第35話 悪魔王?参上!?

「罪を憎んで人を憎まず。ポンポンポンポン、正義の味方、テックス仮面参上!」


うん、決まった!


しかし、男たちは顔色を真っ青にして、ブルブル震えながら固まっている。


1人は飼葉を中腰で持ったまま動きを止め、1人は指示していたのか煙の出る飼葉を指差したまま動きを止めている。他の連中もまるで静止画像のように固まっていた。


「何故こんなことをするぅ~」


少し芝居がかった感じで質問するが、彼らは微動だにしない。よく見ると飼葉についた火が強くなり始めていた。


仕方ないので先に火を消すことにする。


「フリーーージングゥ!」


ポージングしながら火のついた周辺を凍らせる。

凍らせるのは火魔術の上級魔法で、熱を奪うことで温度をどこまでも下げることができるのだ。


一瞬で火や飼葉ごと周辺を凍らせる。


あれっ、近くにいた彼らの足まで凍ってしまった?


しかし、悪人が凍ってしまっても関係ない!


「もう一度だけ聞く。何故、こんなことをするんだぁ!?」


つい声が大きくなってしまった。その反動で中腰の男が前に倒れる。


バリバリ、ボキリッ!


嫌な音がして彼は倒れ込んだ。


「あっ、あ、足が、折れた!? い、痛くない、ギャァーーー!」


凍った部分が折れたから、痛みを感じず折れた状態を見て、やっと気が付いたようだ。


最後の悲鳴は痛みではなく、両足が折れたからだろうなぁ~。


自分が仕出かしたことだが、冷静に何が起きたのか分析している自分がいる。


「え~と、動くと凍った部分から足が折れるよ。動かないで質問に答えてくれるかな?」


「あ、悪魔王!?」


だれが悪魔王じゃあ~!


1人が呟くように変な事を言いやがった。


それを聞いて指示をしていたと思われるリーダーの男が震える声で話す。


「悪魔王様、お許しください……。か、金で雇われて……、ズズッ、二度とこんなことはしません。お許しをーーー!」


誰が悪魔王じゃ! 同情を請うなら、金を、…違う、質問に答えろよ!


彼は既にお漏らししていて、凍っていない手を指差した状態で号泣していた。鼻水をすすりながら謝らなくて良いから、答えろよぉ。


しかし、並列思考で地図スキルを確認していたのだが、逃げるように遠ざかる3人の姿を補足した。


「うん、お前達はもういいや! 助けられるまでに動かない事だな」


そう話すと3人をその場に残し、隠密スキルを使って姿を隠すと、フライで飛び上がり3人の追跡に向かう。


地図スキルで、置いてきた男たちの所に王都の兵士たちが群がるのを確認して、後は任せることしたのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



3人はすぐに別々の方向に分かれて移動を始めた。地図スキルで3人をマーキングすると、一番近い門へ向かっている1人をフライで追いかける。


必死で裏通りや表通りを走りながらも、建物を抜けたりして後ろを警戒しながら逃げている。宿に居た男たちよりは動きは良さそうだが、地図スキルでマーキングしているから、逃げられるはずはない。


周辺を警戒して、門の近くにある建物に入っていくのを確認する。


ふむ、奴らの拠点かな?


建物は門からは少し死角になる、目立たない場所にあった。建物には10人以上いるのが確認できた。


屋上部分に降り立つと聞き耳スキルで中の様子を窺ってみる。


「あ、悪魔王が出た!」

誰が悪魔王やねん!

「おいおい、どういうことだ?」

「こいつ大丈夫かぁ」

「ぎゃははははっ」

「雇ったやつらは全員やられた!」

ってないぞ!

「A級冒険者が戻ったのか!?」

「違う!」

「じゃあ、ドロテアか!?」

「違う! だから悪魔王だ!」

「ぎゃははははっ」


誰が悪魔王やねん! おっ、地下に泣き声?


地図スキルで確認すると、女子供が部屋に閉じ込められ体を寄せ合っている。部屋の前や地下に降りる階段付近には、見張りと思われる連中もいた。


うん、悪人なのは間違いない!


地下の泣き声のする部屋を結界で覆い、さらに建物全体を結界で覆う。そしてポージングを決めてから魔法を発動する。


「フリーーージングゥ!」


建物全体を凍らせる。すぐに建物内から次々と悲鳴が聞こえてきた。


追ってきた男のいる部屋に窓を蹴破って入る。


「罪を憎んで人を憎まず。ポンポンポンポン、正義の味方、テックス仮面参上!」


何だろうこの高揚感!


自分でも不思議なほど気分がアゲアゲで、気分は最高であった。


「「「悪魔王!」」」


誰が悪魔王やねん! おっ、全員動いちゃったの!?


部屋の中には手足が凍り付き、動いたことで折れてしまった連中がいた。誰一人まともな状態の人は残ってなかった。


追いかけてきた男を見つけてゆっくりと近づく。


「お許しください! お許しください! お許しください……」


男は両足が折れていることも忘れたように、両手を顔の前で握りしめ、目を閉じて念仏でも唱えるように同じことを繰り返している。


「なんで宿を燃やそうとしたのかな?」


今度は優しく笑顔で問いかける。


男は目を開くと絶望したような表情を見せて呟いた。


「じ、地獄の王……」


誰が地獄の王やねん!


話が進まないので、さらに笑顔を見せて優しく問いかける。


「なんで宿を燃やそうとしたのかな?」


男はすべてを諦めた表情で涙と鼻水を垂れ流しながら話してくれる。


「おゆるじぐだじゃい。め、命令ざれで……」


「誰に命令されたのかな?」


「ゲバジュでしゅ」


ゲバジュ!? そいつが黒幕かぁ!


「ゲバジュはなんでそんな命令を?」


「い、依頼じゃと、お、思いまみゅ!?」


依頼!? さらに黒幕が居るのかぁ!


「誰の依頼か聞いているか?」


「じりまじぇん!」


知らないのかぁ~。隠し事をしている雰囲気ではないし、本当に知らないのだろう……。


「お前達はそんな依頼を受ける組織なのか?」


「びゃい、闇ギルドじぇす!」


ほほう、あのフリージアさんに酷いことをした連中かぁ。


「ヒィーーー、お許しください! お許しください……」


闇ギルドなら遠慮なく制裁できると考えた瞬間に、何故か男が変な悲鳴を上げて、また念仏のように唱え始めた。


これ以上聞くこともないので、俺は立ち上がって地下へ向かう。


途中で見張りと思われる連中もいたが、動いたのか大体は両足が折れていて、俺の姿を見た瞬間に念仏のように許しを請い始める。


そういった連中は無視して、女子供が閉じ込められている部屋に向かう。


部屋の扉は牢屋のような重厚な作りで、のぞき窓から部屋の中が確認できるようになっている。


扉の横で見張りをしていた者たちも、念仏を唱えているが無視して扉を力任せでこじ開ける。扉は鈍い音がして、扉ごと外れてしまったので適当にその辺に放り投げる。


部屋の中に入ると部屋の隅で女子供が体を寄せ合っていた。


「正義の味方、テックス仮面だ。もう大丈夫だよ」


できるだけ優しく笑顔で彼女らに話しかける。しかし、何故か子供たちは泣き叫び、女性の大半も泣き始めてしまった。


どうしようかと戸惑っていると、1人の女性が他の者を庇うように前に出ると話しかけてきた。


「悪魔王様、喜んで生贄になりますので、子供たちはお許しください!」


誰が悪魔王やねん!


自分でも何度目の突っ込みか分からない。


うん、黒は悪魔の色なのかな?


しかし、今は正体を隠したいし、他に適当な衣装もないから、今回はこれで通すしかない。


仕方ないので、もっと優しく満面の笑みで話しかける。


「俺はみんなを助けに来ただけだから、安心してくれ!」


そう話すと部屋全体にクリアをして、さらに回復魔法を全員に掛けて上げる。


「ヒィーーー、お許しください! お許しください……」


あれっ、なんで被害者の女性が闇ギルドの連中と同じ反応をするんだ?


理由が分からず混乱する。



もし、テンマが自分のことを客観的に見ることができれば、自分が不気味な存在であると思っただろう。


シルバーの仮面は相手に見えている。

目と口の部分に穴が開いており、穴の中は認識阻害で見る者には黒くしか見えなかった。そして表情を表現するために穴の周囲は黒く、表情が出るようにしたある。

笑顔になると目尻が下がり、口角が上がるのだが、銀色の仮面がベースなので不気味にしか見えない。


感情により髪色も変化するし、ボイスチェンジャーは動作確認を怠っていたので、まるでロボットのような異様な声になり、ロボットやアニメを知らないこの世界の人には悪魔の声に思えたようだ。

そして、声には常に威圧が込められるため、優しく話しても相手には脅されているようにしか聞こえていなかったのだ。


そして一番の問題は、この世界の人は子供の頃に悪い事をすると、悪魔がやって来ると親に脅されて育ったのである。


悪魔は黒い衣装に赤いマントを着ていると言われていた。これは過去の魔王が着ていたことが由来だと思われる。そして時代と共に上位の悪魔王が登場して、悪魔王は髪色が感情で変化して、顔は銀色であると語られるようになったのである。


子供に悪い事をさせないように、民間伝承のように伝わった姿が、テンマの作ったテックス仮面の衣装とまったく同じだったことは偶然だった。


しかし、誰もが悪魔王と認識し、闇ギルドの連中は自分が悪い事をしている自覚があるから、余計にテックス仮面(悪魔王)を恐れたのである。



理由が分からず混乱したが、気にしても仕方がないので、彼女らに逃げられることを話して、近くの兵士に通報するようにお願いする。


テンマはお願いしたが、相手は命令だと思い、必要以上に首を縦に振り頷くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



闇ギルドの拠点を出て屋上に上がると、マーキングした残りの2人を確認する。1人は別の門付近の建物に居て、もう1人は王都内の中心に近い場所にいた。


ふむ、先に門付近を先に片付けよう!


何となくではあるが、門付近は闇ギルドの出張所のようなもので、もうひとつが闇ギルドの拠点なのではと考えたからだ。

闇ギルドはできるだけ殲滅するべきだと考えて、先に人の少ない門付近の拠点を片付けることにしたのである。


フライで飛んでいき、先程と同じように拠点を殲滅して、捕らわれた人達を開放するのだが、ここでも異様に恐れられるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



テンマが一つ目の拠点を殲滅していた頃、ゲバスは攫ってきた女を弄んで完了報告を待っていた。


「へへへ、おじちゃんの言うことに素直に従えば痛くしないからねぇ」


まだ成人したばかりの少女は目に涙を溜めながら、上半身裸の醜い太った男を絶望したように見つめていた。


その表情をみてゲバスはさらに興奮して、今にも襲いかかろうとしていた。しかし、これからというタイミングで隣の事務所が騒がしくなり、怒りの声を上げる。


「これからお楽しみだというのに、何事だ!」


しかし、緊急事態の可能性もあるため、ゲバスはローブを羽織ると、隣の事務所との間の扉を開いた。


事務所には半狂乱のように騒ぎ立てる男がいて、他の男たちに取り押さえられていた。


「何事だ!?」


ゲバスが大きな声で男を怒鳴りつける。


「あ、悪魔王が出ました!」


男の話を聞いて、ゲバスは気の毒そうにその男を見たたが、すぐその男が『妖精の寝床』を焼き払いに行った連中の監視役だと気が付く。


ゲバスは悪魔の王について信じなかったが、なにか予想外のことが起きたと考える。


「詳しく状況を話せ!」


男が狂ったと思い、取り押さえていた男たちは、ゲバスの言葉に驚いたが男を放す。


「じ、実は……」


男は何があったのかゲバスに報告するのであった。

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