閑話19 テラスの決断
テラスのいる部屋では、最近機嫌のよかったテラスが10歳以上老け込み、不穏な雰囲気を漂わせていた。
「ど、どうなさいましたか?」
どちらかというとまともな眷属がテラスの姿や雰囲気に、また始まったのかと悲しそうな表情で声を掛ける。
「どうなさいました!? どうなさいましたと聞いたの!? どうなさいましたとはアンナにいう言葉じゃない!」
ヒステリーを起こし、さらに老け込むテラスに眷属の女神が尋ねる。
「アンナが何かしたのですか?」
「したわよぉ! あのビッチの馬鹿は、テンマ君を怒らせたのよ。なんであのお方の使命を忘れて怒らすのよ。かわい子ぶって貞操を守ろうなんて馬鹿じゃないの!」
(貞操を守ろうとしているならビッチじゃないと思うけど……)
「でも……、そんなに割り切れることではないと……」
眷属の女神は悲しそうに呟く。
「わかっているわ! 私だって……。でも、仕方ないじゃない……」
テラスはさらに老け込み悲しそうに呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
なぜかテラスの機嫌が良い。ただ、少しソワソワしている様子だ。眷属の女神が不思議に思い尋ねる。
「テラス様、ご機嫌がよろしいようですが、何か良いことでもありましたか?」
「そ、そうね。テンマ君は色々問題があっても、力を使わないで解決しているのよ。それに、アンナも少しずつ、テンマ君と馴染んでいるようだからね……」
眷属の女神は、テラスが答えてくれたが、何か他のことが気になっていると思い、さらに尋ねる。
「何か気になることがありましたか?」
眷属の女神が尋ねると、テラスは少し迷ってから答える。
「アンナがテンマ君に頼んで作った下着が気になってね……。あ、あれを私にも用意できそうかしら?」
「ああ、あの下着ですね。私達も気になって、服飾の女神に作ってもらいました。あっ、テラス様も作りますか? でもぉ、順番待ちで大変ですよ?」
眷属の女神は今も着ているのか胸の辺りに手を置いて話した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 私達も? 作った? 順番待ち? ………?」
「あっ! テヘペロ……」
眷属の女神はしまったという顔をして、テヘペロで誤魔化そうとした。
「そういうことは、普通私に先に相談するでしょ! 私に順番待ちをさせるとはどういうことよ!」
誤魔化しきれないと諦めた眷属の女神は、真面目な顔で答える。
「もちろんでございます。すぐに最優先で作るように言ってきます」
「当り前よ!」
テラスはまた少し老けてしまう。眷属の女神は部屋をでる手前で振り向いて確認する。
「どの年齢のバージョンで作りますかぁ?」
テラスは目を吊り上げて叫んだ。
「すべての年齢のバージョンを用意しなさい!」
「はい、あっ、でも、あるのかなぁ……?」
眷属の女神はそう呟きながら部屋を出ていく。
「キィーーーーー!」
テラスはどこからかハンカチを取り出し、端を噛んで声を上げるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
テラスは久しぶりに最高の状態になっていた。年齢も20代半ばまで若返り、スタイルもピッチピチの状態である。
眷属の女神がテラスを褒めたたえる。
「テラス様、本当にお美しいです。良いことが続いているようですわね?」
「そうなのよぉ~、誰かに見せることはないけど、下着が綺麗になると気分が若返るわねぇ~」
テラスは嬉しそうに話し続けた。
「それにテンマ君も順調よ。研修施設を創るときに参考にしたダンジョンに気が付いたのよ。それに前から心配していた呪もアンナと一緒に解呪して浄化してくれたわ。少しアンナの様子が不安だけどねぇ」
