第10話 ホレックからの使者②
使者としてきた彼らは、信じられない話ばかりで、また馬鹿にしていると思ったようだ。
「ふ、ふざけるのもいい加減にしろ! それは宣戦布告として受け取ることになるのだぞ!」
「えっ、あなた達が宣戦布告をしにきたのですよね?」
バルドーさんは司令官のダガード子爵をからかうように尋ねた。
「ち、違う! 降伏すれば寛大な処置をすると伝えにきたのだ!」
いやいや、ロリコンの生贄になるだけでしょう!
「それこそ宣戦布告ではありませんか。魔王から我らの祖先を守ろうと戦った伝説のエクス殿の一族に降伏しろとは……ははあん、子供好きの愚か者の差し金ですかぁ。いや、さすがにこれほどの兵士を投入するとは思えませんなぁ。ああ、ヴィンチザード王国へ塩が売れなくなって追い詰められてダンジョンを確保することにした。もしくはその両方というところですかな?」
バルドーさん煽りまくってる?
司令官のダガード子爵は顔を真っ赤にして怒っている。ジカチカ子爵は目を細めてバルドーさんを睨んでいる。
「お前は何者だ? どこの国の者だ?」
さすがは参謀長! バルドーさんがあまりにも事情通だから、気になったようだ。
「だから商人マッスル様の執事だと言ったではありませんか? 我々は世界中を商売で旅する者です。商業ギルドは国には所属していませんのであしからず」
だ、だから俺をマッスルと呼ぶのは止めてくれぇ~!
なんで最後にウインクしたんだぁ~!
最初はホレック王国が理不尽に黒耳長族を攻めてきたと思った。しかし、バルドーさんのやり取りを見て、明らかに相手の方が弱いと思う。
マッチョーズはすでにほとんどの者がマッスル弾を撃てるし、エアル達ロリーズの魔術も劇的に進化した。これでは弱い者イジメになりそうである。
「戦争だ! いや、殲滅だ! お前達を皆殺しにしてやる!」
う~ん、実力差が分からないのは気の毒だ……。
ダガード子爵がそう叫んだが、バルドーさんは嬉しそうに微笑んで言った。
「では、国ごと滅びなさい!」
やはり、バルドーさんはホレック公国に含む所があるようだ……。
「ちょっと待って下さい。あなた達が自分達の都合で戦うのは構いませんが、これでは本当に国が滅びますよ?」
さすがに気の毒で俺は口を挟んだ。
「若造が何も分からずに口を挟むな!」
……司令官が馬鹿では兵士が気の毒だ。
「え~と、別にあなた達が死ぬのは構いません。でも、後になって、愚かな理由で国が滅んだのでは、関係ない人が可哀そうです。少しだけこちらの力を見せるから、それからどうするか考えてはどうですか?」
「テ、マッスル様、それでは手の内を相手に教えることになります!」
バルドーさん、名前を間違えそうでしたよ。
「いやいや、教えたからと言ってどうにかできるとは思えませんよ。それにこれでは弱い者イジメみたいで可哀そうじゃないですかぁ」
「ククク、弱い者イジメですか。確かに可哀そうですなぁ」
その悪い笑顔は止めてくださ~い!
「ふ、ふざけるなぁーーー!」
あっ、馬鹿が切れた!
「待ちなさい! わざわざ手の内を見せてくれるというのです。見せてもらいましょう」
おっ、さすが参謀長というだけある。
参謀のジカチカ子爵は我々が冗談ではなく自信を持っていることに気付いたようだ。
以前にも痛い目をみたのだ。黒耳長族の実力はある程度知っているのだろう。それなりに数を揃えてきたところをみると、それほど黒耳長族の事を侮っているわけではないのだろう。
「「「はい! はい! はい!」」」
エアル姉妹だけでなく、マッチョーズも全員が手を上げている。思わず見た目可愛らしいエアル姉妹を指名したくなる。だがここは伝説のエクス様の再来が良いだろう。
バルドーさんから勇者物語にある英雄エクスさんの話は聞いていた。
勝手に俺はマッスル弾と呼んでいるが、勇者物語では離れた魔族を幻の拳で殴り殺したとある。そうなるとマッチョーズの出番だろう。
「マッスル師匠、どうか私にその大役をお任せください!」
「「「マッスル師匠、私にお願いします!」」」
くっ、使者が帰ったら、『マッスル師匠』は厳禁にしよう!
