第7章 王都動乱

第1話 妖精の寝床

王都には問題なく入る事ができた。


バルガスたち妖精の守り人ピクシーガーディアンが護衛していることもあるが、何と言ってもバルドーさんの存在は大きかった。


バルドーさんの存在に気が付いた門番の兵士たちは、すぐに上司を呼びに行き、碌な確認もせずに検問を通してくれたのである。


タクトとジュビロが馬車を操り『妖精の寝床』へ向かう。

2人の顔色が悪いのは、祖母のメアリさんに会うのを恐れているのであろう。


俺とジジ、ピピとミーシャは初めての王都に感動している。


人の多さも凄いが商店や屋台の数も多い。見たことのない食べ物や商品、初めて見る獣人も多くいた。


う~ん、王都を見て回るだけで何日必要かなぁ?


俺は何度も王都には来ているが、マリアさんを迎えに行ったときは、『妖精の寝床』の付近を少し見ただけだし、『妖精の寝床』の周辺は静かで治安の良い場所だったらしい。


バルガスとマリアさんも冒険者生活は長いし、貴族からの指名依頼が多く、収入も相当に多い。『妖精の寝床』も実質的なオーナーはマリアさんで、昔から付き合いのある人以外は宿泊することもないという話だ。


だから暫くは貸し切りで『妖精の寝床』を使う事にさせてもらった。


それ以外にも何度かバルドーさんを王都に送って来たこともある。

しかし、目立たない場所に連れて行くことが多かったし、建物の屋上や怪しい屋敷の庭に送ることもあった。


だから普通に門から入り、町中を見るのは初めてで楽しくてワクワクが止まらないのだ。


馬車を降りてゆっくりと見て回りたいが、王都での当面の活動拠点になる『妖精の寝床』で落ち着いてからだと自分に言い聞かせる。


馬車の前をシルと一緒に歩くバルガスを見て、石を投げたくなる衝動に駆られる。


騒ぎを必要以上に大きくしないために、王都でも有名なバルガスが、俺の従魔のシルを連れて歩くことにした。

しかし、シルは恐れられるよりも、真っ白でモフモフの毛並みで、町行く人に好意的な目で見られていた。

それをまるで自分の従魔のように自慢気に歩くバルガスにムカついたのである。


馬車は少しずつ静かな街並みに入って行く。

気が付くと先日マリアさんを迎えに来た、『妖精の寝床』の前に馬車が止められたのである。



   ◇   ◇   ◇   ◇



馬車を降りて『妖精の寝床』の中に向かう。

タクトとジュビロは馬車を止めてくると言って逃げるように馬車を移動させてる。


早めに謝って叱られたほうが楽だろう……。


タクトとジュビロは祖母のメアリに叱られるのを恐れているのだろう。


宿の中に入るとメアリさんが満面の笑みで出迎えてくれた。


「ドロテア様、バルドー様、そしてテンマ様、ようこそおいで下さいませ。精一杯のおもてなしをさせて頂きます」


メアリさんが丁寧にお辞儀して挨拶してくれた。


「うむ、メアリにも久しぶりに会うのぉ。暫く厄介になるのじゃ!」


ドロテアさんはメアリさんの事を昔から知っているみたいだ。


当然と言えば当然なのかぁ。


食堂で部屋の準備を待つ。何やらマリアさんとバルドーさんがメアリさんと話をしている。


「部屋の割振りが出来ました」


何故かマリアさんが部屋の割振りについて説明を始める。


1階の部屋にミーシャはリリアとの2人部屋が割り当てられ、タクトとジュビロも同じように1階に割り当てられたようである。


マリアさんとミイは最初に来た時にマリアさんと会った部屋で過ごすと言い、バルガスは1階の個室に一人で過ごすことになった。


バルガスが懸命に抗議するも、受け入れられることは無かった。


ふふふっ、優勝杯オッパイはみんなの共有物ものさ!