「はい、我々も気になっていた呪が浄化されて、捕らわれていた魂も救済されて良かったです。アンナさんが人間の本能に引っ張られて、テンマ君が戸惑っているのが少し心配ですけど。まあ、テンマ君も本能に従ってくれれば、最高の展開になるのではないでしょうか?」
眷属の女神は丁寧に話しながらも興味津々みたいだ。
「アンナのことは慌てることはないわね。それよりも救済した魂の状態は大丈夫かしら?」
テラスは心配そうに話す。
「それなんですが……」
「なにかしら? 問題でもあったの?」
「いえ、それが、テンマ君が解呪して、最後にアンナさんが浄化したことで、魂が非常に純粋で高位な状態までなったようです」
「あら、なら心配ないわね。新たに生まれ変われば素敵な存在になりそうじゃない。慌てることはないわ。少し魂を休ませてから対処しましょう」
珍しくテラスの機嫌が悪くなることはなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「なんで人間は愚かなのよーーー!」
テラスの絶叫が響き渡る。
「大丈夫ですよぉ。テンマちゃんは少しだけ盛り上がっているだけだからぁ。世界を破滅するようなことはしないと私は思うなぁ~」
獣人の神が小指を立てお茶を飲みながら、テラスを安心させようと話した。
「大丈夫じゃないわよ! あの姿は何!? あれでは世界を破滅しようとした魔王より恐ろしいじゃない!」
先日のテラスがうそのように老け込んでいた。
「もぉ~、テラス様ったら心配性なんだからぁ。あれはただの衣装よぉ。あっ、ほら、他のお馬鹿さんが町を破壊しそうになったのを救ったわぁ。やっぱりテンマちゃんは優しいのねぇ~」
獣人の神は嬉しそうに話すが、テラスはそれどころじゃないようだ。
「アンナはディメンションエリアに居るのよ! あれは亜空間だから、中から出ないとアンナの力は発揮できない可能性があるのよ!」
「う~ん、確かにテラス様の言うとおりかも……。でも、私はテンマちゃんのこと信じているから……」
獣人の神も少し不安そうに話した。するとテラスは何かに気付き大きな声を出す。
「あっ、良かったぁーーー! テンマ君がディメンションエリアに入ってくれたわ!」
「ほらほらぁ~、だから大丈夫と言ったじゃな~い。テンマ君は酷いことをしないわよぉ」
獣人の神は嬉しそうに話したが、テラスはまだ不安そうにしている。そして決心したように話し始める
「私は決めたわ。あの地を守護する土地神を送るわ。そうすれば何かあれば、もう少し私の影響を行使できる。テンマ君が安らかに過ごすことができるはずよ!」
テラスの決断に獣人の神が動揺する。
「わ、私はイヤよ! 土地神はあの土地に縛られるし、土地を愛していないと土地神にはなれないの。私は絶対にイヤよ!」
獣人の神は珍しく真剣な表情でテラスに話した。
「何を言っているのよ。あなたなんかじゃ余計にテンマ君を怒らせるだけよ。ちょうど良い魂があるじゃない」
獣人の神はホッとしたが、あることに気付いて話し始める。
「えっ、ダメでしょ。だってまだ知り合いが居るのよ。テラス様が近しいものが残っている魂は土地神にしないと決めたじゃないのぉ!」
「大丈夫よ。私が決めたから、私が方針を変えるだけで済む話よ!」
「そ、それに、土地神の居場所には、高度な浄化を、…あっ、まさか!」
獣人の神は焦って話していたが、途中で何かに気が付いたようだ。
「ふふふっ、そういうことよ。土地神の条件は全て満たされたわ!」
「テ、テラス様、もう一度、もう一度だけ冷静に考えて欲しいのぉ~」
獣人の神は必死にお願いする。しかし、テラスは楽しそうに微笑んで、意見を変えようとしなかった。
「私の心の平穏と若さのために、これは絶対にするべきことなのよ。フフフフ」
それからテラスは自ら魂を浄化して、その魂に数日かけ神力を込めて眷属に昇華させる。そして土地神として彼女を送るのだった。
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