第8話 試練のダンジョン

朝食を済ませると、全員で一緒に出発することになった。


アンナが御者をしてドロテアさんとマリア、ハルが馬車に乗って移動する。その後ろからバルガスwith狐の守り人フォックスガーディアンが続き、俺とシル、ジジ姉妹が最後尾でついて行く。


王都の西門から外に出ると、そこでドロテアさん達と別れる。


「テンマ、夕飯の時にダンジョンの事を報告するのじゃ」


いやいや、夕飯に帰ってくるつもりはありませんよ?


「ドロテアさんよぉ、夕飯までに帰れるわけねぇだろ。これから行くのは『試練のダンジョン』だが、難易度は低いが20層あるんだぞ。攻略するまで2、3日は最低でも必要だから、泊になるから晩飯に帰って来られるわけねえよ」


おぉ、バルガスが説明してくれて助かる。ドロテアさんだけ固まっているが、マリアさんも当然だという顔で不思議そうにしている。


「それじゃあ、適当に帰ってくるからヨロシクねぇ」


俺はドロテアさん達に手を振って、ダンジョンに向かって歩き始める。


後ろの方で「聞いて無いのじゃ~」とか「やっぱり、ついて行くのじゃ~」とか聞こえているが、無視して速足でその場を離れるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



我々は門を出て『試練のダンジョン』に向かう北西の道を進んで行く。


バルガスが歩きながらミーシャに『試練のダンジョン』について説明しているのを一緒に聞く。


「これから行く『試練のダンジョン』は難易度の低い洞窟型のダンジョンだ。魔物はゴブリンとコボルト、それらの上位種がいる程度でミーシャだけでも攻略は出来るはずだ」


へぇ~、洞窟型のダンジョンかぁ。ゲームのダンジョンみたいで楽しそうだ。


「まあ、冒険者になってF級になると、王都では冒険者の最初の挑戦するダンジョンは『試練のダンジョン』と言うのが定番だな。別に他の迷宮の低階層に行っても、難易度にそれほど違いは無いんだが、人型のゴブリンを余裕で倒せないとE級には上がれないのさ」


ふ~ん、『試練のダンジョン』と言うから、もう少し何か試練のようなものがあると思ったけど、特にはなさそうだなぁ。


「戦闘はミーシャがやってくれ、大丈夫だと思うが危険だと思ったら他の連中が手を貸す。本当に順調に進めば1日で最下層まで行けるはずだ。だから、早ければ明日の夕方にはダンジョンから出て来られるはずだ。だが急ぐ必要はねえぞ。今回はダンジョンの事を学ぶのと、ダンジョン内の野営について学んでくれ」


おお、バルガスが冒険者の先輩に見えてくる。


「あと、他の冒険者と揉めないように注意してくれ。他の冒険者の獲物を奪ったりしたら揉めることになるし、『試練のダンジョン』は新人の冒険者も多い。相手も分かっていない事もあるから注意してくれ」


「わかった」


ふぅ、ミーシャは本当に分かったのか不安だが、バルガスも一緒だから大丈夫だろう。


「テンマも分かったか!」


んっ、あぁ、俺にも聞かせていたのか。


「わかったよ」


「おい、新人の冒険者を苛めるようなことはするなよ!」


「バルガスさん、それはどういう意味かな?」


バルガスの失礼な発言に、嫌味っぽく丁寧に話す。


「そうやって俺を苛めようとするところだよ!」


それは違う! バルガスで遊んでいるだけだ!


「別に僕はバルガスさんを苛めた覚えがありません。たま~に、バルガスさんをからかう時もありますが、それぐらいは年長のバルガスさんなら許してくれますよね」


「や、やめろ! そんな言い方されると余計に恐ろしい!」


優勝杯オッパイの事で嫉妬して、やりすぎたのかもしれない。でも……、あれをバルガスが独占していたと思うと、抑えがきかなくなる……。


まあ、別行動すれば問題ないはずだ。


「わかったよ。少し我慢する」


バルガスが疑いの目で見てくるが無視する。


「はぁ~、それよりジジとピピを連れてダンジョンには入れないぞ。そろそろルームに入れておけ」


おっ、確かにその通りだ。


ジジは冒険者ランクがG級だからダンジョンに入れないし、ピピは言うまでもない。


「お兄ちゃん、ピピはダンジョンに入れないの?」


「んっ、大丈夫だよ。ダンジョンに入って人が少なくなったら、ピピも一緒にダンジョンを攻略するぞ!」


「やったー!」


嬉しそうに飛び跳ねるピピとジジをルームに入れる。


「規則は守らないとダメなんだぞ……」


バルガスが呟くように言ったが気にしない。


ダンジョンは石造りの門から入るようで、入り口付近は少しだけ屋台のような出店があった。


新人向けのダンジョン前だから、屋台は儲からないのかな。


入口にはギルド職員なのか兵士なのか良く分からないが、ギルドカードの確認をしている。


バルガスが一緒なので俺たちは問題なくダンジョンに入れたが、バルガスが『試練のダンジョン』に来たことに驚かれていた。


腐ってもA級冒険者ということか……。


石造りの門は鑑定を使うと人為的に造れていることはすぐにわかった。門を入って階段を降りると洞窟のような岩が剥き出しの所に出る。岩の所々が光っているが全体的に暗い感じだ。


