神様が現れ異世界転生すると思いきや、神様と一緒に一つ屋根の下に暮らすことになった

出水貞光

第1話 神の暇つぶし

 「止まない雨はない」と誰かが言っていた気がした。しかし世の中不特定多数の心の中に降る雨はその命が尽きるまで止まないこともある。ということを知っておくべきだとも思う、決して過去の過ちが記憶から消え失せることはないが、乗り越えるのではなく苦しみを抱えて生きていくことが戒めであり、教訓であり美しいと。

 

 そんなことを考えながら帰路についていた。たかだか17年間生きてきただけの若輩者がなにを言っているのかと客観的に思うが、まあこんなことはまだ少ない時しか過ごしせていない僕にとってはただの他人の受け売りでしかないのかと悲しくなった。俺は他人の思想や概念で今日までいきてきたただの伽藍洞がらんどう、虚無がスニーカーを履いて歩いているだけだった。

 

「まだ若いのに面白い考えをお持ちで」


 なんか聞こえてきた。

 その声は確かに後ろから聞こえたきがするので振り返って見ると周りには誰もいない。


「気のせいか」


「気のせいではないよー」


 また聞こえた。

 はっきりとわかる若そうな女性の声、まさか幽霊か妖怪、はたまた神様かもしれないと様々な憶測が自分の心の中で飛び交っているが、もしこれがよく漫画やアニメや映画に出てくる主人公が戦うきっかけになる最初のイベントなら予想した三種類の中でもすべて俺になんらかの力を授けられ死地に向かわされるハメになってしまうのではないかと疑念を抱いた。

 これはきっと悪い悪夢か自分の体が疲れているから幻聴の類だと思いその場を今出せる全速力で走って後にした。


 急いで帰宅したあと、自分の部屋に入り深呼吸した後ベッドに伏せた。鼓動が早い、普段慣れない運動をしたせいなのか急激な眠気が襲った。お化けや妖怪、幽霊の類は信じてはいないが今日の出来事については例外中の例外だと信じそのまま意識が深い場所へ潜らせた。



 ・・・遠い記憶、まだ幼い俺に親父が言う。

「碧、もし急に女の子が目の前にきたなら、必ず大事にしてあげなさい。」

「分かった父さん、必ず大事にする!!」


 目が覚めた。

 昔のことを夢に見るなんて今までなかったはずだけど、なぜ今になってこんな夢見たのかがわからずぼんやりとした頭を掻きむしった。

 

「おぉ起きた!、おはよう。なかなかこの漫画面白いね!勝手にさせていただいております」


「あー、おはようございます。ちょっとシャワー浴びてきます」


「いってらっしゃーい」


 朧げな頭の上から熱いシャワーを浴びて意識がはっきりした時、異変に気づいた。

 急いでシャワーを浴び終え部屋に戻ると彼女はそこに居た、淡い赤の羽衣、艶のある長い髪の毛、肌は白く顔も完璧に整っており見るからに美少女と言う感じの何かが目の前に座って漫画を読んでいた。

 なにがどうなってこうなってるのかさっぱりわからないもので、ただ、帰り道のあの声の主がこの美少女のものであるということは声で分かった。

「あの、どちら様で」


「あぁ、自己紹介ね、私の名前はヨミ。君たちの世界でいう神様ってやつ、わかった?」


「分かりません、全くもって。大体どうしてその神様って奴が俺のとこにきているのかが分かりません」


「んー、理由はねー私が少し君のことに興味を持ってしまったからだよ。その年齢で悟ったような物言いをしてたんだもん、普通はね、もっと野心とか夢とか好きな子がいてーだとかあるはずなの、でも君にはないの何も、個がないの」


「他人から言われると結構きますね」


 自分でも分かっていたが、自分に中身がないことぐらい知っている。でもこうも人かもわからないエセ神様にこんなこと言われるのは少々小心に傷がついた。傷つけるものすら持っていなかったというのに。


