第18話 リディア(ドラ美)

何故か緊迫した雰囲気の昼食になった。


ジジが取り敢えず5人分のオークカツサンドを出すと、すぐにリディア(ドラ美)が手を出そうとした。しかし、ハル兵衛が止めたのである。


『やめなさい! 恥ずかしいでしょ。全員の準備ができてから食べ始めるのよ』


ハル兵衛がお姉さんになっている!


リディア(ドラ美)もハル兵衛の言うことは聞くようだ。すでに手に持っていたオークカツサンドを皿に戻した。シル達のご飯も用意されると、可哀そうなのですぐに俺が声を掛ける。


「それじゃあ食べようか」


そう言い終わった瞬間にハル兵衛がスタートダッシュをかます。両手でオークカツサンドを手に持つと一気に食べ始めた。リディア(ドラ美)はタイミングが分からず、ハル兵衛が食べ始めるのを見て、慌てて食べ始めていた。


俺達もゆっくりと食べ始めると、すぐに食べ終わったリディア(ドラ美)がお代わりを要求してきた。


『何を言ってるのよぉ。今日のお昼はそれで終わりよ! それは5食分なのよ。もっと感謝して食べなさい!』


なんとハル兵衛は3食分をスタートダッシュしてすぐに食べ終えたが、残り2食分は味わうようにじっくりと食べているではないか。食事量が減って、考えて食べるようになったようだ。


「そ、そんなぁ~、俺にはあの量は1食分にもならないぜ!」


『愚か者ぉーーー! あの量を貯金するのにどれだけ私が苦労したと思ってるのぉ!』


リディア(ドラ美)は悲しそうに俯いたが、物欲しそうな目でハル兵衛の手元を見ている。ハル兵衛はその視線を感じたのか、リディア(ドラ美)に提案する。


『一切れなら譲ってあげても良いわよ!』


「本当か!?」


おお、ハル兵衛もお姉さんしているじゃないかぁ~!


『代わりにプリンを一個貰うわよ!』


うん、やはりハル兵衛はハル兵衛だな……。


プリンと聞いてリディア(ドラ美)は酷く動揺している。彼女もプリンを知っているようだ。そしてオークカツサンド<プリンだと理解はしているのだろう。しかし、目の前のオークカツサンド≒プリンになって悩んでいるようだ。


涎を垂れ流すナイスボディーの俺っ……。


その正体がファイアードラゴンだと考えると複雑な気持ちになる。


ハル兵衛が見せびらかすように食べる姿はお姉さんとは思えない。


何とか食事も終わり、デザートが出てくるとまた同じことを始める。我慢できなくなったリディア(ドラ美)が一気に3個ともプリンを食べてしまうと、ハル兵衛は1個だけ一気に食べると、2個はスプーンで少しずつ味わいながら食べ始めた。


プリンは無条件でハル兵衛に食べさせていないし、プリン貯金はないから味わって食べているのだ。


リディア(ドラ美)は少し前のハル兵衛と同じだな……。


物欲しそうにハル兵衛を見つめていたリディア(ドラ美)だったが、何となく俺に視線を向け始める。


まるで俺を捕食するような目になっているぅ。


もしかして食事やプリンの配分を俺が握っていると気付いたのか!?


俺は気付かないふりをして食事を続けるのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



デザートが終わるとリビングに移動する。折角なので色々と聞いてみたい。


「なんで2人は姉妹なんだ? どお見ても種族が違うだろ」


俺は素直に疑問に思ったことを尋ねる。


「わははは、鑑定が弾かれたから、俺の真実の姿を知らないだろ!」


あれっ、本当に偽装しているのか?


もしかしてハル兵衛と同じミニオーク、……いやフェアリードラゴンなのか?


「え~と、ファイアードラゴンではなく実はフェアリードラゴンということなの?」


リディア(ドラ美)は大きく目を見開くと叫んだ。


「な、なんで人族がドラゴン種を鑑定できるんだ!」


あれれ、もしかしてファイアードラゴンで合っているの?


