第14話 一緒が一番!
「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
ピピが心配そうに声をかけた。
この数日でジジの雰囲気が変わっていた。追い詰められたような表情になり、口数も少なくなっていたのだ。
猫の
「うふふ、ピピは変なことを聞くのね。私はもちろん大丈夫よ」
ジジは優しくピピに微笑みながら答えた。
ピピはジジの反応に不安を感じていた。ジジの様子が良くなっていたのだが、あまりにも寝る前と違っていたからだ。
この数日、ジジは忙しくしていた。
昼は町の名士が次々とジジに挨拶にきて、領主のアルベルトやその家族との食事会もあった。
夜にはルカやカリアーナ、そして領主関係のソフィア夫人達も毎晩のように猫の
そのせいで猫の
ジジは追い詰められて笑顔もなくなり、ついに昨日は宿の部屋から一歩も外に出かけなかったのである。
そんなジジの様子を間近で見ていたピピは、姉が壊れてしまったのではないかと思ったのだ。
「ほ、ほんとうに? グスッ」
ピピは心配になり涙目でジジにもう一度尋ねた。
「どうしたの? お姉ちゃんは本当に大丈夫よ。それにテンマ様が今日の昼には町に来ると連絡があったのよ。ふふふっ」
ピピはジジの話を聞いてホッとすると同時に嬉しくなる。
(お兄ちゃんが来るなら、お姉ちゃんは大丈夫だ!)
ピピはようやく姉のジジが笑顔になった理由が分かった。
「ヤッターーー! お兄ちゃんに会えるぅ~!」
「もう、ピピもテンマ様に会えるのが嬉しいのねぇ」
ピピはもちろんテンマに会えることは嬉しかった。だがそれ以上に姉のジジがテンマと一緒にいると幸せそうにしているのを見たいのだ。
二人は抱き合ってテンマに会えるのを喜ぶのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
俺は昨日の夜遅く、ジジに明日合流すると念話で伝えた。
この数日は他にやることもなかったので、毎日のようにランガ達や冒険者達と訓練をしていた。
そのことで村人達からは恐れられたのか距離をとられ、開拓村での居心地が日々悪くなった。
追い打ちをかけるように、女性達からはお土産の下着について次々と質問された。女性と下着談義など俺にはハードルが高すぎるので、益々居心地が悪くなったのである。
シルは開拓村で人気者となり、夜はメイたちと一緒に寝ていたので、俺はシルモフの充電ができないのだ。
そうなるとジジ膝枕が恋しくてなり、ジジに会いたくて仕方なかった。
念話でジジに合流することを伝えたときに、ジジは「わかりました」とそっけなく答えたことが内心では寂しいと感じていた。
目を覚まして、落ち込み気味に朝食に向かうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
朝食が終わるとリビングでサーシャ家も一緒に今後の予定について話をする。
「サーシャさん達も俺達と一緒にロンダの町に行くということで大丈夫ですよね?」
前からサーシャさんに頼まれていた。
「メイはお兄ちゃんと一緒なのぉ~!」
俺の問いかけにまずはメイが返事をした。
「ええ、ちょうど良い機会だから、久しぶりにロンダの町にメイと一緒に行くわ」
俺としてはメイと少しでも長く一緒にいられるのは大歓迎だ。ランガも一緒に来るはずだが、サーシャさんの言い方にはランガが入っていない……。
ランガはいつものことなのか、そのことに気付いていないのか、笑顔で頷いている。
「早くダンジョンに行きたい!」
ミーシャは変わらないなぁ。
「ロンダの町に行って挨拶回りしてからダンジョンへは行く。数日だけ我慢してくれ」
「わかった」
ミーシャの頭の中はすでにダンジョンのことしかないようだ。それでも不満そうにしないだけましだと思おう。
エアルはメイと騒いでいて不満などなさそうだ。
完全にエアルとメイは親友になったようだねぇ。
見た目は同世代だから自然な感じだが、実年齢を考えると不思議な組み合わせだ。ロンダの町ではピピも合流する。
新たな三姉妹の誕生だな……。
この世界では、見た目に精神が引っ張られるのだろうか?
そんなことを考えていたが話を進める。
「移動はみんなにルームに入ってもらって、フライで飛んでいくからすぐ着くよ」
「伝説のルームに入れるのね。凄いわ!」
「すごいのぉ~!」
サーシャさんとメイは嬉しそうに話した。
「ルームはもう伝説ではありませんよ。他にも使える人はたくさんいますからね」
すでに生活魔術のルームが使える人は増えている。マリアさんだけではなく、黒耳長族や王都で研修を受けている人達の中にも使える人が多くいるのだ。
「それでも私は初めての経験だから楽しみにしているのよ」
「「楽しみ! 楽しみ!」」
サーシャさんは笑顔で話し、エアルとメイは二人で踊りながら喜んでいる。
やっぱり見た目で精神年齢は低くなるようだ!
勘違いかもしれないがエアルを見て俺は確信した。
「ロンダの町の用事が終わったら、ジートやズラタンとも合流してダンジョンに行くからね」
「早く用事を終わらせる!」
俺の話にロンダの町で用事などないはずのミーシャが、気合を入れて話した。
◇ ◇ ◇ ◇
大まかな話はしてあったので、すぐにみんなの準備もできたので町に出発する。
村人の前でフライを使って飛び立つのも抵抗があったので、普通に村人に見送られ門から歩いて出発した。
すぐに村から見えない場所に移動するとルームを開いた。みんなと順番に手を繋いでルームの中に入る。ルーム内の様子にサーシャ家の三人は驚いていたけど、後はミーシャに任せて俺はルームから出る。
「私だけルームやD研に入れないのは寂しいわ」
いつもの場所にジジとピピが待っていた。
俺は二人のすぐ近くに降り立った。
俺はジジに会えて嬉しかったが、彼女がどう思っているのか分からず反応に困った。
「や、やあ待った─」
ドンッ!
「うえ~ん」
ジジに声をかけると、ジジは突然抱きついてきて、泣き出してしまった。
俺は予想外の事態にあたふたとした。しかし、すぐにいつまでも泣くジジの温もりを感じて、無意識に強く抱きしめる。
しばらくその状態が続いた。風で揺れる草や木々の音を聞きながら、俺はジジを一生守ろうと改めて心に決めた。
「ねえ、そろそろ満足したんじゃない?」
少し呆れた感じで、
「えっ!」「あっ!」
俺とジジは
ジジは耳まで真っ赤にしていたが、俺も耳まで熱いので同じであろう。
「ご、ごめんなさい。あの、え~と、テンマ様がいないと大変で、顔を見たら思わず……」
ジジはまだ瞳が湿っていたが、泣き止んだようで、恥ずかしそうに話した。
「お、俺は、そのぉ~、ジジがいないと寂しくて……」
「ハイハイ、いちゃつくのは後にしてほしいわ」
くっ、いちゃつくとか言うなぁ! 恥ずかしいだろ!
「ジジ、本当に大丈夫かい?」
「大丈夫でしゅ!」
あっ、噛んだ! それがまた可愛ええのぉ~!
「お姉ちゃんは、お兄ちゃんに会えたから大丈夫!」
ピピちゃん、何て嬉しいことを言ってくれるんだぁ!
「大丈夫なら良かったよ。やっぱりジジとは一緒が一番だ!」
「ひゃい!」
噛みまくるジジがまた愛おしく感じて、抱きしめたくなる。
俺は先ほどまで胸の中にいたジジを思い出すのであった。
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