第8話 みんなの成長
歓迎会に懐かしい顔ぶれがそろったが、ドロテア株が気になって落ち着かなかった。しかし、予想と反してドロテア株の症状は落ち着きを見せていた。
これなら隔離は必要ないだろう……。
のじゃのじゃ4姉妹の話し合いを秘かに聞いていたのだが、結論としてジジと俺を早めにくっつけようという結論に至ったようだ。
それはそれで、おせっかい婆さん、いや、婆さんは失礼……じゃない! おせっかい婆さんみたいでいい迷惑だが、ジジに突撃した4姉妹は撃沈していた。
ジジは4姉妹の質問やお願いを軽く受け流し、あんまり騒ぐと歓迎会用の食事を減らすとジジに言われると、大人しくなっていた。
「なにかジジちゃんに風格というか、余裕が感じられますわ。あん、随分と関係が進んでいるのかしらねぇ。くぅ~、んふぅ」
マリアさんが耳元で呟いてきた。
お願いだから耳元で変な声を出さないでほしい。何を呟かれたのか頭に全く入ってこなかった。
「おい、もうそれは俺の
「おっ、昔は横で羨ましそうに涎を垂らしていたくせに、弱虫バルカスが生意気なことを言うようになったなぁ」
今もマリアさんの
しかし、とんでもなく個性の強い冒険者パーティーだったのだろうと、俺はしみじみ思うのだった。
「いやぁ、あの当時は、ドロテア様は魔術の研鑽以外に興味はありませんでしたし、マリアさんはドロテア様に憧れている夢見る魔術師でした。バルガスは当時からマリアさんに惚れていましたが、隠れて覗きをする程度のでしたなぁ。リディアさんは今とまったく変わりありませんでした。食べ物を与えておけば、それ以外は今みたいにマリアさんと仲良くする。まあ、よくある普通の冒険者パーティーでしたよ。ハハハハ」
いやいや、そんな冒険者パーティーが普通だったら嫌だよぉ。
バルドーさんは俺の考えていることが分かっていたのか、いつの間にか反対の耳元から話しかけてきた。それはそれで恐ろしい気もする
「テンマさん、色々と連れてきてしまって申し訳ありませんね」
王妃様が申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「いえ、それより国の代表としてエクス群島に来られたのに、護衛は冒険者なんですね?」
王妃様が冒険者に護衛を頼んで国外へ行くのは不自然だと思って尋ねた。
「もちろん正式な護衛は他にいますわ。今は執政官が用意してくれた宿舎にいるはずです。ドロテア先生は半分無理やりついてきたのですけど、国で上位の冒険者が、揃って無償で護衛してくれるのであれば、喜んでお願いしますわ」
おうふ、ドロテアさんの我が儘なのかぁ。
なんとなく、そんな気もしていたが……。
まあ、王妃様もこの状況を楽しんでいるから大丈夫なんだろう。
ミーシャは仲間の
その日の夜は歓迎会で出された料理に、王妃様やドロテアさん達も感動していた。
食後は双六を出してみんなで遊び、4姉妹が騒ぎ過ぎて何度か頭痛(中)を受けていたが、問題なくその日は過ぎたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌日は朝から砂浜でミーシャと仲間の
俺を囲むようにジュビロとタクトが正面に並んで剣を構えている。その後ろにはマリアさんの娘であるミイが、魔力を練って魔法を放つ準備をしている。突然横合いからリリアが斬りかかってきたが軽く剣でいなす。
その隙をついてジュビロとタケトが左右に分かれて弧を描くように俺に向かってくるのが見えた。砂浜なのに二人は足を取られることなく軽やかに向かってくる。2人が走り出したことで開いた正面からミイが火魔法を放ってきた。
俺は火魔法に向かって前に出ると剣で火魔法を切り裂き、それと同時にミイに水魔法を放った。すぐに振り向くと正面からリリアが、左右からはジュビロとタクトが斬りかかってきた。