『馬鹿ねぇ、テンマはそれぐらいわかるわよ!』


何故かリディア(ドラ美)はブルブルと震えると、涙目で頼んできた。


「た、頼む! それは内緒にしてくれ!」


まあ、それは構わないけど……。


「わかった、秘密にするよ。でもドラゴン種は姉妹で種族が微妙に変化するんだぁ」


『そんな訳ないわよぉ。ドラ美とは本当の姉妹じゃないもの。昔ドラゴン素材を手に入れようとしたタケトが、ドラ美を討伐しに行ったのよ。その時にまだ幼かったドラ美が可哀想で、私が命乞いしたの。それ以来、年上の私が姉のようになっただけよぉ』


「ほほう、やはり本当に伝説のドラ美さんだったのですね。確か勇者は空を飛べない代わりに、勇者を乗せて飛び回っていたのがファイアードラゴンのドラ美さんですよね」


いつの間にかバルドーさんが戻ってきていた。


「悪かったなぁ。さすがに話せば普通に相手をしてくれないかと……」


まあ、そう思っても仕方ないよね。


「気にしないで下さい。人には話せないことや、言いたくないことの一つや二つあるものですよ」


「あ、ありがとう……」


意外に素直で可愛いところもあるじゃない!


「それよりこれからはどちらの名前で呼びましょうか?」


「リディアで!」『ドラ美で!』


本人はリディアが良くてハル兵衛がドラ美を推奨かぁ。


2人はお互いに目を合わせると、火花を散らしている。


『なんで大切な名前を捨てるのよ!』


「ユウコが亡くなる時に話を聞いたの! タケトが私の名前を簡単に決め過ぎたと後悔していたって。俺もなんとなく嫌な感じがしていたんだよ。他の奴らもたまに名前を呼んで笑っていたじゃねえか!」


笑う程じゃないけど、いい加減に名前をつけた気がするぅ。


俺もシルの名前は少し雑過ぎたと思った時期もあった。今ならシルモフが良いと……、シルモフをモフモフする。


うん、ダメだな!


やはり転生者に名づけは危険のような気がするぅ。


「本人が好きに決めれば良いんじゃないかな。俺はリディアと呼ぶよ!」


「ヤッター!」


『でも……』


ハル兵衛は納得できていないようだ。


「ハル兵衛、本人が嫌がる呼び方は止めてあげようよ!」


『そうね……、あれっ、嫌がる呼び方! テンマこそ私を変な呼び方をしてるじゃない!』


うん、その通りだ!


『わかったわ! 確かに本人が嫌がる呼び方は止めるべきね! リディア、これからもよろしくね!』


うんうん、いい感じに話はまとまった感じがする。


『テンマも変な呼び方を変えて頂戴よ!』


くっ、やはりそうなるかぁ。


しかし、この2択はどうするのかな?


「わかったよ。これからはハルと呼ぶことにするよ!」


『当然よ!』


「しかし、ハルさんや、これを見てくれるかい?」


俺はそう言うと折りたたんだメモ帳のような物を、アイテムボックスから出してハルに見せる。


『それは私のオークカツ貯金の通帳じゃないの!』


「いや、これはハルさんの通帳じゃなく、ハル兵衛さんの通帳です。上に名前が書いてあるだろ?」


ハルは信じられないものを見たように俺を見つめる。


「テンマ銀行のオークカツ貯金は、名前が変わると引出も貯蓄もできないんだ。ハル兵衛さんが居なくなったので、これは不要みたいだね」


『ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 私が必死に貯めたのよぉ。勝手に没収しないでよ。名前が変わっても私は私だし、テンマ以外はハルと呼んでいたじゃない!』


「申し訳ない。通帳の名義は俺が呼ぶ名前にすると、テンマ銀行の規則になっているんだ……」


『そ、そんなのあり得ないわ!』


うん、あり得ないね。


「ごめんなさい」


『だって私が必死に貯めたオークカツよ!』


「本当にすみません。規則は曲げられません!」


『ま、まだ、284枚は残っていたはずよ!』


変に記憶力はいいなぁ。


「大変ご苦労様でした。ハル兵衛さんが居なくなったら、テンマ銀行を閉鎖します」


『えっ、それじゃあ、今後のオークカツは……?』


「新たに第2テンマ銀行を設立します! 第2テンマ銀行ではオーク1頭で、オークカツは1枚になっております! テンマ銀行のオーク1頭でオークカツ3枚は大損だったもので、我々も助かります!」


『そ、そんなぁ~!』


冗談のつもりだったが、何故信じてるのかな?


『わ、分かったわ! テンマだけハル兵衛と呼んでいいわ!』


おっとぉ、本当に妥協したぁ!


「お、お姉さん、騙されてるわよ! オーク1頭でオークカツ3枚なんて絶対に変だぞ!」


『ドラ、リディア、あなたならオーク1頭とオークカツ3枚、どちらを選ぶの?』


「……オークカツ3枚」


『そうよ! サクサクジュワ~のオークカツ3枚なら妥当よ!』


うん、ハル兵衛株が完全に発症しているようだ。


「わ、私もテンマ銀行に口座をお願い!」


新たにリディアと言う顧客を獲得できそうだが、もしかして一緒に来るつもりなの!

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