◇ ◇ ◇ ◇
指名したのはマッチョーズの中でまだあどけなさの残る、最後にマッスル弾を習得した者だ。
「え~と、黒耳長族の男は成長が早く、男は10歳ぐらいで人族の大人と同じぐらいに成長します。彼はこの見た目ですがまだ12歳です」
彼らが信じるか分からないが、本当の事を説明する。
この大役を任されたマッチョーズの少年は目を輝かせて気合が入っている。子供のように得意満面な表情で嬉しそうにしている。
ああ、実際に子供なのかぁ……。
「ふん、そんなことを言って一番の実力者を見せて我々を騙そうとする作戦だな」
おうふ、この司令官は本当に愚か者のようだ。
マッチョーズの少年は一番の実力者と言われて、さらに有頂天になってるぅ。
見た目は大人だが中身はまだ子供だから仕方ないかぁ。
バルドーさんは勘違いしている司令官を嬉しそうに見ている。参謀のジカチカ子爵は油断することなく様子を窺っている。
マッチョーズの少年は20メートルぐらい離れた岩に向かって構えると、気合を入れて声を上げる。
「マッスルゥーーー、ハッ!」
バンッ!
気合を入れすぎて魔力は多く込めたようだ。しかし、狙いが逸れて岩の端にマッスル弾が当たった。岩の4分の1ほどが吹き飛んだが、本人は悔しそうな表情をする。
それでも使者の連中は驚きで呆然としていた。
「だからお前はまだまだなんだ!」
「マッスル師匠! やはり俺にやらせてくれ!」
「これでは英雄エクス様の恥だ!」
マッチョーズさん、みんな厳しすぎるよぉ!
ああ、マッチョーズ少年が泣き始めたぁ。
体は大人だが、中身は子供だ。悔しくて泣いたのだが、泣き方は明らかに子供の泣き方だ。
「お前達、いい加減にするのじゃ! 子供を泣かしてどうするのじゃ!」
見た目は泣いた少年より幼いエアルが、マッチョーズを叱りつける。
うんうん、エアルさんも大人の対応をしているなぁ。
「これで、油断してくれた方が、訓練ができるのじゃ!」
「「「おおお!」」」
全然大人の対応じゃない!
もしかして俺は危険な一族に知識や技を教えたのか!?
いや、たぶん手にした玩具を使ってみたいのだろう。
司令官のダガード子爵は島を後にする時には真剣な表情になっていた。自分達が油断していたことは認識できたのだろう。しかし、戦意が無くなった感じはしなかった。
参謀のジカチカ子爵は考え込んでいる。油断する感じも戦力を誇示して脅すようなことは無くなっていた。
まあ、後は使者が冷静に判断すれば問題無いだろう。実力の一部を見せたし、これで攻めてくれば自業自得だ。
使者が帰るとバルドーさんがマッチョーズに群島のあちこちに行くように指示していた。ホレック公国の船団の監視に向かわせたのであろう。
それからエアル達と一緒に戦闘になった場合の作戦を検討していた。
俺はバルドーさんにホレック公国に対する恨みか、聖地を守るための行動なのか聞きたかった。しかし、聞いても仕方ないので尋ねることはやめた。どうせ戦うことを選択するのは相手だからだ。
マッチョーズの少年はピピに慰めてもらいながら、一生懸命訓練をしている。年齢的には大して変わらないが、見た目は随分と違う。
油断は禁物だが、鑑定で相手を確認したがそれほど脅威には感じなかった。いや、それどころかよくそのレベルでこの地を占領に来たものだ。
数の脅威で相手を脅せばどうにかなると思ったのだろうか?
もしかして何か秘策があるのかもしれない。油断してはダメだと気を引き締めるのであった。
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