第14話 遺品捜し①

ピピには久しぶりのお話が不評だったのか、ピピはまた狩りに走り回っている。


ハル兵衛は途中から魔物がウルフ系とゴブリンばかりになったので、馬車の上で寝転がっている。先程から何度も尻尾が頭に当たって鬱陶しい。


ハル兵衛は以前の動きを取り戻した気がするが、見た目はミニオークにクラスチェンジしたままだ。


「もうすぐ今日の目的地に着く予定です」


バルドーさんが馬車の上から話しかけてきた。


「それならこの辺から森の中に入るの?」


「はい、……面倒なことを頼みまして申し訳ありません」


「全然問題ないよ。色々なことがあるほうが旅は楽しいからね。まあ、変な代官とかは遠慮したいけどね」


バルドーさんに答えたが、バルドーさんは周辺を眺めている。


「あれから随分と変わったようですね……」


バルドーさんは複雑な表情で呟いている。多少の事情は聞いていたので、黙ってバルドーさんに任せることにした。


少し進むと石作りの砦のようなものが見えてくる。砦といっても家が数軒入る石壁があるだけだった。


「村は無くなったのですね……」


砦の周辺は木が生えているが、他よりは小ぶりだからこの辺は村だったのだろう。


砦に到着したが人の気配はない。門を押すと簡単に開いた。中に入ると内側から閂をする。中は井戸がひとつだけあるだけで何もなかった。石壁に上がる階段はあるが、ただの石壁に囲まれた場所でしかなかった。


旅人が安全に泊まれるようになっているだけなのだろう。


馬車から馬を外すと、馬車は収納する。D研を開くと馬も中に入れる。最初にシルの為に作った部屋は厩になっているので、そこに馬を入れる。


全員で『どこでも自宅』に入り、それぞれが好きなように行動する。シルモフしようとしたら、女性陣にシルを風呂に連れて行かれてしまった。


仕方ないのでピョン吉を手招きで呼ぶと、相変わらず重そうに体を引きずって定位置におさまってくれた。


ピョン吉の表情は渋いままだが、諦めたように感じるのはなぜだろう。


ピョン吉をぷにゅぷにゅしていると、バルドーさんが話しかけてきたのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



バルドーさんの話では、昔この辺りには村があって、その村を訪れた時に襲撃にあったようだ。


仲間と森に逃げ、たくさんの仲間が殺され、森を彷徨って逃げた。その中にはフリージアさんの兄で、バルドーさんの叔父も居て、たぶん殺されたと思われる。途中で祖父と母親のフリージアさんと別れたのだが、フリージアさんは捕らえられたようだ。


フリージアさんの話では捕縛されたのは自分だけで、他はたぶん殺されたと思うと言っていた。


バルドーさんは何とか少人数で逃げたのだが、途中で森を出られなくなり何年もそこで暮らしたということだ。


「死んだ者達の遺品が少しでもあればと思いますが、あまりにも時間が経ちすぎているので何も見つけられないでしょう」


バルドーさんは悲しそうに話してくれた。


「母上との約束ですので可能なかぎり探してみます。テンマ様達は魔物討伐でもしてお過ごしください」


「いや、探索には俺も協力するよ。少し試したいこともあるし、フリージアさんにも協力すると言ったからね」


バルドーさんは自分だけで大丈夫だと言ったが、仲間だから協力し合おうと言うと涙ぐんでいた。


今後の予定を話し合う。数日は遺品を探して、見つからなければバルドーさんが過ごした場所に向かうことになった。バルドーさんが過ごした場所は森の深くで、山の麓だったらしい。行くのに身体強化で随分かかったようなので、俺がフライで山の麓まで飛んで行くことにした。


バルドーさんは何度も申し訳ないと言っていたが、魔物の上位種や見たこともない魔物がたくさんいると言っていたので、逆に楽しみになってきた。


その事を話すとバルドーさんは大笑いをした。


「はははは、そうですなぁ、テンマ様にとっては恐ろしい魔物も食材になりそうですねぇ」


笑われたが、魔物は上位種の方が美味しい場合は多い。食べられるなら美味しい可能性が高いのだ。



   ◇   ◇   ◇   ◇



普通にD研で過ごすと、翌朝はバルドーさんと2人だけで探索を始める。重点的に遺品捜しをする場所まで2人で進み、問題無ければシルやピピ達をD研から出して周辺の魔物を討伐してもらうのだ。