「だから、私がそのひん曲がった空っぽのあなたの心を少しだけ埋めてあげようかなって思ったんです。これからよろしく」


「俺はまだあなたが神様というのも信じがたい、本当は俺が一人暮らしなのをいいことにしばらく住み込もうと思っているどっかの家で少女かもしれないじゃないか!」


「じゃあ神様っぽいところ、見ちゃう?」


「お願いします」


「じゃあ私の手を握って?」


 そう言って右手を差し出された、初めて握る女の子?と言っていいかわらないがその華奢で綺麗な手はとても柔らかく、どうしてかこうしていることがとてもいけないことのように感じられた。


「そのまま握っててね、窓の外から見える走ってる車をちょっと見てて?」


「分かりました」


「じゃあいくよ、我、月読命つくよみのみことが命ず、我とこの者を時の輪廻から外せ!」


 その瞬間、僕たちを中心に僕の見える世界は止まった。さっきまで窓の外に見えていた車も、コンビニから出てくる人も、何もかもが全て止まっていた。


「こ、これは一体、本当なんですか?」


「本当だよ、今確実に世界は止まっている。君は今、世界の輪廻から外れ神と同じ目先で世界を見ている。ただ、ものを動かしたりだとかはできないよ?あっ!もしかしていかがわしいこと考えたでしょ!だめんだな〜これが」


「考えてない!只々本当にびっくりしているんです、すごい!もうこんなの見てしまったら信じるしかないじゃないか!」


「本当に必要な時だけだよ、君がなにかを成そうとしていて尚且つ私が協力しようと思った時にだけ力を貸す。それでいいかい?」


「分かりました、でもなぜ?」


「さっきも言った通り、これは神の力だからね。人が軽々と使っていい力ではないの」


「でも俺の心を埋めてくれるって」


「それはあたしが個人的にあなたを観察してみたいし、君はずっと一人だったからたまには私も息抜きに人の子の面倒をみようってなっただけだからこの力とは関係ないの!」


「そういうもんかぁ・・・」


「そういうもんだよ、あと力使ったらしばらく使えないからそこだけは注意してね。それじゃあそろそろ戻すね、解!」


 世界が動き出す、何事もなかったかのように車は走りだし、人は歩き始め、風が吹き始めた。

 まるで映画でも見ているかのように。


「それ・・じゃあ私・・・少し眠・・る・から」


 エセ神様もとい、神様はそのままベッドに倒れこんだ。どうやら眠っているらしい、ファンタジーでよくあるところのとどめの必殺技を使い力を使い果たして急に倒れてしまう。そんなとこだろう。


「眠るならちゃんとしてくださいよ」


 そう呟く俺の言葉はもう彼女の耳には届かず、俺は彼女を仰向けにして布団を掛けようとした。だがしかし、今までろくに女性とも付き合ったことがなく、女体に触れたこともない俺がどうしてそんなことを思ってしまったのだろう。不意打ちだった、だき抱えようと思い力を入れて持ち上げようと思ったとき、僕は赤面した。あろうことか神様である彼女肉体はとても白く細くつくところには肉がしっかりついていてとても柔らかく、なんというかそのとてもどうしようもない気持ちになったがなんとか我慢して布団をかけることができた。

 

 顔の火照りが消えない、だが冷静に考えれば彼女は人ではなく神さまだ。だが黙って見ていればどうだ。ただのものすごくかわいい美少女ではないか、なんでこんなことになったのか、それは紛れもなくこの「神宮寺 あお」という1個体が神が見ていてもとてつもなくつまらなく、どうしようも無いから神様が情けを掛けたのだ。そう思うと少しだけそこのベッドに寝ている美少女が居た堪れなくなった。


「コンビニにアイスでも買ってくるか」


 俺は知恵熱をだした自分の体を冷やす為、自室を後にしコンビニに向かった。


 まだ寒空が続く高校三年生の4月の夕方、僕は神様と出会った。

 これはどうしようもない俺と神様な彼女との始まりである、伽藍洞で虚無で空っぽで、それまで冷たさしか感じなかった俺の心は少しざわついた。









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