初恋

遠藤良二

初恋

 僕は君の夢を見た。果てしなく続く大地を君は走っていた。どこまで走るのだろう? と疑問に思ったのを夢ではあるが覚えている。現実の世界で見た君とは体型が全く違っていて、夢の中の君はガリガリに痩せていた。僕が好きな女性の体型は少しぽっちゃりしているくらいがいい。なぜ、そのような違いが生まれたのだろう。片方は夢だから、ということか。夢の中の世界は何でもアリだ。高校生の僕はまだ童貞で、女性の裸体を見たことがあるのは母親しかいない。もちろん、幼少期の頃。今、見たら大変なことになる。見たくもないし。

 キスすらしたことがない僕は、大好きなあの子とキスをしてみたい。


 あの子の夢を昨夜も見た。今度はかなり太めな体型。でも、批判はしない。夢の中の話だし。それに、あの子には変わりはないから。本当に夢って面白い。夢の中で僕はあの子と手を繋いで散歩をしている。天気のいい日の河川敷を時おりすれ違う自転車に乗った学生を見ながら歩いていた。茶髪でヤンチャそうな若者が僕らを見ている。因縁を付けられるのかと思ったところで夢は覚めた。こんなに鮮明に夢を覚えていられるのは、あの子が一緒だからか。僕は見た目より、性格重視だ。まあ、清潔感があってぽっちゃりしていて優しければ好きになるかもしれない。どちらかと言えば僕は惚れっぽいタイプだ。今は、あの子のことが好きだから、別の誰かを好きになることはまず、ないだろう。


 僕は同じクラスのあの子と交際しているわけではない。でも、できれば付き合いたい。いつか、タイミングを見計らって告白しようと思っている。友人からは、お前そういう度胸はあるよな、と感心される。


 この前、あの子は別な男子と楽しそうに会話をしていた。もちろん、いい気分なわけがない。正直、嫉妬した。でも、会話に交じって話そうとは思わなかった。話すなら一対一がいい。その方が楽しいだろうし。


 あの子は処女なのだろうか? 訊いたことがないし、訊けるわけもない。生理の話でさえできない。お互い、恥ずかしい思いをするだろうから。それは避けたい。でも、僕とあの子は多感な時期だから少しのことでも過敏に反応してしまう。それは、肉体だけではなく精神的にもナイーブだ。


 さっき、思い切って話し掛けてみた。笑顔で対応してくれて、凄く嬉しかった。彼女の方から今度何人かでカラオケに行かない? と誘われた。当然嬉しいが、二人きりで行きたいと思った。でも、それを言い出す勇気がなかったので黙っていた。何も言わなかったからか、その子は僕を見ていた。


 何とかして僕の彼女にならないか模索している。プレゼントをあげるのはどうだろう。でも、何の記念日でもないのにあげるのは逆におかしい。悪い気はしないと思うけれど。誕生日、クリスマス辺りにプレゼントをあげるならまだいいだろう。


 恋と愛の違いって何だろう。僕は恋をして初めてこういうことを考えるようになった。奥手の僕はこの子が初恋の相手だ。だから、緊張して話せない時もたまにある。

 恋の延長線上が愛のような気もする。もっと、心の深い部分まで知り、そこも好きになる。僕は、まだガキなのであまりよくわかっていないが。

 理屈っぽくなるけれど、恋に人を付けると恋人になる。愛に人を付けると愛人になる。これらは意味が違ってくる。そんなようなことを思った。


 あの子のことは、あっちゃん、と呼んでいる。僕のことは、武志(たけし)と呼んでいる。本当は敦美(あつみ)と呼び捨てにしたいけれど、本人が呼び捨てはやめて、と言われている。何でなのかは分からない。あっちゃんは僕のことを呼び捨てにするけれど僕はだめ。もしかしたら、交際したら呼び捨てはOKなのかもしれない。分からないけれど。


 あっちゃんは、僕が思うに凄く優しい女子だと思う。顔だって可愛い。身長も標準だろう。声もアルトでいい感じ。落ち着く。そういったところに僕は惹かれている。


 進路の問題もある。進学か就職か。あっちゃんはどうするのかな。僕は進学しようと思っている。今は、高校一年生だからそんなに焦らなくてもいいけれど。


 僕は家にいる。あっちゃんに会いたい。LINEしてみよう。

<こんにちは! あっちゃん、何してたの?>

 今は午後一時過ぎで、今日は土曜日。自宅には母と妹と僕の三人でいる。父は仕事に行っている。

 母は、家事をしていて、妹は自室で宿題をやっているようだ。

 あっちゃんからLINEがきた。

<こんにちは。数学の宿題やってたよ>

 どうやら忙しいようだ。邪魔しないようにまた、後でLINEしよう。


 時刻は午後四時前。あっちゃん、そろそろ宿題終わったかな、と思い再度LINEを送った。

<宿題お疲れ様。終わった?>

<おわったよ、どうしたの?>

<あっちゃんと遊びたいなぁと思ってLINEした>

<これからはお母さんの手伝いしなくちゃいけないの。ごめんね>

 残念……。でも、仕方ない。

<じゃあ、明日は?>

 僕は食い下がった。

<明日なら午後一時頃なら空いてるよ>

<一時頃から遊べる?>

<うん! いいよ>

<あっちゃんの家の近くにあるコンビニで待ち合わせする?>

<そうね>

 明日が楽しみ。何を着て行こうかな。夏だから涼しい格好にしよう。黄色いTシャツに、紺色のハーフパンツを用意した。


 これから何しよう? ゲームしようかな、それとも読書か。途中まで読んだ小説がある。ミステリー小説だ。でも、内容を忘れてしまったので最初から読み直すことにした。何度読んでも面白い、この作品は。


