り込むのだ。
魔道具は腕輪型で腕を切り落とさないと外せないようになっている。魔道具は冒険者ギルドでしか取り外しができないようになっている。もし収納の魔道具を盗もうとしても、ダンジョン村から出ると例の頭痛に襲われることになるのだ。
「テンマ君も納品したのかい?」
「いえ、素材は自分達で消費するつもりなんで納品しませんよ」
ザンベルトさんに答えると彼は少し残念そうな表情を見せた。
「そうかい……、それでダンジョンを攻略したと職員が聞いたようだけど、本当のことかい?」
俺はそんな報告はしていないが、ランガ達が話したのだろう。
「ええ、十一層の島に十二層への階段あって、十二層が最終階層でした」
「「「し、島……?」」」
ザンベルトさんだけでなくランガ達も驚いていた。ランガ達にも詳細に説明はしていなかったのを思い出す。俺は改めて十一層からのダンジョン内の様子を説明した。そして自分用に作っていたダンジョンマップをザンベルトさんに転写して渡す。
ダンジョンマップには全階層の地図と素材の位置、それぞれの階層で見かけた魔物の情報を記載してある。
ザンベルトさんやランガ達も海や島と聞いても、あまり理解できていない様子だった。海など見たことのない彼らには想像もできないのだろう。
「水の上や中で戦闘……、俺達には攻略できそうにないな……」
ランガが呟くように話すと、ザンベルトさんも含め全員が頷いていた。
「このダンジョンマップは助かるよ。これを冒険者ギルドで書き写して販売しても構わないかな。もちろんテンマ君にも報酬が入るようにするよ?」
「いえ、無償で冒険者ギルドに差し上げます。覚書でしかないので気にしないでください」
「ふぅ~、これが覚書……、テンマ君のことだからそうなんだろうね。でもこれがあれば冒険者も助かるだろう。無駄に迷うこともないし、効率的に素材が集められるだろう。いやぁ、本当に助かるよ。ありがとう」
ザンベルトさんは感謝してくれたようだが、呆れたような表情もしていた。そして気持ちを切り替えたようにまた尋ねてきた。
「そこの坊やはテンマ君の弟だというのは本当かい?」
さすがにダンジョンを出たときはルーム内にいたシルも、会議室に移動してすぐにルームから出した。今はジジとミーシャに挟まれておやつを食べている。口がおやつで汚れると、ジジとミーシャが交代で拭いていた。
俺の弟だと!
可愛いい弟をみんなからも正式に認められたようで、思わず嬉しくなった。
「はい、俺の弟です!」
「そ、そうかい。テンマ君の弟なら子供なのにグストより強くても不思議じゃないね。……テンマ君の親の一人は狼獣人だったんだ」
んっ、なんか違和感がある?
なんで俺の片親が狼獣人になるんだ?
「え~と、弟と言っても義理のというか、従魔というか……、あれっ、なんか勘違いしていません?」
「「「えっ、従魔!」」」
おいおい、なんでランガ達まで驚いているんだよぉ~!
どんな説明をしていたのか気になってミーシャを見る。ミーシャはシルのおやつを食べる姿を笑顔で見ているだけで話しを聞いていないようだ。
「あのぉ、シルのことは知っていますよね。あれはそのシルですよ。今回のダンジョン探索で人化スキルを取得したんですよ」
あれっ、なんでランガ達も驚いているんだ!?
「ミーシャから弟だと聞いたけど、それはないだろ。テンマにどことなく似ているからテンマの弟なのかと……」
ミーシャの説明かぁ~。勘違いもするだろうなぁ……。
というかミーシャは説明したのか?
口下手のミーシャに説明など無理だと今になって思う。ミーシャに弟がいないことをランガは当然知っている。口下手のミーシャに尋ねても仕方ないと諦めて、ランガは自分なりの結論を出したのだろう。そして周りもランガの話に納得したというところかぁ……。
ザンベルトさんはシルと言われても、まだよく理解できていないようだ。他の連中も同じような雰囲気だ。
俺は説明より見せたほうが早いと考えて、シルに話しかける。
「シル、おやつは後にしてモフシルになってくれるか?」
「んっ、モヒュシリュ?」
口の中におやつを食べながら喋るんじゃない!
「モフシルはモフモフのシルのことだよ。今の姿は
勝手に俺がシルの姿を呼び分けていただけなので簡単に説明した。シルとジジやミーシャも理解できたようで頷いてくれた。
シルは椅子の上に立ち上がると姿を変えるのか変身ポーズを始めた。
「へーーン、シンッ、トオゥー!」
シルは掛け声とポージングをして、最後に跳びあがって一回転した。空中で光って椅子に着地するとモフシルになっていた。
絶対にミーシャが教えたのだろうなぁ……。
会議室にはミーシャとジジの拍手だけ響いていた。ザンベルトさんやランガ達は固まっていた。
シルはミーシャ達に拍手されて得意気な表情になっている。
「シル、今度はヒトシルになってくれるかい?」
「ウゥー、ワン、ウォン!『へーーン、シンッ、トオゥー!』」
今度はポージングをしなかったが、同じように跳びあがって一回転するとヒトシルになっていた。
ミーシャ「ふふふっ、やっぱり私の弟!」
ジジ「よくできました。ご褒美のおやつよ」
シル「お姉ちゃんありがとう、ウグッ」
シルはジジにお礼を言って出されたプリンを食べ始めていた。
ザンベロトさんに驚かれたようだが、興味深い話を聞くことができた。
従魔が魔石を食べるのは、冒険者ギルドでよく知られた話だったようだ。従魔に魔石を食べさせると成長が早まり、元気になることは常識のようだ。従魔は同じ系統の魔石を好んで食べるらしい。
クラーケンはシルと同じ系統ではないよなぁ……。
シルは食いしん坊だから関係ないのかもしれないな。
魔石は魔道具や錬金術の素材としての価値もあり、従魔に与えることは限られてくる。特に上位種の魔物の魔石など与えることはないということだ。
試しにシルが食べたのと同じクラーケンの魔石をザンベルトさんに見せると、買取価格がいくらになるかすぐに判断できないほど上位種の魔石だと言われてしまった。
さらに冒険者ギルドでも従魔の種族進化が発生することは、それなりに知られているようだ。ただそれほどたくさんの前例があるわけでもないようだ。
種族進化も稀なことで、進化した種族も多岐に渡る。だから種族進化のメカニズムは何も分かっていないらしい。
それほど情報は多くないが、種族進化や魔石と従魔の関係の話を聞けただけでも助かる。
それに人化スキルはリディアのような伝説的な物語でしかないようだ。
それで話は終わりとなった。今晩はザンベルトさんの屋敷で泊めてもらい、明日ロンダの町に移動することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます