第14話 絶好調のミーシャ

バルドーが妖精の寝床に到着したのは、すでに辺りが暗くなり始めた頃であった。


宿に入ると、ちょうど食堂にドロテア達がいた。


「バルドーどんな感じじゃ?」


ドロテアはバルドーに気が付くと、計画の進行具合を尋ねる。


「順調に進んでいます。それに、予定より広い区画の確保ができそうです」


バルドーは今日の成果を報告するのだった。



「ふふふっ、エチゼンヤ、お主も悪よのぉ~」


報告が終わると、最後にドロテアが変な言い回しで話してきた。バルドーは不思議そうにドロテアを見て首を傾げる。


「なんじゃ、テンマの物語を知らんのか? 悪徳代官と悪徳商人が密談して最後にいう言葉じゃ!」


「そうなんですか? ですが、ドロテアさんが悪徳代官で、私が悪徳商人ということでしょうか?」


「お主は固いのぉ」


ドロテアは乗ってこないバルドーに呆れてしまう。


「それにも何かあるのですか?」


バルドーは真面目に質問する。


「何も無いのじゃ!」


ドロテアはつまらなさそうに返事をする。


「それより、そこまで計画が進めば、テンマに話しても大丈夫じゃ。テンマが戻ってきたら相談するのじゃ!」


しかし、計画が順調に進んでいることは嬉しいようで、テンマに報告が楽しみだと表情にでていた。



   ◇   ◇   ◇   ◇



目を覚ましたバルガスは、体の節々に痛みがあることに気が付く。体をほぐすように動かしながら起き上がると、テントの外に出る。


「バルガスさん、おはようございます」


タクトがバルガスに朝の挨拶をする。


「おう、おはよう。何も問題は無かったか?」


「ええ、何も問題はありませんでした」


ダンジョンボスの部屋の前は、セーフティエリアになっているので魔物は入って来られない。だが他の冒険者が一緒の場合は、魔物より危険になる場合もある。


試練のダンジョンのダンジョンボスと戦闘する冒険者は少ない。

危険な割に儲けが少ないので、ダンジョンボスと戦闘するのは、実績や記念の為に戦闘するぐらいだ。


今回もダンジョンボスの部屋の前に冒険者はいなかった。しかし、時間など関係なく探索を続ける冒険者もいるので、交代で見張りをしていたのである。


すぐにジュビロが起きてきて、その後にミーシャとリリアも起きてきた。


ミーシャはすぐに朝食の準備を始める。

準備と言っても出していたテーブルに、バルガスと自分の朝食を収納から出しただけである。


その光景を見ながら、バルガスは昨晩の事を思い出していた。



バルガスはミーシャがテーブルを収納から出して、地上と変わらない、いや、それ以上の夕食を見て危機感からミーシャに忠告した。


「こんな野営をしていたら魔道具が無くなると困るぞ。その為にも魔道具に頼らない野営を覚えた方が良くないか?」


「んっ、別に困らない。だから必要ない」


ミーシャはバルガスの提案にすぐに答える。


「それは魔道具が無くならないからか?」


「違う、野営はできる」


「本当か?」


「野営はしたことがある!」


ミーシャがハッキリと答えたので、バルガスもそれ以上は何も言わなかった。


ミーシャは開拓村でランガ達と、野営の訓練は経験していたのだ。


「野営の経験があれば問題ないじゃありませんかぁ?」


リリアが横から話し始める。


「まあ、そうなんだが、こんなに恵まれた野営に慣れたら、魔道具になんかあった時に危険だと思ってな」


「でも、収納の魔道具が無くなるのも、荷物を失くすのも同じじゃありませんか。荷物が無くなることを想定はしますが、普段から荷物無しの訓練なんかしないでしょ?」


バルガスも確かにそうだと思い、遠慮なく夕食を食べたのだ。



多少の不安は残っていたが、目の前の朝食を見ると我慢するという選択肢は無くなった。

ダンジョンの最奥で、温かいスープに焼き立てのパン、サラダや卵料理まである。ジジの作った料理は味も驚くほど美味しくて、干し肉を食べるのが馬鹿らしくなる。


バルガスもすぐに普通に朝食を食べながらミーシャと話をする。


「ダンジョンボスとの戦闘はどうする? ゴブリンジェネラルを中心とした魔物が12体は出てくるぞ、それも上位種ばかりだ」


