第20話 町ごと囲い込み
晩餐会の食事は終わったが、各々がお茶を飲んだり談笑したりしてまだ解散する雰囲気はない。女性陣の大半がウェディング衣装のマネキンの近くに集まり、ジジの手にある指輪を見て騒いでいた。
「テンマ、あんまり凄いことするなよ。お前と比較されて大変になるじゃねえか!」
ランガは不満そうに言ってきた。
「おう、俺も大変になりそうだ。ルカに色々ねだられて困っているぞ!」
グストも不満そうに言ってきた。俺はグストの愚痴を無視して、久しぶり話す彼に挨拶する。
「グストさんお久しぶりですね。ロンダ子爵家騎士団の副団長になったそうですね」
グストが冒険者を辞めて騎士団に入ったことは知っていた。今では副団長まで出世したことはランガから聞いていた。
「ふんっ、久しぶりだな。副団長だと言っても給金はそれほどでもないんだ。
ランガやグストの気持ちが分かるぅ~。
ジジに何か欲しいと言われたことはない。だが周りの女性達に振り回されることが多いから気持ちが分かるのだ。
「な、なんか考えてみます」
「お、俺も頼む!」
ランガも便乗して頼んできた。
いやいや、サーシャさんにはすでにお土産を渡したじゃん!
そして割込むように新三姉妹、……プラスワンが話しかけてきた。
メイ「お兄ちゃ~ん、メイもあれを着てみたいのぉ~」
ピピ「ピピもお願~い!」
エアル「め、妾の私も着られるのじゃな?」
フリージア「第三側室の私も着られるのね!」
エアルと
「それは二人が大人になったら考えようね」
ダブルでケモミミを撫でながら優しく話した。
「「うん、わかったぁ。大人になったらお兄ちゃんのお嫁さんになるぅ~」」
くぅ~、お兄ちゃんは嬉しいよぉ!
「テンマ、メイに手を出したら、命をかけてお前を倒す!」
ランガの気持ちも分かる気がするぅ~!
二人が大人になって別の男を連れてきたら、俺は号泣する自信がある。
「絶対に俺の娘はテンマには会わせられないなぁ~」
グストはランガの様子を見てそう話した。
俺だってこの二人を義理の父にはしたくない!
「あら、私はテンマ君に娘をもらってほしいわ。テンマ君、お久しぶりね」
いつの間にかルカさんが俺達の近くに来ていた。
「ルカ! こんなヘタレに娘をやらんぞ!」
ヘタレって言うんじゃねぇーーー!
「あなた! テンマ君以上の優良物件がいると思っているの。娘じゃなく私がテンマ君のお嫁になろうかしら?」
おいおい、人妻が何を言っているんだ?
「お前はルカに手を出したのかぁ!」
グストさんや、そんな恐ろしいことするかぁーーー!
このような混乱した状況が、夜遅くまで続いたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日は俺も久しぶりにロンダの町を散策したかったので、別行動することにした。みんなと一緒に行動すれば目立ちすぎて散策などできないと考えたのである。
ドロテアさんが新三姉妹プラスワンを連れていった。サーシャ姉妹とルカさんはランガとグストを連れて出かけたのである。
俺はジジと二人だけだ。
「ジジ、俺達もそろそろ出かけようか?」
「はい!」
すでに他のみんなはしばらく前に出かけていた。俺は時間をずらして出発することにしたのだ。
新ドロテア屋敷を出発して、町の中心に向かってゆっくりと歩いていく。人を見かけることはほとんどなく、二人でのんびりと歩きながら談笑する。
こんな感じで女の子と二人で歩けるとはなぁ。
前世では一度もなかったことだ。
ウキウキしながら中央広場に到着すると、大通りに向かって人の波ができていた。
う~ん、向こうに行くのはやめよう!
向こうに行けばドロテアさん達がいるのではと思ったのだ。
中央広場からは人も減っていたので、ゆっくりと広場を見回した。
商業ギルドの建物は変わらないが、それ以外の建物や商店は以前とは違っていた。ロンダの景気も良くなったことで、商人も増えたのであろう。
その中でもひと際大きな建物は見覚えのある商会だった。
俺はその商会に近づいて覗いてみる。乾燥したハーブがたくさん並び、ブレンドして使いやすくした商品もあった。隣にはジャーキーが並んでいたが、他にも様々な種類の燻製が並んでいた。
おおっ、独自に工夫して新商品を作っているみたいだなぁ。
「あっ、この組み合わせは海の幸に合うかも……」
料理の好きなジジはハーブ類が気になったようだ。
「お嬢さん、それは香りもよくて、えっ、テ、テンマ様!」
ジジに声をかけてきたのはラーナさんだった。開拓村に行商に来て不幸なことに亡くなってしまったソランさんの奥さんだ。
「お久しぶりです、ラーナさん。開拓村で息子さんに会いましたよ」
普通に挨拶したつもりだが、ラーナさんは驚いたような表情をしたと思ったら、走って奥に入っていった。しばらくするとカロンさんと一緒に戻ってきた。
「お久しぶりでございます! テンマ様のお陰でカロン商会も順調に成長しました。よろしかったら中でお茶でもどうですか?」
カロンさんは満面の笑みで声をかけてきた。
「いえ、ジジがこちらのハーブに興味があるので、ゆっくりと見せてもらいますよ」
ジジはハーブが気になるようで、カロンさんが出てきたことも気付かず、ハーブ類を見ていた。
ラーナさんがジジの様子に気付いてすぐにハーブの説明に行く。すぐに二人は料理とハーブについて話が盛り上がっていた。
そんな二人を見ていると、カロンさんが話しかけてきた。
「あちらが婚約者になられたジジ様ですね。商会が大きくなったのはテンマ様のお陰です。ハーブ関係の商品を、婚約祝いでお屋敷に届けさしていただきます」
おうふ、なんで知っているのぉ?
婚約のことは昨日の朝、みんなに話したのである。カロンさんまで伝わっていたことに驚いた。
「気を使わないで良いですよ。ハーブや燻製も色々と工夫しているじゃありませんか。カロンさんの努力で商会が大きくなったのですよ」
それからカロンさんとあれからのことを色々と話してくれた。
カロン商会は行商をしなくなっていた。しなくなったというより必要が無くなったのだ。
各村への道が整備され、数日ごとにロンダの町から定期馬車が各村へ出るようになった。それならとカロンさんは行商ではなく各村にお店を開くことにしたのだ。村の産物もロンダに卸せるようになったので、村も豊かになり、商売も順調のようだ。
カロンさんと話している間に、ジジはいくつかのハーブを買ったようだ。
俺はカロンさんに挨拶して立ち去ろうとしたら、カロンさんから話をされた。
「テンマ様、あのときのミーシャさんやドロテア様まで側室になられるそうで、本当におめでとうございます!」
な、なんで知っているのぉーーー!
俺が驚いた表情をしたので心配したのかラーナさんが尋ねてきた。
「あ、あの、朝早く村長のサーシャさんがご挨拶に来て教えてくださいました。それにドロテア様も、先ほど広場でお話をされましたが……」
何しているのぉ~! ロンダの町ごと囲い込みだぁーーー!
サーシャさんとドロテアさんの囲い込み作戦は完璧だった。それから俺達はどこへ行っても、住民から次々とお祝いの声をかけられたのである。
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