第5話 夢のまた夢

中央広場で予想外のトラブルに巻き込まれたので、面倒事を避ける為に宿に戻ることにした。


しかし、シルは目立つので多少のトラブルはあるかと思っていたが、まさかゴドウィン侯爵の関係者とは驚きである。


父親のエーメイが金で解決しようとするから、娘も同じことをするんだよ!


あれっ、でもゴドウィン侯爵の令嬢だと言ってなかったか……?


あのゴドウィン侯爵じじいの娘かぁ!


色々と気になる事はあるが、ゴドウィン侯爵の関係者なら問題が大きくなることはないだろう。


商店街を避けてもらい、ミイの案内で静かな道を通って宿まで戻ってくる。


「お兄ちゃん、動き足りないから訓練しよう!」


そこは、「お兄ちゃんあそぼ!」が正解だと言いたい。


でも可愛いピピの頼みだ。


「じゃあ、D研で訓練でもするかぁ」


「やったー!」


ピピの子供らしい喜び方に俺も癒される。


「ジジはメアリさんの手伝いをしてくれるかい」


「はい、私も料理の勉強をしたいので嬉しいです」


ジジはええやぁ~。


「ミイも訓練を一緒にしよう」


「えっ、いや、は、はい」


ミイはピピとの訓練を露骨に避けたがる。


たしかに8歳のピピに負けるのは精神的にくるよなぁ。


2階に上がりD研に入ると、ピョン子が凄い勢いでピピの腕の中に納まる。


ピョン子こいつはなんで俺を威嚇するんだろう?


ピョン子はピピの腕の中で抱きしめられながらも、露骨に俺を威嚇してくる。


『アニキ、お疲れ様です!』


お調子者のロンガが俺に挨拶してくる。


訓練として俺1人に全員が襲い掛かってくる。だが、ピピの動きが一番良いかもしれない。


なぜか合流したピョン吉は俺に襲い掛かってこない。

やはり「ピョン吉、実はヘタレ女子疑惑」は本当なのかもしれない。


ピョン吉はふてぶてしい顔に磨きが掛かっている。体形もさらにプニプニになり、毛艶も良いので女子にいつもモフプニされている。


自分より明らかに強い相手とは、訓練でも戦闘しないと聞いたが、今も端の方で様子を見ているだけだ。


うん、ミイはダメダメだな!


訓練を始めてすぐだと言うのに、ミイはピョン吉にもたれかかって休憩している。


ミイはピョン子より弱いんじゃないのか?


ピョン子の体はまったく成長していないが動きは非常に早く、ミイには捕らえられず攻撃を受けまくっていた。


ピョン子は特殊個体なのか体が成長しない。

他のホーンラビットは1ヶ月ほどで大人と同じサイズまで成長するが、ピョン子は最初に見た時と大きさに変化はない。


従魔になると成長の仕方が違うのだろうか?


この世界のことわりがまだ良く分からないなぁ。


全員がへばってしまったので、訓練ポーションで体力を回復させる。


「なんでピピは訓練ポーションを飲んじゃダメなの?」


ピピが疲れ切った表情で、他のみんなが体力や怪我を訓練ポーションで回復するのを見て悲しそうに俺に質問する。


実はピピには極力ポーションを使わせないようしている。


最初はミーシャが勝手にポーションをピピに与えていた。俺も最初は気にしなかったのだが、まずは魔力回復ポーションの使用を止めさせた。


魔力量が増えると老化が抑制されるのを見て、ピピの成長が止まるのを心配したからだ。


お兄ちゃんとしてはピピが今のままでも嬉しいのだが、やはり普通に成長して欲しい。


ああ、アーリンも成長が止まったら不味いかぁ。でも、手遅れの気もする……。


あの胸で成長が止まったら気の毒だと思う。


いやぁ、色々な需要はあるから人気が出るかもねぇ……。


「ポーションを子供の頃から使うと、体が大きくならないよ。ピピはそれでも大丈夫なの?」


なぜかピピはジジの胸を見てから答える。


「ピピ、がまんする!」


何がピピの心に響いたか、追及しない事にしよう!


再び訓練を始めると、すぐにミーシャ達がやってきた。


「私も訓練する!」


なぜかやる気満々のミーシャがやってきた。


「あれ、ダンジョンで訓練するんじゃなかったの?」


「ダンジョン行けなかった!」


うん、ミーシャに聞いてもよくわからん!


