第40話 反省します……
空を飛んで宿に向かいながら王都の街並みを見ると、いつもとは明らかに違う雰囲気だった。
王都の人々は騒然とした雰囲気で、時折空を見つめている。隠密スキルで姿が見えないから問題ないが、まるで自分が見られているようで不安になる。
ドロテアさんの魔法の影響だな……。
自分は悪くないと思い込むテンマだった。
衣装チェンジでいつものテンマに戻ると、急激に自分がしていたことが恥ずかしくなる。変なポーズに言い回し、明らかに変人としか思えなかった。
衣装を、いや、仮面を着けると人が変わると聞いたことがあるが、間違いなくそれだろうと考える。
仮面の効果、恐るべし!
そんな風に考えながら宿の上空に到着する。しかし、帰れる雰囲気ではなかった。
兵士だけでなく近隣の住民も宿の周辺に集まってきていた。宿の周辺は騒然とした雰囲気で、宿に入ろうとしたら騒ぎが大きくなりそうだ。
仕方ないので元呪いの館近くに造った礼拝堂に行く。礼拝堂の近くに降り立ち、中に入るとD研を開いて『どこでも自宅』に帰る。
『どこでも自宅』の応接室に入ると、マリアさんが俺に気付くと、立ち上がって真剣な表情で近付いてくる。
怒ってる!?
元老院のことを思い出して、マリアさんに叱られると身構える。
しかし、マリアさんは俺の目の前で立ち止まると、頭を下げてお礼を言った。
「家族を救ってくれて、ありがとう!」
少し目に涙を溜めてお礼を言ってくれる。
「いえ、もっと早く助ける、ウップゥ!」
あぁ、幸せの極致だぁ~!
マリアさんは突然抱きしめてきた。
「本当に、本当にありがとう!」
うん、
あぁ、遠くに優しい光が見えてくるぅ~!
マリアさんは俺が気を失いそうになる寸前に引き離してしまった。
あぁ、あのまま光の先に行きたかったぁ~!
そんな風に残念に思っていたが、それどころの雰囲気ではなかった。
目の前にはこめかみに青筋を浮かび上がらせて、お怒りモードのマリアさんがいた。
えっ、感謝
「家族のことはともかく、元老院でのことを説明していただきますわ!」
ようやくお怒り
えっ、ええぇぇぇぇぇ!
それからマリアさんの
◇ ◇ ◇ ◇
大きな会議室のような部屋では王宮の役人が慌ただしく動き回っている。その一画では国王が大臣たちと話し合いをしていた。そこに宰相が戻ってきた。
「どんな感じだ?」
国王が尋ねると宰相は疲れた表情を見せながら答える。
「はい、貴族達の大半は自分の屋敷に帰りました。しかし、ベルント侯爵と一緒に不正をしていた者や、それ以外の不正をしていた者達が、自白を始めてしまい収拾するのが大変な状況です。簡単な聴取をして、逃亡の恐れのない者や比較的罪の軽い者は、書類にして提出するように話して帰させました」
「やはり、大賢者テックス=悪魔王だとみんな思っているのだな?」
「はい、嘘で言い逃れをすれば、国ではなく悪魔王の制裁が待っていると思っているようです。
ベルント侯爵の屋敷に兵を送りましたが、屋敷には執事しか残っておりませんでした。王都中で闇ギルドが悪魔王の制裁を受けたとの噂が広がっていて、それを聞いた執事が悪魔王の制裁を受ける前に、侯爵家の使用人たちに退職金を渡して解雇したようです。
執事はベルント侯爵の不正の証拠を揃えて1人で悪魔王を待っていたようです。兵士が屋敷に行くと涙を流して喜んだようです」
「そうか、……王都も予想以上に問題は起きてないようだ。民たちは動揺しているようだが、悪い事をすれば悪魔王がやってくると噂が広まっているようだな。混乱を利用した犯罪は起きている気配は無いそうだ……。それどころか普段より治安は良いと報告がきている」
「闇ギルドはどのような感じでしょうか?」
「2ヶ所の門近くの拠点と、王都の闇ギルドの本部と思われるゲバス商会は、すでに悪魔王により壊滅していた。もう一か所の門付近の拠点も兵士が見つけて壊滅させた。
ゲバス商会には教会から人を送ったが、地下の一画に呪いが渦巻いているそうだ。いまは建物ごと封鎖している」
「大賢者テックス様により壊滅ですね?」
宰相が国王の発言の修正を求めるよう尋ねる。
「そ、そうじゃな、大賢者テックス殿により壊滅していただいたようだ……」
国王も疲れた表情で発言を修正する。
「それと大賢者様から貰った品々は本物でしたか?」
「あぁ、確認させた。間違いなく本物であった。それにワイバーンの亜種は大変な代物だそうじゃ。それこそ竜種に近い素材のようだ」
「では国宝級の品々を賠償金として大賢者様がくれたということですか……」
「そうじゃ。それどころかそれらを入れていたマジックバックも国宝級だそうだ。ワイバーンの亜種はまだ血が滴るほど新鮮だったそうだし、容量もどれほど入ることやら……」
本来なら喜ぶべき話なのに、国王や宰相だけでなく、大臣たちも暗い表情をしている。
「元老院の建物の賠償としても過剰ですな……。何か別の意図があるのでしょうか?」
「わからん! だが、どんな要求をされても聞くしかあるまい。
ドロテア先生の魔術も以前とは比べものにならん! そして、大賢者殿はそれを一瞬の判断で空に向けて逸らしたのじゃぞ。その気になればドロテア先生でも王都を壊滅させることができることを証明した。大賢者殿は国でも簡単に壊滅させそうじゃ!」
宰相や大臣たちも青い顔をして頷いていた。
「絶対に大賢者テックス殿に失礼がないように、王宮や貴族に通達を出しましょう」
宰相が国王に進言する。
