第9話 隠し部屋
アンナは馬車を道の端に止めて、ドロテア達の作業を眺めていた。
ドロテアは既に道の整備はずいぶんと早くできるようになり、ゆっくりと歩く速度で整備しながら進んで行く。
マリアとミイは少し先行して道の整備をするのだが、ドロテアほどの速度では進めず、それほど平らになっていないため、ドロテアが後から修正するような状態だった。
「お母さん、私はもうMPが限界みたい」
ミイはすぐに泣きごとを言い出す。
「あら、良かったわね。それなら生活魔術を使ってMPを確実に0にしなさい」
MP最大値を増やす方法は既にテンマから聞いている。
その為に鑑定の魔道具までテンマは用意してくれたので、簡単にMPを枯渇できるミイがマリアには羨ましかったし、MPが枯渇してもテンマが用意してくれた魔力回復ポーションでミイは簡単に魔力を回復できるのだ。
ミイは早くも3回目の魔力枯渇で、吐き気と脱力感に逃げ出したい気分であった。
ミイは魔力を枯渇させるために生活魔術を使い、震える手で魔力回復ポーションを飲もうとするが、マリアに止められる。
「少し体調が良くなってから飲みなさい」
ミイは涙目でマリアに訴えるが、マリアは平気な顔で話す。
「ミーシャちゃんは、薄めた毒薬や麻痺薬を飲んだ状態で、魔力を枯渇させていたと言ってたわ。あなたの辛さなんて、たかが知れてるのよ!」
マリアは魔術の訓練については、まったく妥協しなかった。ミイも小さい頃からマリアに教えられたので理解しているが、まさか今になってこんな訓練をするとは思わなかった。
そして土魔術はミイが最後に覚えた魔術で苦手だった。
少し体調が良くなったところで魔力回復ポーションを飲む。すぐに魔力が回復したことが感覚的に分かり、鑑定で確認するとMP最大値がまた増えていた。
「どうかしら、MP最大値は増えたの?」
「うん……」
ミイはMP最大値が増えた事は嬉しいが、ここまでして能力の向上を喜ぶ性格ではない。ミーシャやピピが体に怪我すると笑顔でポーションを飲む姿を理解できなかったのだ。
「良かったじゃない。あなたは私以上の魔術師になれそうねぇ。なんで私は早くテンマさんに出会えなかったのかしら!」
ちょうど追いついてきたドロテアが、マリアの話を聞いていた。
「それは私も同じように感じているのじゃ。しかし、こればっかりは仕方ないのじゃ」
「そうですわね。……お姉さん少し休憩しましょう」
アンナの馬車が追い付いてきたので、休憩することにする。
「しかし、すべての魔術師が訓練のつもりで道の整備をすれば、国中の道がすぐにでもきれいになるのに、もったいない話じゃ」
ドロテアとしてはこんなに良い訓練法は他に無いと思っている。しかし、普通の魔術師なら1日で数メートル、多くて数十メートルしか整備はできないだろう。
「でも、私達は魔力回復ポーションをテンマさんが提供してくれるから何とかなりますが、道を整備する費用としたら、人を雇って最後の仕上げだけにしないと、お金がかかり過ぎますわ」
「確かにそうじゃのぉ」
アンナが用意したお茶とお菓子を食べながら話をする。その間にも何人も若い冒険者が通り過ぎていくが、マリアに気付くとみんな挨拶してくる。
そして姿を隠すこともせずに、一緒にお茶を飲むハルに驚くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
テンマ達は行き止まりの道から戻り、ふたつ目の行き止まりの道を進んで行く。
ふふふっ、この奥に隠し部屋がある。楽しみだなぁ~!
期待しすぎると悲しい結果が待っているかもしれないが、研修施設のダンジョンでは隠し部屋は無かったので、どうしても期待してしまう。
ピピとシルが出てくるゴブリンを瞬殺してしまうので、自分はやることがない。
「お兄ちゃ~ん、また行き止まりだよ」
そう言いながらピピとシルは戻ってくる。
「ピピちゃんや、まだ調べ足りないぞぉ」
そうはいっても隠し部屋があることは知っているが、どうやれば入れるかわからない。行き止まりの壁を見ても、簡単に開く構造になっているようには見えない。
「え~、何にもないよぉ~」
ここはカッコよくなぞ解きをしたい。
鑑定魔法を使って調べて行くと、横の壁に普通の岩にしか見えない、魔力を流すタイプのスイッチを発見する。
ここはピピに、お兄ちゃんのカッコイイ所を見せてやろう!