 あっちゃんも読書は好きなはずなので、古本屋に行こうと誘うかな。 彼女は何をしたいのだろう。明日会ったら訊いてみよう。


 二時間くらい読んだだろうか。文庫本なので三分の二くらいは読み進めた。サクサクよめていい。因みに、僕は電子書籍も好きだし、紙の本も好き。もっと沢山の作品を読みたいから、バイトしようかと考えている。するなら一応、親にも言わないといけないだろう。反対はされないと思うが、いちいち報告しないといけないのが面倒。未成年だから仕方ないか。


 翌日、僕はあっちゃんに今から向かう旨のLINEを送った。

<わかったよ~、私も今から行くよ>

 と、返事がきた。


 僕は自転車で目的地に行き、十五分後くらいに着いた。あっちゃんはまだ来ていない。時刻は午後一時を少し回ったところ。辺りを見渡すと彼女らしき姿が見えた。僕は嬉しくなり、手を振った。あっちゃんも僕がいることに気付いたようで、笑顔で手を振ってくれた。

 彼女が近づいて来て、

「待った?」

 言うので、

「僕も今きたところだよ」

 そう答えた。

「よかった、待たしちゃったかなと思って気になった」

「大丈夫だよ、気にしなくてもいいよ」

「ありがとう!」

「どこか行きたいところはある?」

「どこでもいいよ」

「そっか、なら古本屋に行こう? あっちゃんも本好きでしょ?」

「そうね、いこうか」

 あっちゃんも自転車で来た。


 僕が前を走り、後を追いかける形であっちゃんも走っている。爽快な風を切って僕らは走った。


 少し走って古本屋に到着した。自転車は駐車場の端の方にとめて二人して店の中に入った。

 店内は広く、沢山の本棚が並んでいた。あっちゃんは、目を輝かせている。よっぽど本が好きなのだろうな、と思った。

「僕、別なところ見てくるね」

「うん、分かった!!」

 彼女はテンションが上がっているようだ。


 約二時間近く、古本やゲームを物色した。僕は小説の古本を十冊と、ゲームのソフト三本を籠に入れた。あっちゃんが持っている籠を見ると漫画本と小説が山のように入っていた。

「誘ってくれてありがと。欲しかった本が買えたから」

「そりゃ、よかった」


 帰る頃には午後四時頃だった。時期的にもまだ暗くなるには早い。なので僕は、

「あっちゃん、お腹空かない?」

「あっ! 確かに空いたかも」

「コンビニ寄って行こう?」

「そうね」

 そうして僕らはここから近いコンビニに向かった。


 買い終わり、僕はコーヒー牛乳とパンを二つ買い物袋に入っている。彼女が買ったものはよく見えなかった。彼女は言った。

「天気がいいから河原に行こう?」

 僕は、

「そうだね、行こう!」

 と、返した。僕はあることを胸に秘めている。


 少し自転車を走らせて河原に到着した。川のせせらぎが聞こえてきた。僕らは自転車から降り、買い物袋を持って砂利が敷き詰めてある場所に行った。僕は、

「ここに座ろうか」

 言いながら買い物袋の中身を出し座った。

「うん」

 あっちゃんも座った。

「心地いいね」

「そうだね」

 二人の間に静けさが訪れた。その後、

「あの、」

「うん?」

「僕、君に伝えたいことがあるんだ」

「なに?」

 彼女は笑顔でこちらを見た。

「あの、あっちゃんは僕のことどう思ってる?」

「どうって、仲のいいお友達だと思ってる」

 お友達、か……。ぶっちゃけ、傷つきたくない。でも、この高鳴る思いを言わないと気が済まない。

 気持ちを落ち着けようと、コーヒー牛乳を飲んだ。だが、あまり変わらない。やはり、言わないと!

「僕ね、君のことが……あっちゃんのことが、す……好きなんだ」

 僕は恥ずかしくて顔を上げられなかった。

「え……? それって、本当?」

 僕は首をたてに振った。

「そう、だったんだ。全然、気付かなかった」

「だから、付き合って……欲しい」

 あっちゃんは、

「あっ、えーと……。うん、実はね、私も武志のこと……すきなんだ。さっきはお友達って言ったけど、いきなり自分の気持ちを言えないし……」

「……」

 確かにと思ったけど、僕は黙っていた。

「じゃあ、付き合ってくれるの?」

 僕は自分が赤面しながら言っていることに気付いていた。 

 あっちゃんは、

「私でよければ」

 言いながら、笑みを浮かべている。

「もちろんだよ!! ありがとう! よろしくね」

「こちらこそ」


 こうして僕らは付き合うことになった。長く続くといいなぁ。頑張ろ!


                             (終)

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