それ以外の人は2階に冒険者パーティー用の部屋が割り当てられた。

部屋の中には複数の寝室などもある部屋だが、基本的には『どこでも自宅』で過ごすのであまり関係ない。


部屋のひとつの家具を収納して、D研への入口を開く。いつものようにその部屋は登録者だけが出入りできるようにした。


暫くは『妖精の寝床』を拠点にして、のんびりと過ごしたいと思うのであった。


その日の夕食はメアリさんが気合を入れた料理を振舞ってくれた。

顔の腫れ上がったタクトとジュビロ以外は美味しく料理食べて過ごすのであった。


あっ、バルドーさんは『妖精の寝床』で寝泊まりしないらしい。

朝夕の食事は一緒に食べると言っていたが、まだ色々と調整が残っていると言っていた。

マリアさんの話では、バルドーさんは少し前まで王都にずっといたのだが、それでもバルドーさんがどこに過ごしているのか、どこに住んでいるのか誰も知らないという話だ。


俺としては知るのが恐いから、知りたくないと思うのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



翌朝、食堂で食事をしながら、今後の行動予定の話をする。


昨晩は夕食を食べた後にそれぞれの希望を聞いてどうするか決めたのである。


「まずはドロテアさんとマリアさんは一緒に行動すると聞いています。時間の空いている時はミイやミーシャの魔術の訓練をしてくれるそうです。ハルも基本的には2人と行動してください」


なぜかドロテアさんは詳しく何をするのかは話してくれなかった。


まあ、問題さえ起こさなければ問題ない!


ハルはマリアに懐いているというか、餌付けされているというか、居心地が良いのだろう。あまり目立ちすぎるのは困るが、隠し続けるのも面倒なので、ドロテアさんとマリアさんに任せることにした。


ドロテア株とハル株が反応して、予想外のウイルス株に変異しないことを祈るばかりだ。


「ミーシャはリリアとタクト、ジュビロの4人で臨時の冒険者パーティー『狐の守り人フォックスガーディアン』を作って、王都周辺のダンジョンに行くので、バルガスは監督と護衛をお願いします」


ミーシャはまだ冒険者ランクは低いが実力はそれなりにある。妖精の守り人ピクシーガーディアンに働いてもらうことにしたのは、ミーシャの訓練の為でもある。


時間があれば俺もダンジョンに行こうかなぁ。


暫くは日帰りで探索できる範囲で、ミーシャのレベル上げと冒険者ランク上げをしてもらうのだ。


決して面倒だから任したのではない。……ごめんなさい。


「待てよ、俺は納得できねえぞ!」


バルガスが文句を言ってくる?


「悪いけど裁判で俺の手伝いをしてもらうのは決まった事だ! 今さら文句を言うのは男らしくないぞ!」


「違う! 役割は問題ねぇ。しかし、これはなんだ! そしてこいつらはなんで文句も言わずに普通に受け入れているんだ!」


バルガスの手には、俺が用意したキツネ耳とキツネ尻尾が握られていた。


彼が指差した所にはリリアとタクト、ジュビロが自分に付けたキツネ耳とキツネ尻尾を嬉しそうにモフっていた。


「パーティー名が『狐の守り人フォックスガーディアン』だから、キツネ耳とキツネ尻尾は当然だろう。なんたって可愛いし、本人達も納得しているから問題ない!」


リリア達3人は嬉しそうに頷いている。


「別に守り人がキツネ獣人セットこんなものを付ける必要はねえだろ! それでもこいつらが納得したのなら仕方がねえが、なんで俺まで用意されているんだよ!」


往生際の悪い男だ!


「あら、私は可愛いから好きよ。ケモミミを付けたバルガスに襲われるのも悪くないかもねぇ」


マリアさんが笑顔でそう話すと、バルガスは無言でキツネ耳とキツネ尻尾を着けた。


うん、似合わない!


そう思ったのは俺だけじゃないはずだ。


「ま、まあ、野性味が凄くなったわ! ……ないわね」


マリアさんの最後の言葉は近くの人にしか聞こえてないと思う。間違いなくバルガスには聞こえてないだろう。嬉しそうにキツネ尻尾を撫でるバルガスが気持ち悪い。


「ピピとミイは訓練を続けてもらうが、ミイには王都の案内もお願いする。俺とジジ、ピピに王都を案内してくれ」


「わかりました」


ミイはピピと訓練と聞いて絶望的な表情をしたが、王都の案内をお願いすると普通に返事をしてくれた。


「アンナはみんなのサポートをお願いします。それとドロテアさんからお願いがあると言ってました、それも相談して下さい。

バルドーさんも引き続きみんなのサポートと、他との調整もお願いします」


暫くは別々に行動することになるだろう。

俺としては安心できるジジやピピ、シルとの行動だけなので、王都を満喫しようと思うのだった。

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