「え~と、冒険者ギルドで話を聞かれまして、その説明で時間が掛かってダンジョンに行けませんでした」


リリアが補足説明をしてくれた。


「バルガスさんのあの姿を見たら仕方ないよなぁ」


「ああ、頭がおかしくなったと思われたんだろ」


おうふ、悪ふざけの結果で予想外の状況になっている!?


商店街でもバルガスの噂が広がっていたし、恥ずかしくなってキツネ獣人セットはすぐに外すと思っていた。


「え~と、バルガスはキツネ獣人セットを付けたまま冒険者ギルドに行ったんだ。でも、さすがに冒険者ギルドでは外したよね?」


「「………」」


「テンマ、早く訓練する!」


タクトとジュビロは俺の質問に、ケモミミをペタンとさせて沈黙した。ミーシャとリリアはすでに訓練をするために移動して俺に催促してきた。


くっ、タクトとジュビロのケモミミ姿は可愛いじゃねえか!


リリアはミーシャの影響なのか脳筋化が進んでいるように見える。


「少し待ってくれ!」


ミーシャは不貞腐れた顔をしたが、すぐにリリアと訓練を始めて楽しそうにしている。


「バルガスはあれが恥ずかしくないのかな?」


「……自慢気にしていました」


「……周りの視線を勘違いしていたと思う」


2人は躊躇しながらも正直に話してくれた。


あいたたた、バルガスに冗談は通じなかったかぁ。


「まあ、それでも冒険者ギルドで話をしたなら指摘されただろう。あぁ~、バルガスが怒ってそうだなぁ~」


「「………」」


えっ、怒っていないの!?


「もしかして笑い話にしてくれたのか?」


俺の質問に2人は目を合わせてから、ジュビロが話してくれた。


「本人は勘違いしたままです。冒険者ギルドの人達も、バルガスさんがおかしくなったのではないかと気遣って追及しませんでした!」


うそぉん、まさかの痛い人判定されたのぉ。


そういえば商店街の人も、マリアさんに何かあって、バルガスがおかしくなったと思っていたなぁ。


「ま、まあ、本人が気付かないなら問題ないよね……」


俺は知らない振りをしようと心に決める。


「俺、あんな人に憧れていたと思うと悲しくなった……」


タクトが悲しそうに呟く。


「ああ、俺もあれほど痛い人だとは思わなかったよ……」


ジュビロも落胆した表情で呟いた。


うん、聞かなかった事にしよう!


まあ、これでマリアさんに愛想をつかされるんじゃないかな……。


「あのぉ、テンマさん! 俺達は変じゃありませんよね!?」


タクトが上目遣いで目をウルウルさせながら訊いてくる。


「俺もそれが気になっていたんだ! バルガスさんとは違う注目だと思ったけど、俺達も勘違いしてたら恥ずかしいよ!」


ジュビロも目をウルウルさせながらも真剣な表情で訊いてきた。


くっ、2人とも可愛いじゃねえか!


危うくバルドーさんと同じ道を歩みそうになる。


いや、俺はケモミミ属性だけだぁ!


「ふ、2人は似合っているし、逆にモテるようになったんじゃないかな……」


ケモミミがピンと立ち上がり、尻尾がブンブン左右に振れている。


モ、モフりてぇ~!


しかし、2人をモフったら、バルドールートを進みそうで自重する。


「そ、それより、ミーシャ達が待っている、訓練しよう!」


「「はい」」


2人は年上のはずだが、俺に懐く可愛い弟みたいだ。


だが、……その道バルドーには絶対に進まないぞ!


心の中で強く決心して訓練を始めるのであった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



ミーシャが満足するまで訓練に付き合わされ、俺以外は疲れ切って倒れたので、今日の訓練は終了にした。


それぞれが訓練用ポーションなどで体力を回復して、そろそろ夕食の時間なので1階の食堂に移動する。


食堂に入ると俺は思わず声を上げる。


「なにごと!?」


知らない人や見覚えのある人が、なぜか土下座している光景が目に入ってきたのである。


ドロテアさんとマリアさんはそんな彼らを笑顔で見ている。


恥ずかしい格好けもすがたのバルガスもいて、バルドーさんも微笑んでいる。


王都に来て2日目で、なんでこんなことに!


自分には平穏な日常は、夢のまた夢だと悲しくなるのであった。

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