「あっ、この石のところが変だぁ~」
なぜかピピはそのスイッチに気が付いてしまった。しかし、岩を押したり引いたりしている。
よし、お兄ちゃんが教えてあげよう!
ゴォォォォォ!
「お兄ちゃん、奥に部屋があるよ!」
うん、魔力を流しちゃったんだね……。
「そ、そうだぞぉ、お兄ちゃんが言わなければ、気付かなかっただろうねぇ」
「うん、お兄ちゃんはすごい!」
何とか最低限はお兄ちゃんの威厳を確保できたようだ。
「じゃあ、中に入ってみよう!」
中に入るとすぐにゴブリンが3体ポップしてきた。
おぉ、ゴブリン3体かぁ。それに奥に宝箱の木箱がある!
あれ、なんか見たことのある宝箱だ。
研修施設のダンジョンでは、宝箱は無かった。でも、どこかで宝箱を見た気がする。
あっ、ロンダのダンジョンだ!
よく考えるとロンダのダンジョンをハルに教えられて入ったじゃないか。
あのダンジョンは普通の森のような感じだったし、果物とかの食べ物が充実していて、変なテンションで騒いだ記憶がある。
気が付くとピピとシルが、ゴブリンを倒し終わっていた。
「お兄ちゃん! 宝箱があるよ!」
鑑定してみると罠はなさそうだ。
「じゃあ、ピピが宝箱を開けて良いよ」
「えっ、ほんとうに。やったー!」
喜ぶピピに癒される。
ピピは宝箱の近くに行くと、慎重に宝箱を確認している。宝箱を確認しながら一周すると、俺に話しかける。
「罠はないと思うけど、お兄ちゃんはどう思う?」
「え~と、なんでピピは罠の事とか知っているのかな?」
「バルドー師匠に教えてもらったぁ~」
納得できるような、納得できないような……。
どうやって罠の有無を確認する方法を教えたんだろう?
今度、聞いてみよう!
「うん、罠は無いから大丈夫だよ」
「やったー!」
喜ぶピピを見て、優秀なんだけどピピが今後どうなるのか心配になる。
「あけまーす!」
ピピが元気よく声を出して宝箱を開いた。
「わぁーー、凄いのぉ、沢山入っているのぉ」
ちょっと待ってくれ! なんで20層ぐらいのダンジョンの1層で、宝箱の中にこんなに入っているんだよぉ~!
箱の中には金貨や銀貨、ミスリルの短剣に上級ポーション、上級魔力回復ポーションまで入っていた。
はぁ~、バルガスにダンジョンの宝箱の事を聞いておこう……。
そういえば、ロンダのダンジョンでも万能薬やエリクサーを見付けたんだ。ハルは珍しいと言っていた気がするが、ハルの話は信用できないからなぁ。
「じゃあ、ピピにはご褒美として、この短剣をあげよう!」
「ほんとう! ピピの思い出にするぅ~」
うん、そうして欲しいと思ったから良かったよ。
「それ以外はジジに渡すから、ジジと相談してどうするか決めると良いよ」
「いいの? お姉ちゃん喜ぶかなぁ」
う~ん、喜ぶより驚いて困る気もする。
まあ、必要になるまで収納しておけば問題ないでしょ。
念の為に、隠し部屋の中を細かく鑑定したが、特に何もなかった。
隠し部屋から俺達が出ると、開いたときと同じような音がして、自動で壁が元に戻った。
ダンジョンの探索を続けようと思った。しかし、もうひとつの行き止まり行きたいが、既に冒険者が居るし、どうしようか迷っていると、ピピが声を上げる。
「お兄ちゃん、誰かの悲鳴が聞こえたよ!」
ピピはそう言うと、止める間もなく走り出してしまった。シルも気付いているようで、ピピに続いて走って行く。
俺は迷いながらもピピ達の後を追うのだった。
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