すぐに洞窟の先が分かれていたので、そこでバルガス達と別れたのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



「クククッ、テンマの奴、行き止まりになるルートを進みやがった。ハハハハ」


「バルガスさん、さすがに教えないとダメですよ」


バルガスが楽しそうに笑うのを見て、リリアはバルガスに注意する。


「バカだなぁ、それもダンジョンの試練だから良いんだよ」


バルガスは呆れたように話すが、リリアは心配そうな表情をする。


「確かに俺達もルートを碌に教えてもらえずに苦労したなぁ」


「あぁ、あの時もバルガスさんは笑っていたしなぁ」


タクトとジュビロは遠い目をして、昔を思い出して話した。


「でも、テンマさんにあんなことして、後でどうなるのかしら……」


「「「………」」」


バルガスも一緒に沈黙する。


テンマの仕返しは想像して顔色を変えるのであった。


「や、やっぱり、じょ、助言しに戻るかな……?」


「そ、そうですね!」


バルガスがテンマに助言に戻ろうと話と、すぐにタクトが賛成し、ジュビロとリリアも頷いた。


「前からゴブリン!」


しかし、ミーシャは油断なく警戒していた。バルガス達に伝えると、1人でゴブリンに向かって行く。


ゴブリンが棍棒を構えて、ミーシャに振り下ろそうとしたが、ミーシャに腕ごと首を切り落とされてしまった。


ミーシャはゴブリンから魔石を取り出し始める。


「ミ、ミーシャ、それよりテンマの所に早く行くぞ!」


バルガスの話に、ミーシャは解体用ナイフでゴブリンの心臓近くを切り裂きながら答える。


「その必要はない」


「い、いや、あとでテンマが怒ったら……」


バルガスは心配そうに呟くが、ミーシャは抉り出した魔石を嬉しそうに見ながら答える。


「テンマは怒らない」


ミーシャはテンマがそんな事で怒るはずないし、行き止まりもたぶん分かっていると思っていた。しかし、いつもと同じで説明をせずに結論だけを話す。


バルガス達もテンマと付き合いの長いミーシャが言うのならと思ったが、それでも不安に思う。


「次に行く」


ミーシャはそう話すと奥に進んで行く。戸惑うバルガス達も仕方なくついて行くのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



バルガス達と別れた俺は少し歩きながら考える。


別れ際にバルガスの顔が、ニヤニヤと笑っているのに気が付いたのだ。


理由がわからずに気になって仕方がない。


まあ、何があろうと問題ないし、悪意のある事ならお仕置きすれば問題無いと考えるのだった。


ルームを開くとピピをダンジョン内に連れ出す。


「ピピ、他の人に見つからないようにしてくれよ」


「うん、わかったぁ」


ピピの軽い返事に不安を感じるが、認識阻害もあるし、名前を聞かれたら偽名でも名乗れば大丈夫だと思うことにした。


それに、この先はさらに3つに分かれるが行き止まりで、冒険者が数人、ひとつの行き止まりに向かって進んでいるのが地図スキルで確認できている。


ダンジョンに入ってすぐに地図スキルで、この階層は全て把握できていた。実はこの先の行き止まりのひとつに、行き止まりの奥に隠し部屋が確認できたのである。


地図スキルが完璧すぎて、ゲーム的に言えばつまらなくなってしまったが、それでも隠し部屋は心躍るイベントである。


まあ、1階層ならすでに発見済みの部屋だとは思うが、それでも楽しみなのは間違いない。


少し進むと薄暗い洞窟の岩陰にゴブリンが居るのを、シルとピピが見つけ討伐する。


「ゴブリンを早めに発見したのは偉いぞ。ピピは止めを刺すことなく、ゴブリンの腕を攻撃して棍棒を落とさせたのも偉い、シルも無駄なく首に噛み付いて、一撃で倒したのは良かったぞ!」


俺に褒められてピピとシルは嬉しそうにはしゃいでいる。


全員夜目スキルがあるので、本当なら薄暗い洞窟も昼間のようにハッキリと見えている。ピピとシルの気配察知なら、このダンジョンなら不意打ちを食らうことも無いだろう。


それからも順調にピピとシルはゴブリンを倒していく。しかし、1階層はゴブリンの単体しか出てこないようだ。


何もない行き止まりの奥まで進むと引き返してくる。


こうやって全てを順番に確認してこそ、ダンジョンの完全攻略と言えるだろう。


俺はゲーム感覚で、イージーモードのダンジョンの探索を進めるのであった。

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