「それではダメだ! 大賢者テックスに関わる者達にも気を遣うように通達せよ。ドロテア先生も大賢者殿と同じ扱いにするのだ! そうだ、マリアは特に大切に扱うようにせよ。まともな話をできるのは彼女だけかもしれん!」
国王の宣言に全員が決意をした顔で頷く。この瞬間に実質的には大賢者テックスとドロテアは、国王より上の存在だと全員が理解したのだ。
「あっ、兵よりバルガスが騒いでいると報告がありました。すぐに通達するようにします!」
宰相が思い出したようにそう話すと、焦った様子で部屋を出ていく。入れ替わりに王妃が部屋に入ってくると国王の所にやってきた。
「国王陛下、お忙しい所を申し訳ありませんが、少々お時間をよろしいでしょうか?」
「おお、ちょうど間が空いたころだ。どうした?」
「大賢者殿から若返りポーションを頂いたと思いますが、」
「ダメじゃ! 若返りポーションは準国宝級の宝だ。いくら王妃のお前でもやれん!」
国王は強めに王妃に言った。
「いえ、そうではありません。私もドロテア先生から若返りポーションを1本頂いたのです」
国王は驚きで一瞬固まったが、すぐに王妃に言う。
「ふぅ~、大賢者殿の周りは国宝級の品をそんなに簡単にポンポンと人に渡すとは……。あぁ、すまんが、それも国に預けてくれ。王妃がそんなものを使ったとなれば問題になる。側室たちも納得しまい」
国王はそれが最善だと考えて答えた。しかし、王妃の視線が冷たくなり、静かに話し始めた。
「ドロテア先生が私のために、大賢者様の不評をかう覚悟で個人的に私にくださったものを、国が奪い去るというのですね?」
一瞬にして騒がしかった部屋の中に静寂が訪れた。
国王は唾を飲み込み、安易な決断を口にしたことを後悔した。
確かに王妃が個人的に貰ったものに国王が口を挟むべきではなかった。しかし、逆に王妃の話を聞いて余計に難しい判断が必要になってしまった。
(大賢者の不評を……)
間違った発言をしたのだから訂正すればよい。しかし、そのことでドロテア以上の存在である大賢者の不評をかうのはまずいのだ。
「頼む! 本来であれば私が口出すことでもないだろう。だが、大賢者の意向が分かるまで若返りポーションを使うのは待ってくれないか!?」
国王が王妃に頼み込む。他の重臣が居る前で国王が頭を下げるのは珍しい。王家の私室であれば問題ないが、重臣の前で国王が頭を下げるのはよろしくない。
しかし、周りの重臣も縋るように王妃を見つめる。相手は国王の権力を超える理不尽な能力を持った相手が2人である。穏便にことを進めて欲しいのだ。
「私も簡単に使うわけにはいかないので、大賢者様の意向を確認する必要があると思いましてよ。だからまずは、それを陛下に報告しようと思ったのですわ。それを国で奪い去るというのは、納得がいきません。ドロテア先生に報告する必要がありそうですわねぇ~」
王妃は少し意地悪そうな笑顔を見せて国王に話す。
「すまなかった! 今日は色々あり過ぎて混乱していたようだ。その若返りポーションの所有権は王妃にある。だが、国のために使用を待って欲しい」
「もちろんそのつもりですわ。陛下が変なことを言い出すから話が変になるのです」
「そのとおりだ。私が間違えていた……」
「罰として若返りポーションとエリクサーを交換してくださいませ」
「なっ」
「冗談ですわ。エリクサーは若返りポーションの2倍近い若返り効果があると聞いていたので、少し興味があるだけですわ。あぁ、ドロテア様にお願いしてみようかしら」
王妃や世界の常識では、エリクサーは減ったステータスを全て回復し状態異常や欠損すら治すだけでなく、若返り効果もあると言われていた。それも若返りポーションより若返り効果が良いとも言われていたのだ。
エリクサーは肉体の
結果的に若返ったように見えるが、その肉体の最高の状態に戻そうとする効果が若返って見えるのである。
しかし、それは最終的な効果なので、欠損があればほとんど若返ることはないし、健康な状態で使えば劇的に若返る。
若返りポーションは、肉体の細胞年齢を若返らせるだけなので、細胞の入れ替わりが終わる3ヶ月ほど、若返るのに必要である。
国王はもう精神的にも疲れ切っていた。
「すまん、好きにしてくれ……」
国王は疲れ切り、そう答えるのが精一杯であった。
その国王の様子を見て王妃は、こんな状況の中で、腹を立て国王に意地悪なことを言ったのを後悔するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ようやくマリアさんのお許しをもらい、普通にソファに座ってお茶を飲むことができた。つい先程までドロテアさんと並んで正座させられ、マリアさんに叱られていたのである。
マリアさんから自分では気付かなかったことや話を聞いた。悪魔王のことや、声が変なこと、シルバー仮面が気持ち悪いことなど。
今もピピがシルバー仮面を被って話しているが、笑っている笑顔が気持ち悪く、ロボットのような声になっている。
客観的に見ると、残念な仮面だ。
そして、悪魔王の逸話を聞いてなるほどと思ってしまった。何故、あれほど周りが恐がっていたのかようやく理解できたのだ。
どちらにしても仮面系はしばらく封印するつもりだ。
あれはヤバい!
仮面を着けた時の解放感は癖になりそうである。
それこそ自分の力に酔いしれて、人殺しや町の破壊などしてしまいそうな予感がする。
そんな不安を抱えながら、その日は早めにシルとピピと何故かジジも一緒に寝る。
あれ、なんか忘れている気がする!
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