ここまで来るのにミーシャは危なげない戦闘ばかりだった。しかし、数も多く上位種ばかりなので、バルガスは心配して尋ねた。


「ひとりで戦ってみたい!」


真剣な表情でミーシャはバルガスを見て答える。


単独でダンジョンボスと戦闘するような奴は、このダンジョンには来ない。それでもリリア達でも戦いを工夫して油断なく戦闘すれば、何とかなる程度でもある。


ミーシャは途中でレベルが上がったことで、リリア達との差が随分と縮まっている。ミーシャの動きの速さを使えば戦えるとバルガスは判断した。


「わかった。しかし、危険だと思ったらすぐに俺達も戦闘に参加する。まあ、安心して自分の実力を試してみろ!」


リリア達はバルガスの発言を聞いて、いつもこんな風にしてくれれば、もっとバルガスを尊敬できるのにと思っていた。


「んっ、ありがと。ガンバル!」


すぐに朝食を食べ終わると、テントやテーブルをミーシャが収納して片付けて、ダンジョンボスの部屋の前に全員で移動する。


「よし、ミーシャに合わせて俺達も中に入るぞ!」


「「「はい」」」


リリア達が揃って返事すると、ミーシャは振り返って笑顔を見せる。そしてもう一度大きく呼吸すると、すぐに部屋の中に入って行く。バルガス達も続いて部屋の中に入った。


すぐに魔物が床から生えるように出てくると、ミーシャは外側の魔物から順番に倒してく。


動きの速いコボルトの上位種よりもミーシャの動きは速い。

ミーシャの武器はテンマ特製の武器なので、普通の武器で倒すのを苦労する上位種も、簡単に腕や足を切り落としていく、そして動きの鈍くなった魔物を仕留めていく。


バルガスはミーシャの武器も反則だと思ったが、ミーシャの動きには驚いていた。


数も多いので、囲まれそうになっても魔物の足を攻撃して動きを止め、すぐに移動する。

さらに死角からの攻撃も見えているように簡単に避けている。


複数の敵に慣れているとバルガスは感じた。

それは間違いではなく、ミーシャの訓練はホーンラビットの群との戦闘が一番多い訓練だった。それもずっと一緒に訓練をしたことにより、普通のホーンラビットと比較にならない程強く、数も10匹以上といつも戦っていたのである。


リリア達もミーシャの戦闘を見て、焦りを感じていた。

自分達でも慎重に戦えばひとりで倒せると思っていたけど、相性や武器の良さもあるが、あまりにも簡単に倒していくミーシャに、すぐに追い抜かれると感じていた。


(次にレベルが上がったら追い抜かれそうね……)


リリアはそんな事を考えて余計に焦るのだった。


気が付けば、魔物はゴブリンジェネラルだけになっていた。


タクトはゴブリンジェネラルとミーシャとの相性は良くないと考えていた。

大剣を手にするゴブリンジェネラルの攻撃は、ミーシャには受け止められると思えないし、体格差で懐に入り込むのは難しい思った。


しかし、ミーシャは何の躊躇もなく、笑顔でゴブリンジェネラルに近づいて行く。

ゴブリンジェネラルは大剣を横から薙ぎ払うが、ミーシャは余裕でしゃがんで躱し懐に入ろうとする。しかし、ゴブリンジェネラルが蹴りを放ったために一度後ろに下がる。


それからも何度もゴブリンジェネラルの懐に入ろうとするが、あと少しというところで入り切れていなかった。それでも、少しずつ避けかたに無駄がなくなり、紙一重で避け始める。


そして、ゴブリンジェネラルは自分の攻撃が当たらない事に苛立ったのか、力任せの大振りをすると、ミーシャはそれをギリギリでかわすと懐に入り、ゴブリンジェネラルの足を切り飛ばした。


片足を失い体勢を崩したゴブリンジェネラルの首を刎ねて、ミーシャは勝負を決めたのだった。


「あっ!」


戦闘が終わってすぐにミーシャが声を出す。


「どうした?」


バルガスが心配してミーシャに尋ねる。


「レベルが上がった!」


ミーシャは嬉しそうに剣を突き出して答える。


バルガスはホッとしたが、リリア達は内心で焦りまくるのだった。

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