後ろでミイの悲鳴が聞こえたが、彼らは気にすることなく俺に斬りかかってきた。
俺は正面のリリアの剣を剣で弾くとその勢いでタクトの脇を剣で斬りつけ、片足でジュビロを蹴って吹き飛ばした。
リリアは弾かれた剣の勢いを上手く利用しながら剣筋を変えて斬りかかってきた。その時、背後からまた火魔法が飛んでくるのを感じて、横にずれながらミイの魔法を放った場所にナイフを投げつけた。リリアはミイの魔法を避けようと体制を崩していたのでリリアを蹴り飛ばす。それと同時にミイの悲鳴が聞こえた。声の感じで、さっきの悲鳴が嘘だと分かる。
勝負が決まったと油断しそうになったが、背後に気配を感じて無意識で避ける。予想以上に鋭いショートソードが脇を掠めるように通り抜けた。ミーシャがショートソードごと横を駆け抜けようとしたので足を引っ掛けるとそのまま砂浜にダイビングした。
倒れているミーシャにナイフを投げると同時にミーシャの横に移動する。ミーシャはナイフに反応して必死でショートソードを使ってナイフを払った。しかし、その時にすでに俺はミーシャの横に移動していたので腹を蹴り飛ばす。ミーシャは回転しながら吹っ飛んだ。
俺はもう一度周りを見回して確認する。
ミイは跪いていて、目の前にナイフが落ちている。訓練用のナイフだから刺さってはいないが痛そうに左胸を抑えている。うまく心臓付近にナイフが当たったのだろう。
タクトは訓練用剣で斬られたのだが、切れてはいないが痛みで悶えている。それ以外の3人は蹴り飛ばされて骨でも折れたのか苦しそうに呻いていた。
「アンナ、みんなを治療してくれ」
「はい」
アンナが治療している間に皆の成長具合を確認する。
ミイは魔力制御が非常に上手くなり、そして早くなっていた。見てはいなかったが火魔法を放ってから障壁系の魔法で俺の水魔法を避けてたのだろう。そして嘘の悲鳴をあげて油断させ、即座に次の魔法を放ってきたのだ。魔力制御のレベルが高くないとできない芸当だ。
リリアの連続攻撃も淀みなくできていた。正面ではなく横合いから攻撃して相手の意識を横に向け、ジュビロ達やミイから意識が離れるようにしてきた。相手によっては対応できないだろう。
ジュビロとタクトとの連携も悪くなかった。二人の動きも良かったが、魔物相手というより人相手の訓練もしっかりやっているのだろう。
ミーシャは油断すると本当に存在を忘れそうになるくらい上手く気配を消していた。あの最後の攻撃は中々鋭かった。あれを躱せる相手がどれほどいるのだろう。
全員が王都で別れた時より数段成長していると分かった。
リリア「初回から完璧に避けられるとは思わなかったよ」
ジュビロ「あぁ、バルガスさんには何度か攻撃が当てられたのに……」
タクト「バルガスさんは攻撃が当たっても平気だったけどね……」
ミイ「でもミーシャちゃんの攻撃は効いて倒れたじゃない」
ミーシャ「テンマはバルガスと全然違う!」
うん、全然違うと俺も思う。
バルガスとは戦闘スタイルも違うし、その気になれば一瞬でみんなを倒す事もできた。訓練だからそんなことはもちろんしない。
「テンマ、もう一度!」
ミーシャはキラキラした瞳で要求してくる。相変わらず訓練好きは変わらないようだ。
しかし、そこにマリア夫婦とリディアがやってきた。後ろからはしゃぎながらついてくる4姉妹も居る。
「あなた達も、あん、ドラ美様に背中に乗ってみない?」
マリアさんがリディアに胸を好きにさせながら尋ねた。
バルガスがリディアを睨んでいるが胸を触るのを止めていない。何かしらの取引があったのだろう。
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