気配を遮断して森の中を進む。バルドーさんが先行して進み、俺は隠密スキルを使って後ろをついて行く。バルドーさんは、迷うことなく真っ直ぐに森の中を進んで行く。身体強化も使っていたのですぐに森を抜け草原に出た。それほど広くはないが周りが見渡せるようになった。


「草原は残っていたようですねぇ。テンマ様、どこですか?」


おっと、隠密スキルを使うとバルドーさんにも見えないのかぁ。


隠密スキルを止めると、フォレストウルフの群が襲い掛かってきた。30頭以上いたが、一瞬で首を刎ねて収納する。


ジャーキーの素材が手に入ったぁ。


ジャーキーを作るならそれなりに数が多い方が良い。ジャーキーの在庫もあまりないので、久しぶりに作ろうと考え、それなら一緒に他の燻製造りもしようと考える。


「どうしたのです?」


俺が隠密スキルを止めたことで、バルドーさんも俺に気が付いていた。すぐに俺がウルフを仕留めてニヤニヤしているので疑問に思ったのだろう。


「いやぁ、久しぶりにジャーキーを作ろうと考えたら楽しくなったからね」


「ふぅ~、本当に魔物は食材なんですね……」


なぜかバルドーさんが溜息をついて呆れている。


「この辺で遺品を探すの?」


「そうですねぇ、正確にはあちらの森に入った辺りを重点的に探そうと思います」


そう言って草原を挟んだ反対側の森を指差した。


「それじゃあ、この辺でピピ達を出して周辺の魔物を討伐してもらおう。俺とバルドーさんは遺品捜しをしよう」


そう話すとD研を開いてピピ達を外に出す。すぐにピピ達は草原の中を走り出していった。ハル兵衛は遅れて貫禄を見せるように出てきた。


『オークカツ貯金よぉーーー!』


残念なことに、そんな念話を叫んでどこかに飛んで行った。すでに軽く3桁のオークカツ貯金は超えたが、どこまでも貯金を増やそうとしているのだろう。


ハル兵衛が見えなくなるとバルドーさんが話しかけてくる。


「やはり遺品を探すのは難しそうです。ここまで来る途中にも様子を見たのですが、やはり遺品どころか戦いの痕跡も残っていませんでした。

たぶん相手は証拠隠滅もしているだろうし、僅かに残った物があったとしても、森に飲み込まれているのでしょうねぇ……」


バルドーさんは予想通りの展開だといった感じだが、やはり悲しそうな表情をしている。俺は試したいことをバルドーさんに話す。


「実は地図スキルがレベルアップして、人や魔物だけではなく物も具体的に意識すると場所が分かるようになったみたいだ。ただ、移動しながら確認してたけど、上手く見つからないようなんだ。

なにか具体的に分かるような物で、俺にも分かるものなら見つけられると思う」


この世界に来てから、地図スキルは常に使っている。研修時代にもそれなりに熟練度も溜まっていたので、スキルがレベルアップしたようだ。


試しにポーションを置いて確認したりすると、すぐに地図スキルに表示された。しかし、いい加減に色々な物を思い浮かべても、うまく表示されない。ポーションのように物が明確であり、形が明確に分かるものは表示される。しかし、パンなどは自分で作った物などは表示されるが、それ以外の町中のパンなどは表示されなかった。


「それなら見つかる可能性が少しはありそうですね。しかし、遺品が残っていたとしても形が残っているとは……」


バルドーさんはやはり難しいと感じているようだ。俺も簡単ではないと思っていたが、スキルの検証のためにはちょうど良いと考えたのである。


バルドーさんと一緒に草原の反対の森に到着する。


バルドーさんは何度も森に入ったり、草原から眺めたりしていた。たぶん何かの場所を特定しようとしているのだろう。


俺はまずは人骨をイメージして、地図スキルで表示させようとしたが、何も表示されなかった。そしてできるだけ明確に人骨を意識しようと、頭がい骨を色々とイメージしていると地図スキルに反応があった。


反応があったのは、今自分が立っている草原の地面の中だった。数は多くないが、広く点在していた。


見つかった場所の一箇所を土魔術で掘り返すと、予想以上の人骨が出てきた。明らかに大量に人が埋められたと思われる。


「バルドーさん!」


バルドーさんを呼び、相談することにするのだった。

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